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放課後、秘密を拾ってしまった僕はなぜか美少女たちの相談役になった件  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第77話 夏休み最初の集合は、始まる前からそれぞれの思惑がそろっていない

 集合場所に一番早く着いたのは、影山涼太だった。


 これは別に意識が高いとか、誰より真面目だとか、そういう話ではない。

 単純に落ち着かなかっただけだ。


 家を出る前から、何度もスマホで時間を確認した。

 財布は持ったか、交通系カードはあるか、課題メモは鞄に入れたか、水筒は要るか。

 そこまで必要でもない確認を三回くらいして、それでもまだ落ち着かなかった。


 今日は夏休み最初の集合日だ。

 図書館併設の大型商業施設で、課題本を見て、文房具を買って、ついでに少し休む。

 建前としては十分きれいだ。

 でも、それだけじゃないことくらいは、もう自分でも分かっている。


「……“みんなで”って便利な言葉だよな」


 駅前の広場でそう呟く。


 便利だ。

 便利だけど、最近はまったく安心できない。


 みんなで行く、の中にはたいてい“誰かが少しでも二人になる時間を狙っている”が混ざる。

 しかも今の自分の周りには、それをそれぞれ別の形でやりそうな相手が四人いる。


 みずきは露骨だ。

 ことりは静かに自然に入ってくる。

 レナは嫌そうな顔をしながら結果的に近い時間を作る。

 つばさは全部を見たうえで、一番深いところへ来る。


「……やっぱり帰りたい」


 小さく言ったところで、後ろから明るい声が飛んできた。


「影山、おはよー!」


 振り向くと、みずきだった。


 白のTシャツに薄いブルーのシャツを羽織って、下は動きやすそうなロングスカート。

 足元はスニーカーで、髪はいつもより少しだけ軽くまとめている。


 私服としては派手すぎない。

 でも、みずきらしい明るさがちゃんと出ていた。


「おまえ、朝から元気だな」


「夏休み最初の集合だよ?」


「だからってテンション上がりすぎだろ」


「上がるでしょ普通」


 そう言いながら、みずきは当然みたいに影山のすぐ横へ来る。

 距離が近い。

 でももう、そこへいちいち反応すると負ける気がした。


「早かったね」


「おまえもな」


「だって待ち合わせって早く着く派だし」


「ほんとか?」


「ほんと。……半分くらい」


「残り半分は?」


「影山より先に着きたかった」


 さらっと言う。

 しかも笑いながら。


「おまえな」


「何」


「最近ほんとに隠さないな」


「祭りのあとから方針変えたから」


 みずきはそう言ってにっと笑った。


 そのタイミングで、少し離れた方からやわらかい声がした。


「おはようございます」


 ことりだった。


 一瞬、影山は言葉を失う。


 薄いベージュのブラウスに、淡い紺のロングスカート。

 派手ではない。

 でも、全体がやわらかく整っていて、いかにもことりらしい。

 控えめなのに、見た瞬間ちゃんと目に残る。


「……おはよう」


 少し遅れて返す。


 ことりはその一瞬を見逃さなかったのか、ほんの少しだけ目元をやわらげた。


「早かったですね」


「まあ、ちょっと」


「影山、朝比奈見て一瞬止まったよね?」


 みずきが即座に言う。


「止まってない」


「止まった」


「藤宮さん」


 ことりが少しだけ困ったように言う。


「朝からそういうのは」


「だってほんとだし」


 みずきはまったく悪びれない。


 でも、その軽口の裏に“今日も私はちゃんと前へ出る”が見える。


 ことりは二人の前へ来て、小さく会釈した。


「今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ」


 そう返しながら、影山はまた思う。


 ことりは今日もやっぱり静かだ。

 けれど、その静けさの中に“ちゃんと見てほしい”みたいなものが前より少しだけある。


 前ならもっと“いつも通り”の優等生らしさで包んでいたはずなのに、今はそれが少しやわらかくなっている。


     ◆


 三人で少しだけ立ち話をしていると、次に来たのはレナだった。


 遠くから見ても、少しだけ分かる。

 “ちゃんと選んだ無難さ”だ。


 黒に近いグレーのトップス。

 細めのパンツ。

 余計な装飾はない。

 でも雑でもない。


 いかにもレナらしい。

 頑張っていないように見せながら、手を抜いてはいない。


「おはよー、レナ!」


 みずきが大きく手を振る。


「朝からうるさい」


 レナは近づきながら言った。


「でも来た」


「来るって言ったでしょ」


「言ってたけどさ」


 レナはそこでちらっと影山を見る。


「……早いね」


「おまえもな」


「別に」


 そう返しながらも、レナの視線は一瞬だけことりとみずきの並びを見た。


 たぶん、誰が先に来ていたかを確認したのだろう。

 そういうところが、最近は前より少し分かりやすい。


「黒瀬さん、今日は少し涼しそうですね」


 ことりが言う。


「まあ、人多いだろうし」


「それ、かなり“今日はちゃんと考えてきた”の言い方だよね」


 みずきが笑う。


「藤宮は黙ってて」


「はいはい」


 軽口を交わしているうちに、最後に静かな足音が近づいてきた。


「お待たせしました」


 つばさだった。


 白に近い薄灰色のシャツと、落ち着いた色のロングスカート。

 肩掛けバッグは実用的で、本が何冊か入っていそうな重みがある。

 控えめなのに、やっぱり整っている。


 そして、服の印象より先に目に入るのは、その落ち着きすぎた表情だった。


「全員そろってますね」


「白鳥ちゃん、遅かった!」


 みずきが言う。


「図書館の開館時間も確認していたので」


「そういうとこほんと真面目」


「必要なことです」


 つばさはそう言ってから、影山の方を見る。


「先輩」


「何」


「今日は開始五分で消耗してる顔です」


「やっぱりそう見えるか」


「かなり」


 レナがぼそっと言う。


「そりゃそうでしょ」


「何なんだよほんとに」


 影山がそう返すと、みずきが楽しそうに笑った。


 ことりも小さく笑う。

 つばさは相変わらず静かな顔のままだが、その目の奥には少しだけ面白がっているものがある。

 レナは表情を変えないふりをしているが、完全には冷めていない。


 つまり、始まる前からすでにかなりややこしい。


     ◆


 施設へ向かう道のりから、もう空気は平穏ではなかった。


 誰がどこに並ぶか。

 何の話をするか。

 その全部に微妙な温度差がある。


 みずきは当然のように影山の右側へ来る。

 ことりは少しだけ間を置いて左側へ自然に並ぶ。

 レナは後ろ寄り、つばさは全体が見える位置だ。


「……配置ができすぎてるだろ」


 影山が言う。


「何が?」


 みずきが聞く。


「全部」


「気のせいです」


 ことりが静かに言う。


「朝比奈、その返しあんまり気のせい感ない」


 レナが後ろから刺す。


 つばさが淡々とまとめる。


「開始十分で思惑がそろっていないのが分かりますね」


「白鳥」


「はい」


「それ今言わなくていい」


「でも本当なので」


 みずきが笑いながら言う。


「白鳥ちゃん、今日も切れ味いいなー」


「観察対象が多いので」


「対象って言うな」


 でも、その“対象”の中に自分も入っているのだろうなと影山は思う。


 施設の入り口が見えてきた。


 ここから先、本棚の間、買い物の列、休憩スペース。

 どこで誰とどう離れて、どう近づくのか。

 それはもう、なんとなく分かってしまっている。


 夏休み最初の集合は、始まる前からそれぞれの思惑がそろっていない。

 そして、その揃わなさこそが、この日をただの外出で終わらせないのだろうと、影山は入り口の自動ドアの前でかなりはっきり理解していた。

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