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第3話 憤慨と出会い

母に朗読を始めて1ヶ月。『空と大地』を読み終え、本棚にある他の本を読もうと手を伸ばしたら、母(今日はクッキーをやいていた)に止められた。


「どうしてですか?」

「……まだ早いから」

「は〜ぁい」


題名は『愛人』『復讐の旅へ』『怨憎の彼方は』など、ドロドロ恋愛系が多く見受けられる。確かに2歳の子供には少々早いだろう。


「もう食べていいよ」


オーブンから取り出し、皿の上に広げて冷ましているクッキーを指して、母が言った。


「いただきます!」


美味しい。前世の母もおやつを作ってくれるときは、たいていクッキーだった。私は自分が猫舌なのを忘れて、オーブンから出して間もないクッキーを食べてやけどしかけることがしばしばだ。

母も椅子に座って食べ始めた。


「食べ終わったら布買いに行くよ。はやく食べなさい。あいつが帰ってくる前に行かないと」

「はい」


あいつとは父のことだ。今はまた剣術の指導に行っている。帰宅は18時過ぎになるはずだ。布は、あいつがいない間に買わないと、「なに無駄なもん買っとんじゃ!」と怒り始めること確定である。

服は基本的に古着屋で母が掘り出し物を発掘してきてくれるのだが、店になかったものは縫ってくれる。そのための布だ。

つまり生活必需品、衣食住の衣にも関わらず、父はダメだと言うのである。憤慨憤慨。


さて、食べ終わったので母が食器を洗いに席を立った。

以前皿洗いを申し出たが、「まだ危ないからだめ」と言われた。何も言い返せない。まだ手が小さいので皿が持ちにくく、割ったら雷が落ちるだろう。

そのかわり、布巾で食卓を拭いた。


「行くよ」

「はい」


母が自分の鞄を取って言ったので、返事をする。

家の鍵をかけて、いざ出発。


両隣は民家だが、どちらも耳の遠いお年寄りが一人暮らしである。20分程歩くと、商店が並ぶ通りが見えてくる。


通りに出てしばらく歩くと、小さなお店が見えてきた。


「こんにちは」

「あ、ハンナ、こんにちは〜。メアリーちゃんもこんにちは」


明るめの焦茶の髪、つぶらな瞳で眼鏡を掛けた女性が奥から声をかけてきた。母の友達のエマだ。


「メアリーのワンピースを作るんだけど、おすすめの生地はある?」

「もちろん! これとかこれなんかは、綿織物の中でも柔らかい肌触りで、かつ比較的お手頃かな。あとこれは………」


エマさんと母が話している間、私は2人からあまり離れずに店内を観察する。

広くはない空間に所狭しと棚があり、様々な生地が整然と並んでいる。前世もド○ームが近くにあったので時々見に行っていたが、中学2年生の時に閉店してしまった。


「帰るから来なさい、メアリー。聞いてるの?」

「あ、はい。ごめんなさい」


いつの間にか会計まで終わっていたらしい。エマさんにお辞儀をして店を出た。


すると、店の前の道に男の子が立っていた。私と同い年くらいだろうか。店から出てきた私たちを見て、驚いた表情で固まっている。

目が合った。


「こんにちは」


挨拶をしたら、男の子は更に驚いた表情になり、緊張気味にこたえた。


「こんにちは」


「「……………」」


「お母さんは、どこにいるの?」


互いに沈黙していると、母が男の子に訊いた。

この世界は、子どもの誘拐がままあるのである。迷子ならば、かなり危険だ。


その時、背後の扉が勢いよく開いた。


「一人で外に出ないでって言ったのに! さらわれたらどうするの!? ウィリー」


エマさんが心配と怒りと安堵の表情で言いながら、男の子に駆け寄った。男の子はきまり悪そうに私から顔を背けた。


「えっと……あの……」


困惑してエマさん達を交互に見ていると、エマさんが説明してくれた。


「この子は私の息子のウィリアム。メアリーちゃんと同い年だよ」

「そうなんですか」


ん? 確かエマさんの苗字はスミス。てことは男の子の名前はウィリアム・スミス。

なんてこったい。かの有名なイギリスの地質学者と同じ名前ではないか!


私は彼を見て、言った。


「私、メアリー・ブラウン。お友達になってくれませんか?」

「え? う、うん!」


通り過ぎる人達からの微笑ましいもの見る視線を感じながら、次の休日に遊ぶ約束をした。

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