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放課後、秘密を拾ってしまった僕はなぜか美少女たちの相談役になった件  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第68話 放課後が家の中へ入り込んだ日、僕たちの距離感はもう“ただの相談”では戻れなくなる

 白鳥つばさが入ってきたことで、影山の部屋の空気はようやく完成した。


 朝比奈ことり。

 藤宮みずき。

 黒瀬レナ。

 白鳥つばさ。


 そして影山涼太。


 教室ではもう珍しくなくなってきた顔ぶれ。

 祭りの夜にも、それぞれと時間を持った相手たち。

 でも、こうして同じ部屋の中へ全員そろうと、やっぱり意味が違う。


「おじゃまします」


 つばさはいつもの落ち着いた調子で入ってきた。

 だが、部屋へ一歩踏み込んだ瞬間、その目がわずかに動いたのを影山は見逃さなかった。


 観察している。

 やっぱりこの後輩はそこから始まる。


「こんにちは」


 ことりが言う。


「こんにちは」


 つばさが返す。


 みずきはすぐに声を上げた。


「白鳥ちゃん、遅い!」


「図書室の本を戻してきました」


「えらい」


「それほどでも」


 レナが壁際の席からぼそっと言う。


「そこだけはほんとに後輩っぽい」


「“そこだけ”は余計です」


 つばさはそう返しながら、部屋の中をもう一度だけ見る。

 そして影山の方へ向いて、静かに言った。


「先輩の部屋、思っていたよりかなり整ってますね」


「それ、みんな同じこと言うな」


「事実なので」


 その“事実なので”に、みずきが笑う。


「白鳥ちゃん、やっぱりそこ使うんだ」


「便利なので」


 そしてつばさは、空いている席へ自然に座った。

 場所取りがうまい。

 ことりとみずきとレナの空気を壊さず、でも自分が完全に外へ出ない位置。


 その絶妙さに、影山は心の中でため息をつく。


「……これで全員か」


 思わず漏れる。


「何その言い方」


 みずきが言う。


「いや、ほんとに全員そろうんだなって」


「そりゃ呼ばれたら来るでしょ」


「呼ばれたっていうか、半分流れで決まっただけだけど」


「でも断らなかったのは先輩です」


 つばさが静かに補足する。


 ことりも少しだけうなずく。


「そうですね」


 レナは視線を逸らしながら言う。


「そこ否定できないのが一番面倒」


 影山は本気で反論しづらかった。


 たしかにそうだ。

 流れはあった。

 でも、最終的に部屋へ入れると決めたのは自分だ。


 それを認めるのが、まだ少し落ち着かない。


     ◆


 勉強会は、いちおうちゃんと進んだ。


 少なくとも最初の一時間くらいは、かなりちゃんとしていたと思う。


 ことりが全体を整理し、つばさが資料を補足し、レナが細かい抜けを拾い、みずきが集中力を切らしそうになるたびに話題を動かす。

 影山はその真ん中で、説明したり、まとめたり、必要なものを取りに立ったりしていた。


「ここ、たぶん先に表を作った方が早いです」


 つばさが言う。


「そうですね」


 ことりがうなずく。


「じゃあ私書く!」


 みずきが勢いよく言う。


「藤宮さん、タイトルだけは丁寧にお願いします」


「白鳥ちゃんそれどういう意味」


「そのままです」


 レナが小さく笑った。


「たしかに」


「黒瀬まで!」


 そのやり取りを見ながら、影山は少しだけ思う。


 この五人の空気は、教室とも祭りともまた違う。


 学校では周囲の目がある。

 祭りでは非日常の熱がある。

 でもここは違う。


 部屋の中には、自分たちの会話だけがある。

 外のざわつきが薄くて、一つ一つのやり取りがそのまま残る。


 だから、ただの課題整理ですら少しだけ近くなるのだろう。


     ◆


 途中で休憩を入れた時、みずきが真っ先にソファ代わりのラグの上へ転がった。


「疲れたー」


「まだ終わってない」


 影山が言う。


「分かってるよ。でもちょっとだけ休憩」


 ことりは苦笑しながらコップを持つ。

 つばさはノートの端を見直している。

 レナは静かな顔で窓際の外を見ていた。


 その全部が、この部屋の中では妙に自然だった。


「影山」


 みずきが床から見上げる。


「何」


「こういうの、ちょっといいね」


「またそれか」


「だってほんとに」


 その言い方は、祭りの時にも少し似ていた。

 “こういうの”という曖昧な言葉の中へ、本音をかなり混ぜてくる。


 ことりも静かに言う。


「私も、少し分かります」


 レナは少し遅れてぼそっと足す。


「……落ち着くし」


 つばさはそれを聞いて、少しだけやわらかく笑った。


「学校でも祭りでもないですからね」


「だから?」


 影山が聞く。


「ごまかしがききにくいんです」


 その一言が、部屋の空気を一瞬だけ止めた。


 みずきが寝転んだまま「うわ」と小さく言う。

 ことりは目を伏せる。

 レナはわずかに眉を寄せる。


 影山はそこで、本気でこの後輩の言葉選びは危ないと思った。


「白鳥」


「はい」


「たまに本質に最短で来るのやめろ」


「でも本当ですよ」


 つばさは静かに続ける。


「学校では、相談とか委員とか授業とか、いろんな理由があります」


「うん」


「祭りには、祭りだからという特別さがありました」


「……」


「でも、今はただ同じ部屋にいて、同じ時間を過ごしてるだけです」


 その通りだった。


 課題はある。

 資料もある。

 でも、それだけでは説明しきれないものが、この部屋にはすでにある。


 ことりが静かに言う。


「だから、少しだけ緊張するんでしょうか」


「それもあると思います」


 つばさがうなずく。


 みずきはラグの上で上半身だけ起こして笑った。


「でも、私はこういうの嫌いじゃないなー」


「知ってる」


 レナが言う。


「藤宮はこういう“ちょっと距離近い空間”好きそう」


「好きだよ」


 みずきがあっさり認める。

 その潔さに、影山はまた少し頭を抱えたくなった。


「……おまえ、ほんとにそういうとこだな」


「何」


「普通に言う」


「最近はそうするって決めたから」


 祭りのあとからのみずきは、たしかにそうだ。

 冗談っぽく隠しきらない。

 だから余計に、部屋の中だと響く。


     ◆


 夕方が近づくころには、課題はかなり片づいていた。


 完全ではない。

 でも、集まった意味は十分ある程度には進んだ。


「ちゃんと勉強会になったね」


 みずきが言う。


「途中までは不安だったけど」


 レナが返す。


「私は最初からそこまで疑ってませんでした」


 ことりが言う。


「私は半分だけ疑ってました」


 つばさが淡々と補足する。


「どっちなんだよ」


 影山が言うと、つばさは少しだけ笑った。


「半分は課題、半分は空気の確認だと思っていたので」


「やっぱり観察してるじゃん」


 みずきが言う。


「でももう、外側からではないです」


 つばさの返しは静かだった。

 でも、そこにためらいはなかった。


 その一言に、ことりもレナも、少しだけ黙る。

 みずきだけが「うわー、白鳥ちゃん今日も強い」と笑った。


 影山は机の上のプリントを重ねながら、ふと自分の胸の内を確かめる。


 この部屋に、四人がいた。

 ことりが自然にノートを広げ、みずきが騒ぎ、レナが静かな場所へなじみ、つばさが淡々と全体を見ていた。


 それを、自分は嫌じゃなかった。

 面倒だとは思う。

 落ち着かないとも思う。

 でも、ただ追い返したいとは一度も思わなかった。


 そこが、いちばん大きい。


     ◆


 帰る時間になって、玄関でそれぞれが靴を履く。


 ことりが静かに会釈する。

 みずきが「また来てもいい?」と軽口半分で言う。

 レナは「次は別に来る前提じゃないから」と言いながら、今日の時間自体は否定しない。

 つばさは最後に立ち止まって、影山を見た。


「先輩」


「何」


「今日で、たぶんかなり変わりましたね」


 その言葉に、影山は少しだけ苦笑する。


「何が」


「距離感です」


 つばさは静かに言う。


「学校でも祭りでもない場所で、ここまで普通に一緒にいられたので」


 ことりがその言葉を受けて、小さくうなずいた。


「たしかに」


「うん、分かる」


 みずきも言う。


 レナは少しだけ視線を逸らしながらも、否定はしなかった。


 放課後が家の中へ入り込んだ日、僕たちの距離感はもう“ただの相談”では戻れなくなる。


 もし、その言葉を今ここで誰かに言われたら、たぶん影山は否定できない。


 相談相手。

 クラスメイト。

 委員仲間。

 図書室の後輩。


 そういう肩書きはまだ残っている。

 でも、それだけではもう足りない。


「……また学校でな」


 影山が言うと、四人はそれぞれ違う温度でうなずいた。


 ことりはやわらかく。

 みずきは明るく。

 レナはぶっきらぼうに。

 つばさは静かに。


 ドアが閉まって、一人になった部屋の中に、さっきまでの空気だけがまだ少し残っている。


 影山は玄関に立ったまま、小さく息を吐いた。


「……ほんとに、教室の中だけじゃなくなったな」


 それは、かなり正直な独り言だった。


 放課後はもう、教室の中だけに収まらなくなっていた。

 そしてその変化を、自分はもう後戻りできないところまで受け入れ始めている。


 面倒で、落ち着かなくて、でもたぶん少しだけうれしい。

 そんな、いちばん認めたくない本音ごと。

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