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第14話 送別

「みんな、大事な話があるの。聞いてくれる?」


年が明け、3月〈ミモザの月〉7日天曜日、ウィル達と公園へ遊びに行く途中、アリスが真剣な声で話し始めた。


「私、来月から、メイエル魔術学園に行くの。だから、みんなと遊べるのは今日が最後なの」


「えーー!!」

「会えなくなるの?」

「まじゅつがくえん?」


皆が口々に驚きと疑問の声を上げた。

私もびっくり。魔術学園があること、今知ったよ。

それに、メイエルは、私達が住んでいる地方の名前だ。それを冠するということは即ち、領主様お膝元の学園ということか!


「いつ発つんですか?」

「来週の12日風曜日の朝に出発して、14日にお世話になる伯母の家に着く予定だよ」


5出発は5日後か。

私はちらりとオリバーを見た。ぼーっとしている。心ここにあらずのようだ。可哀想に。


「魔術のべんきょうするの?」

「うん。そうだよ」

「すごい! 何をべんきょうするの?」

「国語と算術と魔術だよ。でも、特に治癒魔術かな。私のお父さんとお母さん、治癒魔術師で、治療院で働いてるの。私もそうなりたいんだ」


アイラとミリーが興味津々に食いついた。彼女は本当に好奇心旺盛だ。物怖じしないのもすごい。


「お見送り、したい!」

「ごめんね、嬉しいけど、皆が来るとちょっと大変だから………」

「いつ帰ってくるの?」

「また一緒に遊べる?」

「がっこうは?」

「えーっと、、、」


質問が沢山飛んできて、アリスは大変そうだ。治癒院ねぇ。前世では小さい頃しょっちゅう熱を出したり怪我をしていたけれど、今世はまだ一度もないからお世話になっていないなぁ。


治癒魔術師なら、かなりの高給取りになれそうだ。翻訳家になりたいけれど、魔術師も面白そうだし、安定収入だからいいな。


「というわけで、今日はとびっきり楽しませてもらうよ! さあ、はやく行こう!」


アリスが張り切った足取りで、先頭を進んでいく。

私達も、質問を続けながら進んでいく。

まだショックが抜けていないオリバーくんはなんとか歩いていたが、一番後ろを歩いていた。


その日は楽しかった。みんなで楽しんだ。

オリバーもお昼には持ち直して、「がんばれ。帰ってきた時にはまた話そうぜ、いろいろ。できれば、手紙、送ってほしい………」と、最後は消え入りそうな声だったが言っていた。


しっかり者で大人びたアリスの目は、お日様よりも眩しくキラキラと輝いていた。


「じゃ、またね!」


空が橙色から紺色へ美しいグラデーションを描いていた。

彼女はこちらをまっすぐに見つめ、笑顔で手を振っていた。


「はい! お話、聞かせてください!」

「うん!」


私は家の門の前で、遠ざかっていく皆の姿をただじっと見た。その一番前を歩く、一年前に初めて会った時よりも幾分か高くなった背を、その集団のなかで一番高い背を、殊更見つめた。


影が見えなくなる一瞬前、彼女がこちらを振り向いた気がした。星のような小さな光が、キラリと瞬いた気がした。



 * * *



アリスが出発するまでの数日間、商店街でも巡り合わなかった。


そうして迎えた地曜日、図書館に来ると、アリスの姿はなかった。

昨年七月から約9ヶ月、ここにくると大体彼女がいて、私に気づいて手を振ってくれた。

彼女の存在に安心していた自分に、今さら気づいた。

やっぱり、私はまだまだ精神年齢が発達していないらしい。アリスのように、しっかり成長しなければ。強くならなければ。


『魔法・魔術』の棚にある本は一応全部読んだが、難しい本になればなるほど理解が難しかった。文系と理系の中間、どっちも得意じゃないと難しい分野だと感じた。

私も来月で3歳になる。学校に入学するまであと3年、目標は『文学』と『歴史』の本を読破すること。これで予習もバッチリだ。


人間関係は、前世ではコミュ力が欠如していたけれど、今世では前世の友達を参考に話した結果、今のところ上手くいっているので現状維持に努めよう。

家事もできるようになって、できれば裁縫も刺繍も庭仕事も畑仕事も、身の回りのことは全部出来るようになろう。


さあ、折角図書館に来たんだから、本を読みましょう。

『文学』か『歴史』か。

うーむ選べない。

どちらにしようかな、天の神様の、言う通り〜。


『文学』と神が宣ったので、早速行ってみる。


左上から、苗字のアルファー文字の順に並んでいるようだ。一番上の棚の一番左には「ジャック・アーデン全集 Ⅰ」があった。

うん、これから始めよう。

お母さんが読んでいた本にはやく辿り着きたいが、どんな時もじっくり味わって読むのが私の流儀。


アリスみたいにしっかりしていないし、

オリバーみたいに真っ直ぐじゃないし、

トーマスやスタンリーやジョージみたいに活力に溢れていないし、

アイラやミリーやベラみたいに積極的じゃないし、

ウィルみたいに優しくないし、

そんな私でも、成長することは、きっとできるのです。読書や人付き合いや、その他いろいろな事を通して、学びを得ることは、きっとできるのです。


さしあたって今は、


読書の時間の、はじまりはじまり~。

成長の時間の、はじまりはじまり~。

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