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放課後、秘密を拾ってしまった僕はなぜか美少女たちの相談役になった件  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第66話 元気系女子は他人の家に入った瞬間から、テンションと距離感の調整が雑になる

 藤宮みずきは、玄関が開いた瞬間に二つのことを理解した。


 一つ目。

 影山の部屋は、想像以上にちゃんとしている。


 二つ目。

 朝比奈ことりが、自分より先にこの空間へ入っている。


「おじゃまします!」


 とりあえず元気よく言って上がり込みながら、みずきは靴を脱ぐ。

 口調は明るい。

 表情も明るい。

 でも頭の中はけっこう忙しかった。


 まず、部屋がちゃんとしている。

 ちゃんとしすぎている。

 玄関に変な靴の散らかりがない。

 床がきれい。

 空気が変な男子臭さで濁っていない。

 しかも机にはもう資料が広げられている。


「……え、ほんとにちゃんとしてる」


 思わず本音が漏れた。


「だから言っただろ、普通だって」


 影山が言う。


「いや、これは普通って言わない!」


 みずきは部屋の中央に立ったまま、きょろきょろ見回した。


「キッチンある! 冷蔵庫ある! ちゃんと生活してる!」


「一人暮らしなんだから当たり前だろ」


「いやでも、なんかもっと男子の一人暮らしって雑なイメージあったもん」


「失礼だな」


 ことりが机のところから少しだけ笑う。


「私も少し驚きました」


「だよね!?」


 みずきはすぐにことりへ乗る。


「朝比奈もそう思うよね!?」


「はい。かなり整ってます」


「でしょー!」


 それなのに、なぜか自分が少し出遅れた気がするのは、ことりがすでにここで一度“驚き”を済ませているからだろう。


 その事実が、地味に効く。


「藤宮」


 影山が言う。


「何」


「立ったまま全部実況するな」


「だって気になるじゃん!」


「分かるけど」


「机きれい! 本棚もちゃんとしてる! うわ、彼氏力高っ」


「その言い方やめろ」


 みずきはそこでにやっとした。


 やっぱり反応してくれる。

 その反応が少しうれしい。


     ◆


「で、ここ座っていいの?」


 みずきが聞くと、影山は机の空いている場所を指した。


「そこ」


「朝比奈の隣?」


「他にどこがあるんだよ」


 たしかに、今の配置だとそうなる。


 机の向こう側にことり。

 その横へみずき。

 影山は反対側。


 みずきは少しだけ“うーん”と思いながらも、素直に座った。


「こんにちは」


 ことりが静かに言う。


「こんにちはー」


 みずきは明るく返しながら、横目でことりを見る。


 ことりはもうこの空間へ少しなじんでいる。

 グラスを持つ手も落ち着いていて、机の上のプリントもきれいに整っている。


 くやしい。

 かなりくやしい。


 でも、そのくやしさをそのまま顔へ出すほど子どもでもない。


「ねえ朝比奈」


「はい」


「どれくらい前に来たの?」


「少しだけです」


「少しってどれくらい」


「藤宮さんが来る前、です」


「それは分かる!」


 みずきが思わず笑うと、ことりも少しだけ笑った。


 こういうやり取りができるのは、たぶん悪くない。

 でも、穏やかにできるからこそ余計に火花が細かい。


「で、何してたの?」


 みずきが聞く。


「課題を少し」


「だけ?」


 ことりはほんの少しだけ言葉に詰まった。

 その一拍を、みずきは見逃さない。


「へえ」


「……それ以外も、少しだけ」


 ことりが答える。


「ほら!」


 みずきが影山を見る。


「何が」


「ちゃんと二人時間あったじゃん」


「別にそういう言い方する必要ないだろ」


「必要あるよ、私の気持ち的に」


 その“気持ち的に”が、今のみずきにはかなり本音寄りだった。


 影山が少しだけ困った顔をする。

 ことりは静かな顔のままだが、耳が少し赤い。


 みずきはそこで、急に少しだけ落ち着く。


 そうだ。

 今この部屋で一番危ないのは、勢いで雑になることだ。

 ただ騒ぐだけだと、ことりの“静かな強さ”に負ける。


 だから今日は、騒ぎつつもちゃんと居場所を取る。


「よし」


「何がよしなんだよ」


 影山が聞く。


「私も今からちゃんとこの空間になじむ」


「宣言することか?」


「大事」


     ◆


 みずきはそう言った直後、キッチンの方を見た。


「ねえ」


「何」


「冷蔵庫見ていい?」


「だめ」


「即答!」


「当たり前だろ」


「じゃあキッチンだけ」


「なんで段階踏むんだよ」


 みずきが笑いながら立ち上がりかけると、影山が本気で止める。


「座れ」


「えー」


「課題やるんだろ」


「やるよ、でもさ」


 みずきはキッチンを指して言った。


「男子の一人暮らしの生活圏ってイベントじゃん」


「意味分からん」


「分かるよー」


 思わずそう言ったのは、意外にもことりだった。

 言ってから、自分で少し驚いたように目を瞬く。


「朝比奈?」


 みずきが聞く。


「いえ、その……」


 ことりは少しだけ視線を落とした。


「私も少しだけ、気になります」


「ほら!」


 みずきが勢いよく言う。


「朝比奈だってそうじゃん!」


「だからって今見る必要はないだろ!」


 影山のツッコミが少し強くなる。

 でも、その強さの中に本気の拒絶はない。


 みずきはそこを感じ取って、少しだけ笑い方を変えた。


「じゃあ今日は見ない」


「今日は、って何だ」


「未来の可能性を残しただけ」


「残すな」


 そのやり取りに、ことりが小さく吹き出した。

 さっきまでの静かな空気が、みずきの登場で一気にドタバタへ振れたのが分かる。


 それはそれで、たぶん今のこの部屋には必要な変化だった。


     ◆


 しばらくして、みずきはようやく席についてプリントを広げた。


「で、どこから?」


「ここ」


 影山が資料を指す。

 ことりがすでに要点を書き出してある部分だ。


「うわ、朝比奈きれい」


「ありがとうございます」


「字まで優等生だなあ」


「藤宮さんは、勢いがありますね」


「褒めてる?」


「半分くらいは」


「その半分率なんなの」


 言いながら、みずきはノートへ書き始める。

 意外と字はちゃんとしている。

 ただ、行間が少し詰まりがちだ。


「そこ、もう少し空けた方が見やすいぞ」


 影山が言うと、みずきは「うわ、先生」と笑った。


「先生じゃない」


「でも今の言い方ちょっとそれっぽかった」


「課題整理会なんだから当たり前だろ」


「うわー、影山がちゃんと勉強会してる」


「なんだその感想」


 でも実際、最初の十分くらいは本当にただの課題整理会だった。


 ことりが整理し、影山が補足し、みずきが勢いで書き込みつつもちゃんと理解する。

 三人だけなら、意外なくらい回る。


 そのことが、みずきには少しだけ悔しくもあった。

 悔しいというより、変に“家庭感”が出てしまうのが危ない。


 この部屋で、ことりは静かに馴染みすぎる。

 そして影山も、その空気に対して不自然に構えない。


「……朝比奈ってさ」


 みずきがぽつりと言う。


「はい」


「こういう場所、似合うね」


 ことりが少しだけ目を丸くした。


「え?」


「なんか、変に落ち着いてる」


 それはたぶん、みずきなりの本音だった。


 意地悪ではない。

 でも少しだけ悔しさが混ざっている。


 ことりは一瞬だけ言葉を探して、それから静かに返した。


「藤宮さんは、こういう場所でも空気を動かせるのがすごいと思います」


「何それ」


「本当です。私はたぶん、静かにしすぎるので」


「でもその静かさが強いんだよなあ」


 みずきが笑って言うと、ことりは少しだけ困ったように笑った。


 影山はそのやり取りを聞きながら、頭を抱えたくなる。


 今の会話は、表面上は穏やかだ。

 でも内側ではちゃんと互いを意識している。

 それが、この部屋という空間だと余計に見えやすい。


     ◆


 インターホンが鳴ったのは、その少し後だった。


 みずきがぱっと顔を上げる。


「来た?」


「たぶんな」


 影山が立ち上がる。


「黒瀬かな」


 ことりが言う。


「だろうね」


 みずきが答える。


 影山が玄関へ向かう。

 ドアを開けると、そこには予想通りレナが立っていた。


「……こんにちは」


 レナは少しだけ不機嫌そうな顔で言う。


「おう」


「やっぱ来なきゃよかったかも」


「なら帰るか?」


「帰らない」


 即答だった。


 そのやり取りだけで、影山は少しだけ笑いそうになる。


 みずきが来て空気は一気に変わった。

 そして次は、レナが入ることでまた別の方向へ落ち着いていくのだろう。


 元気系女子は他人の家に入った瞬間から、テンションと距離感の調整が雑になる。

 でもその雑さが、この部屋の空気を動かす大きな役割を果たしているのも事実だった。

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