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 彼は心の赴くまま書いていた。物語を。望むままに自由に。

 部屋にひきこもりはしなかった。適度に社会との交友はしていた。必要な程度に。

むしろ、物語のネタ探し程度にはなると思っていた。ポジティブに捉えて。

 エアコンの下のテーブルの上で書いていた。執筆する場所として。書いた物語をデジタル化するために。パソコンの近くで書いていた。

 しかし、それでも悩みはあった。お題を使って書いている。どのように扱えばいいのか。それで悩んでいた。

ある意味では贅沢な悩みだと言えるだろう。書いている者であるがゆえに。

 彼が見ている風景。それを物語の中で再現していく。文字の世界の中で。共感する者はいるのかは分からない。ただ書いているだけなのだから。

 普通とは一体なんだというのか。一般人が決めた普通というのは。彼にとっては物語を書くことが普通なのである。だが、一般人は彼のことをどう見ているのか。普通だとは思っていない。異端だと思っている。むしろ、自分たちの日常に溶け込まないどころか、物語の中に書かれてしまうのではないかと、怯えていた。勝手にである。彼のことを少数派と見ていた。

だからといって、関わるのを止めていない。彼に任せることができるのは任せていた。そして、彼は物語を書きながらも、必要な程度の交流を取っていたのである。

 彼が書く物語というのは、重いものが常であった。どうしても重くなってしまう。だから、開き直ったのだ。

ライトノベル作家ならぬ、ヘビーノベルのアマチュア作家として。彼にとっては事実そうなのだから。

 受けが悪い。内容が重い。どのような感想を書けばいいのか分からない。だが、それでも彼は構わなかった。ただ、書き続けること。文章を紙に書き連ねること。それが楽しかったのだから。負担を感じることは無かった。

 書いている内容とは無関係な音楽が頭の中を流れることがあった。イヤーワーム現象と呼ばれているものである。その曲に流されることなく、抗うように彼は物語を筆が赴くままに書き出していく。丁寧さは無い。走り書きである。どうせデジタル化するのだから、彼だけが読めればいいのだから。

 お題を書き写したメモアプリを、パソコンのモニターの明かりを見ながら書いていく。お題を消費していくたびに、バックスペースを押していく。長いお題もあれば短いお題もある。消していく瞬間が楽しみなところもあるだろう。

 彼の人生というのは普通の人の人生とは異なっている。当たり前が当たり前でないのだ。個別では異なるとしても。大枠においては違う。片親育ちである。だが、それがなんだというのか。

彼はそのことを気にしていない。あるいはできないのかもしれない。だからこそ、物語を書くことに没頭できるのだろう。ストッパーが壊れている。そう知らぬ者は揶揄うのかもしれないが。

 しかし、その揶揄いは彼の書く物語に吸収されることになる。そして反映されていく。そのことを理解していないのかもしれない。それがどんなことかをイメージできないのかもしれない。

 彼がミステリーを書いたとしたら、殺人事件の被害者になりかねないのかもしれない。モデルにして。

 あらゆる物語の被害者として書かれている。同一のモデルとして。使われてしまうことの恐怖。使うがゆえのライン。それを活用していくのだ。ギリギリのラインを攻めて。ただし超えないようにして。

 そのようにして彼は書いていくのだろう。揶揄いすらもカウンターとして用いていく。時間差の。

 相手は忘れた頃に気づくのかもしれない。自分がモデルにされたことに。けれども、時すでに遅しである。

 少数派を相手にするしたことによるしっぺ返しなのだから。ただ使われる覚悟が無かっただけである。

 彼はこれからも物語を書いていく。ペンを紙に走らせて。それをパソコンでデジタル化させてーー。

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