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第12話 平和二重奏、伴奏はギリギリ

誘拐未遂事件から二ヶ月。

すっかり秋になった。ようやく皆で公園で遊ぶのが許された。


「やっと集まれたね〜! よかった」

「親父たちは心配しすぎなんだよ」


公園へ向かう途中、アリスが嬉しそうに言い、オリバーが返す。


「二人は学校でも会ってたんでしょ?」

「そうだけど、学年が違うからな…。アリスは飛び級してるから一つ上なんだよ。しかも学校は週三だから、滅多に会わないんだよ」

「そーなんだー」


アイラの質問に丁寧に答えたオリバーは、「もっと会いたいんだけどなぁ」と小声でつけたしたが、アリスには聞こえていなかった。


公園が見えてきた。

トーマスが張り切った顔になり、言った。


「よっしゃ! 勝負だ! いち、にの、――」

「「さん!」」


スタンリー、ジョージと共に全速力で走っていく。


「あ! 走らないで! 危ないよ!」


アリスの注意を無視して突っ走る三人。とうとう―


「っしゃ! オレの勝ち!」

「またかよ!」

「ゼェ、ゼェ、……、はや、すぎ、……」


一着はトーマス、二着はスタンリー、三着はジョージ。

うん。やんちゃだね。元気だね。


私たちも着いたところで、今度はミリーが茂みへと駆け出した。


「見て!」


頭に葉っぱがのっていることに気づかぬまま満面の笑みで振り返った彼女の手には………


「キャー! バッタ!!」

「あーー! バッタ!!」


アイラは逃げ、ベラは寄って行った。年子三姉妹でも反応の差は大きいらしい。


「ねえ、メアリー」

「なあに? ウィリアム」

「これ、あげる」


大小のどんぐりが二つ付いた、小さな木の枝をくれた。


「ありがとう。どこで見つけたの?」

「あそこ」


彼が指したのは、少し離れたところにあるコナラの大木だった。いつの間に行っていたのやら。


「あ、あのさ、ぼくのこと、ウィルで、いいよ」

「えっ、ほんと? ありがとう! ウィル!」

「う、うん!」


出会ってから約半年。さらに距離が近くなりました〜! ぱちぱちぱち。


「一緒にどんぐり集めようよ!」

「うん!」


私とウィルはどんぐり収集を始めた。母作の折りたたみバッグを持参したので、持ち帰って国民的料理であるどんぐり豆腐を作ろうじゃないか。この公園にはブナの木も樫の木もあるから、どんぐりの種類は豊富だ。私も良い枝を見つけて彼にあげよう。

関係ないが、折りたたみバッグの制作を提案したのは私だ。母も気に入ってくれた。父は「いらんもん作るな!」ってキレてたけど。


他の子供達もそれぞれ楽しんでいる。


幸せだ。



 * * *



お昼前。

ウィルがお手洗いに行った時に、アリスが近づいてきた。

「メアリー」

「はい、何ですか?」

「今日、ウィルの誕生日だから、お昼ご飯の前にみんなでお祝いしようと思うんだけど」

「そうなんですか! いいですね!」

「だから、私の合図で、ごにょごにょ………」

「了解しました!」


ウィルが戻ってくるのが見える。


「みんなー、ご飯食べよー!」


アリスが呼びかけて、全員ベンチに座った。


「せーのっ」

「「ウィル、三歳のお誕生日おめでとう!」」


盛大に拍手をした。ウィルは「え、え、え?」と困惑し、顔が真っ赤になっている。

近くにいた大人も数人、「おめでとう!」と言って拍手を送る。


「あり、がとう……………」


ウィルがとうとう俯いた。耳まで赤くなっている。可愛い。


「わたしとおんなじ三歳だね!」

「う、うん…………………」


ベラが弾んだ声で言ったが、今日の主役はそれどころではないらしい。今にもテーブルの下に潜りそうだ。


「えーっと、ってことは、おれとアリスが八歳、スタンリーが七歳、トーマスとジョージが六歳、アイラが五歳、ミリーが四歳、ベラとウィルが三歳、メアリーが二歳か」


オリバーが数え上げた。視線が私に向く。


「メアリーが一番年下かぁ。そうは思えねぇぜ」

「そうですか…?」


大真面目な顔で云われてもな……反応に困る。


「おれの姉ちゃんみたい」

「ねえちゃんみたい」

「そうですか……?」


スタンリーとジョージに云われたが……前世の記憶がありますからね。精神年齢は(多分あまり成長していないけれど)18歳6ヶ月ですからね。当たり前かもしれない。


わっきゃわっきゃと会話は続き、ご飯の後は夕方まで遊んで帰った。

秋の日は釣瓶落とし。帰宅した頃には辺りは薄暗くなっていた。


畑で水やりをしていた母を手伝い、家に入る。


「あいつ、王都で開催されるあの大会……、ええっと、アルカンミア剣術大会とアルカンミア格闘技大会に出場するからって、お昼前に出ていったから、暫く静かに過ごせるよ」

「よかったです」

「ということで、ただでさえあいつは碌に生活費を出さなかったのに、あいつが帰ってくるまで、完全に収入源が途絶えました。今日の午後、針子の仕事を見つけたから。仕事に時間とられるから、家事をもっとやってね。お皿洗いもやって」

「はい」


あいつ…………。やりやがったな…………。


お皿洗いさせてもらえるようになったから許そ……、ゆる……、許せんわい。


平和な数週間が訪れるから、いいか。


「お母さん、もしよければ、裁縫を教えてください」

「いいよ」

「ありがとうございます」


あっさり承諾された。何故!? 嬉しいから突っ込まないでおこう。


「道場はどうしたんでしょうか? 誰か他の人に指南をお願いしたとか?」

「さあね」


嫌な予感しかしない。


「大会はいつからですか?」

「剣術大会は十一月一日から、格闘技大会は十五日から。申し込みは大会の一週間前までに、王都にある本部でしなきゃいけない」

「ここから王都までは何日かかりますか?」

「あいつ馬車で向かったから、三日か四日だね」


今日は十月《ドングリの月》七日。四日足しても十一日。申し込みは、剣術大会は十月二十二日まで、格闘技大会は十一月八日まで。十日ほど余裕がある。


「あいつ、大会にかこつけて王都を満喫するつもりだろうね」


母の歯が軋む音が聞こえた。

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