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クウハク

 彼は迷っていた。従兄弟の少年へのプレゼントは何にしようかと。

本は読んでくれるだろうか。遊び好きのあの子は。それとも筆記用具にしようか。

ボールならすでにある。遊び好きのあの子はよく外で遊んでいる。大体の遊び道具はあるだろう。

クレヨンはどうだろうか。色鉛筆とかは。落書き帳なら範囲内で書き込める。今話題のアニメやゲームのキャラだって。上手く描こうとはしない。自由気ままに描いてほしい。

 そう思って彼は落書き帳を手に取った。タイトルは「クウハク」と書かれていた。落書き帳の新しい名前だろうか。白紙なのだから、「クウハク」でも納得がいく。

 あの子なら喜ぶのかもしれない。これをプレゼントしよう。さて、値段を確認する。しかし、値札がそこに無かった。店員のミスだろうか。レジに行けば分かるだろう。彼はそう思っていた。

裏表紙を見る。そこにはあるはずのバーコードも何も無かった。いや、そもそも、店自体が無かったのである。一体どういうことなのか。彼はパニックになってしまった。

それもそうだろう。今まで店にいたと思ったら、いきなり何も無い空間にいたのだから。

 そこは「クウハク」の世界。名の通り、何も無い世界。その世界に彼はいつの間にか迷い込んでいた。

 彼はフリーズしてしまっていた。理解できない現象に囚われてしまったのだから。

恐怖を感じていた。自分の存在が消えてしまうのではないかと。食べたものが胃酸で溶かされてしまうように。

 助けを呼ぶ。声を張り上げる。けれども、彼以外に誰もいない。「クウハク」の世界は、音すら無いのである。

 そこに突如として黒い存在が現れる。それは彼自身の影。如何に「クウハク」の世界であっても、影だけは消せなかったようである。

 影は光に反するようにして、彼が進むべき道へと導くようにして、伸びていった。彼は何も分からぬまま、影が導く方向へと進んでいった。

 すると、前方に強い光が現れた。あまりの眩しさに彼は目を閉じた。

彼が再び目を開けると、プレゼントを選んでいた店に戻っていた。しかし、パニック状態になったのは覚えていた。だが、それは時間にして数秒のことだったのである。

 何だったのかは分からない。手元には商品の落書き帳だけがあった。一般的な物である。

 彼は息を吐き、心を落ち着かせた。さっきまでの光景の意味を考えようとして止めたのである。

 商品をレジに通す。現金払いで。バーコードでの支払いが増えてきたが、やはり現金のほうが落ち着いている。性に合うかどうかだと思うのだ。セルフレジの導入もあった。店員の負担が減っていればいいのだが。

 彼は従兄弟の少年にプレゼントをした。その子はとても喜んでくれた。さっそくペンと消しゴムを持ってきて、何やら描き始めた。彼は笑顔になった。与えることの幸せを感じていたのである。

 そして、彼は落書き帳を買う前の出来事を、すなわち、「クウハク」の世界での出来事をネットに書き出した。呟くようにして。そしてその呟きはネットの海のどこかにある。

 「クウハク」を探し求めるなんてしないほうがいい。それは身のためであるのだから。彼が「クウハク」の世界から戻ってこれたのは、偶然なのかもしれないのだからーー。


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