第7話 高揚
帰宅した。
父がいた。
母がブチギレていた。
「だから、親が子どもを育てるのは当たり前でしょうが!」
「おれはメアリーに一クレスも出さん!」
あー。
やってる。
父が私に気づいた。遅れて母も気づいた。
「聞いたなメアリー。おれはお前に一クレスも出さんぞ!」
「あんた、法律知ってる? 『親は、その子を育てなければならない。』ってあるよ」
私が呆れながら言うと、不意に体が軽くなった。
あ、これいかんやつや。
受け身とらな。
ドンッ。
はーい皆様こんばんは。
わたくし、ただ今壁に激突致しました。
受け身取るの苦手なんですよね〜。ははは。
「メアリー! 大丈夫?!」
「はい」
背中とお尻が痛いけれど、じきにひいてくるだろう。
「おれが稼いだ金や。おれのものや。おれが好きに使うのが当たり前や!」
「稼いだお金から、生活費と月々の貯金を引いて、残ったのを小遣いにするって約束でしょう!」
私はこそこそと寝室に逃げ込んだ。
両親が追ってくることはなかった。
ほんと、前世から家庭環境だけは変わらないなあ。
慣れたから気にしてないけど。
こんなことがあった後は、母の機嫌がすこぶる悪い。
背中とお尻は、もうほとんど痛くない。
魔力について聞くのは、機嫌がマシになってからにしよう。
私は、手を前に突き出してみた。
ミリーちゃんやウィリアムくんのようにはならない。
その時、ふと疑問に思った。
「あれ?
魔力って、なんだ?」
* * *
三日後。
母の機嫌が異常に良い。一緒に掃除をしているが、ずっと鼻歌を歌っている。
「お母さん」
「なあに?」
ほら! おかしいって! 普段こんな返答しないって!! 本当なんでこんなにご機嫌なのだ?!
兎も角、好機!
「魔力って、なんですか?」
そう。
私は、魔力を漠然と捉えていた。
前世で数々の小説や漫画やアニメに、様々な設定の魔力が登場していたというのに!
放出、制御以前の問題である。
「掃除終わらせて、ゆっくり話そうか。長くなるから」
「はい! お願いします」
残るは草抜き。私の得意分野だ。
外に出て、ちゃっちゃと抜いていく。
最後に、畑の一角にまとめて捨てて完了。
家の中に入り、手を洗って、椅子に座る。
母は私の向かいに座った。
「魔力とは、この世の全てを構成するもの。天も、地も、植物も、生き物も、建物も、光も、闇も、全部。人間の魔力は体力と似ていて、一番魔力が多いのは十代後半から二十代。増やすこともできるけれど、年をとるにつれ難しくなっていく。日々訓練をしないと減っていく。
ここまではわかる?」
「はい」
「魔力の他に、魔法と魔術も重要。
魔法は、魔力を使って何らかの現象を起こすこと。
魔術は、人間が魔力を使って何らかの現象を起こすこと」
へえ〜、魔法と魔術は違うのか。
「質問です」
「はい、なあに?」
「魔力放出はできる人とできない人がいるんですか?」
「そうだね。できない人はいくら練習してもできない。イメージが掴めないのかもね。私はできるけど、あいつはできないよ。魔力放出は、『こうしたらできる』っていう明確な方法がないからね」
オリバーくんがんばれ〜。
「魔力放出と魔力制御について教えてください」
「魔力放出は、体から魔力を外に出すこと。魔力制御は、放出する魔力の量を一定に保つこと」
面白い! 楽しい!
私は右手を前に突き出してみた。
ミリーちゃんやウィリアムくんのように。
そして、想像した。
彼らのように、手から『魔力』が出て、その空間が歪んで見えるのを。
目を閉じて、集中する。
想像する。image. 想像。imagination.
英語は動詞と名詞でアクセントの位置が違うなぁ。
体内の魔力を感じようとする。
体力と似ているらしいが、一切感じない。
体力の魔力を感じていると思い込む。
思い込みって大事って言うしね。言うっけ? ま、いいや。
手から出る。でる。でる。あなたはだんだんねむくな〜る。
目を開けた。
私の右手から、ゆらゆらと出ていた。
これが魔力か。
これを一定に………
できた。
魔力がまっすぐになった。
大きな魔力にしてみよう。
できた。歪んで見える部分が大きくなった。
小さな魔力もできた。
今は掌から円柱が出ているような感じだから、これを四角柱に……
できた。
五角柱も六角柱もできた。
楽しい!
もっと知りたい!
この気持ち、高揚って言うんだっけか。
「火も出せるんですよね? たしか、属性がありますよね? 前にちらっと話してくれましたよね? もっと教えてください!」
「だめ」
えっ?
「あとは、学校で習いなさい」
「はい」
だめか。
ショック。
理由を聞く気も起きないや。
聞いたら機嫌が激悪になる気がする。
教本ほしい。教本でなくとも、魔法についての本を読みたい。自学自習しか道はない。
となると……
「ところでお母さん、近くに図書館はありますか?」
「……、うちから歩いて一時間ちょっとのところにあるよ。家を出てすぐの道をひたすらみちなりに行くと、左手にあるよ。行くなら私か、年上の誰かと一緒に行きなさい。一人で行くのはダメ」
母は突然の話題変換に驚いていたが、教えてくれた。よかった。でも、一人で行きたい。その方が集中して読めるから。
「何歳になったら一人でいってもいいですか?」
「う〜ん、六歳かな。小学生になったら、いいよ」
あと四年くらいか。一人で行くのは我慢しよう。
「急で悪いのですが、明日一緒に行ってくださいませんか?」
母が途端に渋い顔をした。
「明日の午前中の家事を、朝八時までに全部終わらせられたらね」
「はい!」
明日は5時起きだぜウエイ!




