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足掻く

 彼女は足掻く。自分が望む結果を求めて。だが、それは失敗に終わる。

思い通りにいかないことに腹を立てて。権力を有しているはず。それなのに上手くいかない。

何故ならば、見ていないのだ。否、見ているのだろう。自分の短すぎる物差しで。

尺度が足りないのだ。長尺の彼の尺度を見ていないから。

 下に見ていた。けれど、それは違っていた。彼は上にいたのだ。比べることができない高みに。

彼を嘲ることで、優位に立とうとしていた。しかし、それは悪手だった。

彼の問いに何も答えられなかったのである。話を逸らすことによって、逃れることしかできなかった。

プライドが傷ついたのだろう。誰よりも権力を持っていた。そのはずだった。

 だが、思い知らされることになる。同級の友人から、彼が不在になったことで、職場がガタガタになったことを。彼のせいだ。そう決めつけていた。

しかし、その頃の彼女は職場を変えていた。あったはずの権力を手放して。

 彼に出会うことは無い。彼の行方は誰も知らないのだから。

足掻いても無駄なのだ。泥沼へと沈んでいくばかり。沈み切っているのかもしれない。

屈辱を味わっているのだろう。彼女がいたことでは何も無かったのに。彼がいなくなったことで、職場がガタつくなんて。彼に会ったら建て直せと言ってやるのに。それができないのはなんてもどかしいのだろう。

 彼に会ったとしても、どう言われるのか分からない。彼女と共通しているのは、あの職場から離れたことだけ。その点を彼は突いてくるのだろう。ただの憶測に過ぎないが。

 彼を批判することはできる。しかし、それは彼に届くことは無い。もどかしさが加速していく。

 こうなったのも全部彼のせいである。物事が上手くいかないのも。不在だというのに。知っているからこそ、ますます意識せざるを得ない。悪い意味で。

 しかし、今知ったところで、どうなるというのだろう。何も変わらないのではないだろうか。

むしろ、彼を自分が思い通りにいかない可能性だってある。そうなっていたらどうするのか。目の前で首でも吊られる可能性だってある。昔から死にたがっていたから。

 恐怖がある。思い通りにいかないばかりか、相手の生死を左右するという背負いたくない責任が。

重くのしかかってくる。彼のことについて考えているだけなのに。どうして、そう感じてしまうのだろう。不思議で仕方ない。

 一緒に働いていた時は感じなかった。嘲ることもできた。しかし、あの職場の現状を知ったところで、離れている彼のことについて考えるだけで、恐怖を感じる。理由不明の恐怖。それに彼女は襲われていた。長引けば心が病んでしまいそうになる。暗いトンネルの中に突然さらわれて、歩かされるみたいな。灯りが無いからこそ、どこまで続くか分からない。

反響音もしない。不気味で近寄りたくない、あるはずのないトンネルに。

 どうしてこうなってしまったんだろう。分からない。けれど、どうしようもできない。最初から無かったのだ。彼に対する権力なんて。嘲っていた報いなのかもしれない。因果応報としての。

 変な奴だと嘲っていたら、彼から見た自分はどう映っているのか。それに答えることができなかった自分を思い出す。だから逃れてきたというのに。

 病院に行かなくては。精神科に、心療内科に。じゃなければ、突然襲われるこの気持ちはなんだというのか。誰か説明してほしい。

助かりたいからこそ、行動するのだろう。そして、権力を持っていたはずの彼女は、病人へと成ったのであるーー。

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