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 彼は戻ることは無いだろう。病気のせいで、フルタイムでは働けなくなったのだから。

 彼の働きというのは地味なものだった。けれども、縁の下の力持ちということわざがあるように、人知れず支えていたのである。

 迷うことなく彼は淡々と業務をこなす。それが当たり前になっていた。周囲もそのことを実感していた。むしろ、甘えていたところもあるだろう。

 一時期、業務が増加することがあった。それでも彼は働いていた。しかし、それは詰めが甘い部分があった。

なぜならば、肝心の彼に情報が共有されていなかったのである。当事者である彼に相談せずに負担を増やして。

しかし、その状態は長続きしなかった。相談が無かったことが伝わり、増加分は無くなったのである。一時の安寧であった。

 それからの数年は穏やかなものであった。だが、転機というのは、予期せぬことを好むのだろう。

彼を襲ったコロナウイルス。一度目は何ともなく復帰できた。後遺症も残らずに。しかし、二度目の感染は、後遺症を残したのである。

死への希求。それを残して。何のきっかけもなく。急に死にたくなったのである。彼自身なぜなのか分からなかった。

日ごとに増していく死への希求。彼は限界を感じていた。そして、自分が病人であることを認めたのである。

死への希求は、外から分かるものではない。外面的なものでは無いのだ。内面的なもの。つまり精神的なものである。

 最初の精神科では、神経症と診断された。すなわち、ノイローゼである。休職を経て復帰した。だが、かつての安寧を彼に求める者がいた。

しかし、その者の願いは叶うことは無かった。二度目の休職の引き金を引くことになったのである。

 新たに、別の精神科を受診し、うつ病の診断を経て、夏の時期に復帰した。彼は別の部署に移動することになった。以前の日数通りには働けない。けれども、彼にとっては、それは都合が良かった。新たな部署での働き。そこで彼は彼なりの工夫をしながら働いていった。

周りからは分からない彼なりの工夫。けれども、彼の働きによって、その部署は安寧を得ていた。

 しかしながら、彼は仕事をこなすスピードが早かった。二時間のうち、一時間半で業務を片付けてしまったのである。

やれる仕事は片っ端からこなしていき、仕事が無い状態を作り出してしまったのである。なんとか見つけては片付けていく。大小関係なく。目立たない場所のほこりを見つけてはアルコールスプレーを染み込ませたペーパータオルで拭いていく。上も下も関係なく。消毒していくのだ。

 彼の働き方というのは地味なものである。しかし、縁の下の力持ちでもある。仕事を探して片付ける。今までの働き方というのは、もはやできなくなっている。週五日のフルタイムでの働きは。今の週四日の二時間。それによって、彼の精神は安定しているのである。

 かつて彼がこなしていた業務は膨大なもの。1人ではこなしきれずに2人でこなしている。でなければ、倒れてしまいそうだから。彼の不在の影響は大きいのだろう。彼の働き方は異常量だったのだから。

 彼の不在。それはある人曰く地獄だったそうだ。彼の支えは地味だとしても、土台を安定させていたことの証左であった。

 今の彼は安定しているのだろう。その安定がずっと続くといいのだがーー。

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