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放課後、秘密を拾ってしまった僕はなぜか美少女たちの相談役になった件  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第51話 元気系女子は祭りのあとほど、冗談のふりで本音を隠せなくなる

 藤宮みずきは、祭りの翌朝がこんなに落ち着かないものだとは思っていなかった。


 祭りの当日がそわそわするのは分かる。

 服を選んで、髪を整えて、会場へ行って、誰とどこで会うかを気にして。

 そういう“始まる前”の緊張は、まだ処理しやすい。


 でも、終わったあとの方が厄介だ。


 思い出が残る。

 しかも細かいところばかり残る。


 私服を見て、影山が少し止まったこと。

 似合ってる、と普通に言われたこと。

 人混みで腕を引かれたこと。

 焼きそばの列で、真正面から本音を受け止められたこと。


 ――そんなふうに思ってるなら、最初から言えばよかっただろ。


 あの一言が、翌朝になってもまだ心臓に悪い。


「うわー……」


 ベッドの上で枕を抱えながら、みずきは低くうめいた。


 これだ。

 これが一番困る。


 祭りの最中は勢いでどうにかなっていた。

 人も多いし、音もあるし、多少顔が赤くなってもごまかせる。

 でも朝の自分の部屋で思い出すと、全部が妙に鮮明になる。


「なんで普通に言うかなあ、あの人……」


 困った顔はする。

 少し視線も逸らす。

 でも、逃げない。


 それが影山涼太だと最近は分かってきた。

 分かってきたからこそ、余計に効く。


 みずきは枕へ顔を埋めたまま、少しだけ笑う。


 うれしかった。

 かなりうれしかった。


 だってあれはつまり、自分の本音を軽く流さなかったということだ。

 “みんなで行こう”の裏にあった気持ちを、ちゃんと拾ってくれた。


 それだけで、祭りの夜の意味がかなり変わる。


「……だめだ、今日たぶんちょっと機嫌いい」


 そう呟いて、みずきはようやく起き上がった。


     ◆


 学校へ向かう道でも、思い出すのはやっぱり祭りの夜だった。


 駅までの道。

 人混み。

 屋台の灯り。

 その中で少しだけ二人になれた時間。


 みずきは自分がもともと“勢いで押していくタイプ”だと分かっている。

 考えるより先に言ってしまうし、言ったあとで恥ずかしくなって騒ぐことも多い。


 でも今回は少し違った。


 ちゃんと本音を言った。

 しかも、かなり自覚したうえで。


 私だって今日、ちゃんと一緒にいたいんだけど。


 あれを口にした時点で、もう“ただの冗談”ではなかった。

 なのに影山は、それを冗談へ戻さなかった。


「……そりゃ、引きずるよね」


 駅の改札を抜けながら、小さく呟く。


 周りから見れば、たぶん今日は少し機嫌のいい普通の女子高生だろう。

 でも中身は全然普通じゃない。

 ずっと同じ言葉を反芻している。


 最初から言えばよかった。


 あれは、ただの返しではない。

 次からはそうしろよ、という意味も含んでいる気がした。

 少なくとも、みずきにはそう聞こえた。


 だとしたら次は。

 次があるなら。

 ほんとうに、もっと最初から行ってもいいのだろうか。


「……うわ、考えたくない。けど考える」


 自分でも面倒だと思う。

 でも、そういう面倒さが嫌いじゃない自分ももういた。


     ◆


 教室へ入ると、影山はもう来ていた。


 いつもの席。

 いつものノート。

 いつもの、少しだけ地味で整った朝の空気。


 なのに、祭りの夜を一度挟んだだけで、その“いつも”が少し違って見える。


「おはよ、影山!」


 いつもより少しだけ明るく声をかける。


 影山が顔を上げる。


「おはよう」


 返ってくる声も、見た目はいつも通りだ。

 でもみずきには分かる。


 あっちも、昨夜のことをまるごと忘れているわけではない。


「今日のお弁当なに」


 ほぼ反射みたいに聞く。

 でもこの“いつもの入口”が、今はちょっとありがたい。


「朝からそれか」


「大事だから」


「今日は唐揚げ」


「うわ、強」


「何がだよ」


「月曜から唐揚げってテンション上がるじゃん」


 そう言いながら、みずきは自分の席に鞄を置いた。


 ちらっとことりの方を見ると、ことりも今日は少しだけ顔がやわらかい。

 なるほど、あっちもあっちで祭りの余韻を引きずっているのだろう。


 レナは窓際で頬杖をついているが、目元がいつもより少しだけ丸い。

 たぶん寝不足ではなく、単純にいろいろ考えていた顔だ。


 みずきはそこで思う。


 昨夜の祭りは、たぶん全員に何かを残したのだ。

 誰も告白していない。

 誰とも付き合っていない。

 でも、空気だけはもう一段階進んだ。


「影山」


「何だよ」


「祭り、筋肉痛になってない?」


「ならないだろ」


「えー、歩いたじゃん」


「おまえはどんな祭りの回り方したんだよ」


「楽しい方重視」


「知ってる」


 その“知ってる”が、妙に近い。


 みずきは少しだけ笑ってしまう。


 やっぱり、祭りのあとで会話のテンポが少しだけ変わっている。

 劇的ではない。

 でも、自分には分かるくらいには。


     ◆


 昼休み、みずきはわざと影山の席の近くへ行った。


 いつも通り、みたいな顔をして。

 でも内心では、“いつも通りじゃない会話”ができるかを少しだけ試している。


「影山」


「ん?」


「昨日のことだけど」


 その一言で、影山が少しだけ止まる。


 やっぱり。

 昨日のことを切り出されると、ちゃんと意識する顔になる。


「何」


「金魚すくい、惜しかったよね」


「そこかよ」


 影山が少し呆れた顔をする。

 みずきは吹き出した。


「何その顔」


「昨日のことって言うから、もっと別の話かと」


「えー、何想像したの?」


「想像してない」


「してたじゃん今」


「してないって」


 そのやり取りが、楽しい。

 今までより少しだけ、楽しい。


 祭りの夜を一度通ったあとだから、軽口の中に少しだけ別の意味が混ざる。

 それをお互い、なんとなく知っている。


「でも」


 みずきは少しだけ声を落とした。


「昨日、楽しかったよ」


 影山が視線をこちらへ向ける。


「……ああ」


「ちゃんと」


「うん」


「ありがとね」


 そう言うと、影山はほんの少しだけ目を細めた。


「別に礼言われることしたか?」


「したよ」


 みずきは即答した。


「ちゃんと来てくれたし、ちゃんと話もしたし」


「……そうか」


「うん」


 短いやり取り。

 でも、その“そうか”の中に、影山なりの照れみたいなものが混ざっているのが分かる。


 そこがもう、前より少しだけ読めるようになってきた。


「藤宮さん」


 ことりが近づいてくる。


「ん?」


「今日はずいぶん機嫌がいいですね」


「そう?」


「かなり」


 ことりの声はやわらかい。

 でも、その中に少しだけ“分かっていますよ”が混ざっている。


「朝比奈もでしょ」


 みずきが返すと、ことりは少しだけ笑った。


「否定はしません」


「うわー、素直」


「今日はそういう日なのかもしれません」


 その会話の横で、レナがぼそっと言う。


「祭りの翌日って、みんな分かりやすい」


「黒瀬もね」


 みずきが言うと、レナは少しだけ顔をしかめる。


「私は別に」


「出た」


「でも、いつもよりちょっと静かですね」


 つばさが図書室帰りに教室へ入ってきて、さらっと追撃した。


「白鳥ちゃんまで!」


「事実なので」


 その“事実なので”が、最近はかなり便利に使われている。


 でも、それが言えるくらいには、みんな同じ空気を感じているのだろう。


     ◆


 放課後、みずきは部活へ向かう前にもう一度だけ影山へ声をかけた。


「影山」


「何」


「昨日のさ」


「また昨日か」


「大事だから」


 そう言うと、影山は小さくため息をつきながらも、ちゃんとこちらを見る。


「最初から言えばよかった、ってやつ」


「……ああ」


 やっぱり覚えている。

 そこが少しうれしい。


 みずきは鞄の紐を握り直しながら、少しだけ笑った。


「じゃあ次は、ちゃんと最初から言うかも」


 言ってしまったあとで、少しだけ心臓が跳ねる。


 でも、もう前みたいに全部を冗談へ逃がしたくはなかった。


 影山は一瞬だけ黙る。

 それから、少しだけ困ったように言った。


「……予告するな」


「何で」


「心の準備がいるだろ」


 その返しが、みずきにはかなり効いた。


「うわ、何それ」


「何が」


「それ、だいぶ受ける前提じゃん」


「そういう意味じゃない」


「でも逃げるなとも言ってないよね?」


「おまえ、ほんとそういうとこだな」


 影山が本気で言う。

 でも、その本気の中に少しだけ笑いが混ざっているのが分かる。


 みずきはその顔を見て、にやっとした。


「じゃあ、次もがんばるね」


「何をだよ」


「いろいろ!」


 それだけ言って、部活へ向かって走り出す。


 廊下を曲がる直前、みずきは自分の頬がかなりゆるんでいることに気づいた。


 祭りのあとほど、冗談のふりで本音を隠せなくなる。

 たぶん今の自分はまさにそれだ。


 でも、もうそれでいい気もしていた。


 ちゃんと届くなら。

 ちゃんと受け取られるなら。

 少しくらい分かりやすくても、悪くない。


 祭りの夜を越えたあと、みずきの中の“冗談っぽい好き”は、もう少しだけ本当の方へ寄り始めていた。

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