冬の路地
冬の路地でまた会おう。そう言って彼は去っていった。冬の路地には扉が開く。その時期にしか現れない扉が
その先にあるのは、なんだろうか。不思議と冒険心がくすぐられる。その扉を開けてみたい。しかし、今は春。冬にならない限り、彼は現れないのだから。
というか、彼は人間なんだろうか。春になれば去っていき、夏も秋にも現れない。冬だけに現れる不思議な存在である。
冬だけに現れる旅人のような人。それが彼なのである。彼はいつも笑顔で、やさしい人として、みんなに慕われている。特に子供たちから。
旅の話を良く聞かせてくれる。見知らぬ土地のことを。なぜかいつも冬のことを話してくれる。それ以外の季節のことを聞いても、はぐらかされてしまうけども。
ある子が彼にバレないように、春が訪れる前に付いていったが、すぐにバレて家に帰されてしまった。その子は両親から怒られてしまった。心配をかけさせてしまったから。
遠くの土地のことを彼を通して知ることができる。それは冬の楽しみの1つなのである。
凍った海に住んでいる動物たちのことや、雪を使って、生活に取り入れている人たちなど、様々な話を彼からみんな聞いていた。ある人が彼の話をまとめて本にしようとした。熱心に聞いていて、彼に質問したりして話し合っていたのを今でも思い出す。聞いていた当時は、謎の会話のようだったけども。
その本は「冬の彼との会話」という形で、町の図書館に置かれている。各地の冬の名所が書かれていて、いつか行ってみたいと思わせてくれる。そんな本なのである。
彼は去年の春の訪れの前に去っていってしまった。今は秋の初め、残暑がある。けれども、終わり頃には彼に会える。それが楽しみなのである。
冬の路地には彼がいるから。みんなが冬の路地で彼の話を聞きたがっている。夜には扉が開くかもしれない。その先に行ってみたい。彼と一緒に。そして持ち帰るのだ。冬の扉の先の出来事を。
考えるだけでドキドキする。ワクワクする。冒険心がくすぐられるのを感じる。未知の出来事が待っているのだから。
本の中の出来事よりも、冬の路地に現れる扉の先の出来事に心が高鳴っている。そしてみんなに話す。子供たちから大人たちにまで。話すことがあるのだから。
扉の先にあるのはどんな旅なのだろうか。穏やかな旅だろうか。それとも危険な旅なのだろうか。それは分からない。けれどワクワクするのは事実である。
冬になる。いつも通り彼と出会う。年下の子たちが彼の話をせがんで、彼は話し出す。冬の出来事を。子供たちは目を輝かせる。彼の話はとても面白い。聞いていて飽きないのだから。
子供たちが満足そうに去っていくと、冬の路地にだけ現れる扉について彼に聞いた。それが最高の楽しみだったのだから。また会おうって言っていた。
その先について、その扉の先にあるもの。それが楽しみ孤児で良かったと思う。両親はすでにいなくなってしまったのだから。心配する両親はいない。だから、扉の先に行ける。そのはずである。
彼は悲しそうに見つめている。そして、手を差し出した。付いてくるかい。そう言っているようだった。
そして、彼と一緒に冬の路地にだけ現れる扉をくぐった。光が眩しかったけれど、彼の手を握っていたから怖くなかった。そして、その先にあるものを見た。町では見かけることの無いものを。
目がキラキラと輝くのを感じる。楽しみだ。彼と一緒に旅ができるのだから。
彼との旅はどんなものだろうか。胸の高鳴りが止まないのを感じていたーー。




