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 彼には選択肢があった。亡くなってしまった妻の遺品整理をしていたのである。

衣服は妻の友人にあげればいいだろうか。引き取ってくれるのだろうか。分からない。メイクセットならどうだろうか。使ってくれるなら亡き妻も喜ぶことだろう。

 じっとしていると亡き妻との思い出があふれてくる。けれど、もう二度と話せないし、触れることもできない。だから、遺品整理を始めたのである。

 住んでいる家はどうしようか。妻との思い出にあふれているこの家は。いるだけで、今にも涙がこぼれそうになる。でも、それは最後にしよう。いきなり決めても、慌ただしくて、大変になるだろうから。

 妻と結婚してどれくらいになるだろうか。熟年というには早すぎる。かと言って、若過ぎる年齢で結婚していない。普通の年齢で結婚した。ありふれたものだったと思う。

 妻の手料理は美味しかった。彼のために美味しい料理を食べてほしくて、頑張って作ってくれた。最初の頃はレシピと睨めっこしながらだったけれど。次第に味付けは彼好みになっていった。

彼もそこそこ料理ができた。妻に教えたりもしたし、休日には一緒に料理を作ったりもした。楽しかった。

 彼がご飯を作り、妻がお味噌汁を作ったりして、役割分担をしたこともある。どちらも美味しかった。

 2人で演劇を見に行くこともあった。月に一度は必ずデートをしていた。色んな劇や映画を見に行った。2人の思い出のグッズもある。手放したいとは思えない。

 妻に選んでもらったスーツは今でも大事に取ってある。そのスーツを着て、デートしたこともある。

彼にとっての一張羅だったから。だから大事に扱っていた。ここぞという時にだけ着ていたのである。

 懐かしさに心がいっぱいになる。もう二度と隣にはいないのだから。

亡き妻と過ごした年月は深く長いもの。自分の半身と言っても差支えないほどに。だから喪われた時は非常に辛いのである。ショックは大きい。

 亡き妻の残り香はどこにあるのだろうか。メイクセットにはない。衣服だろうか。時が経ち無くなってしまう前に、嗅ぐべきだろうか。温もりを味わうためにも。

 最後に交わした会話を書き綴るべきだろうか。書くのは久しぶりになる。上手く書き留められるだろうか。分からなくなってくる。人間の記憶とは曖昧なものだから。回想はできるが紡げられる自信はない。表現力。それがあれば良かったのに。

 遺品整理をしていると亡き妻の日記が見つかった。妻はよく日記を付けていた。ことあるごとに。まめに付けていた。平穏な日常の出来事や、デートした時など。

 これだけは手放さないでおこう。手放してしまったら、亡き妻に失礼なことになってしまう。

これがあれば、亡き妻との日常を思い起こしていけるかもしれない。回想だけのものを、上手く表現できるかもしれない。

彼と妻の考えや感想が違ったとしても、これがあれば補えるかもしれない。

この日記だけは手放したくない。これを元にして、エッセイを書いていこう。彼はそう決めたのである。

 それからの彼は、遺品整理など、やるべきことを終えると、エッセイの執筆に取り掛かった。

亡き妻の日記を参考にしながら、自分の考え、感じたことや亡き妻の日記に書き留められた感想なども織り交ぜていきながら。

 その彼が紡いだエッセイは1つの小説の投稿サイトに書き残されている。読まれているかどうかは、分からないとしてもーー。


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