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無題の本

 その本の場所は分からなくなっていた。紛失してしまったのである。

図書館に置かれてたはず。なのに、いつの間にか無くなっていたのである。

 どこに行ってしまったのか。それが分からない。一体どこに行ってしまったのだろうか。

人の手に渡ったのか。それとも別の場所に置かれてしまったのだろうか。

 手がかりは何もない。というか、そもそもタイトルが無題なのだから。無題の本はどこにでもある。しかし、探している本は無題なのに、力を有しているのだ。

 描いたものの世界に入ることができる本。だが、持ち主を閉じ込めてしまう。悪質な本でもあるのだから。

人食い箱ならぬ人食い本。それならば、いくらかは良かったのだろう。しかし、問題となっている本は、持ち主に開かせて、描かせることによって、その効力を発揮するのだ。だから紛失したら厄介なのである。

 もし間違えて、子供たちがその本に落書きを描いてしまったら、その通りになってしまう。怪獣を描けば怪獣がいる世界に閉じ込められてしまう。そして、本の中で怪獣に殺されてしまえば、生命は失われてしまう。だからこそ、厄介この上ないのである。

 ただの落書きならば、影響は無いと思われるだろう。しかし、それでもなお最悪の可能性がある。

本に閉じ込められてしまえば、抜け出すことは難しいのである。中核となるものを破壊しなければならないが、普通の人間だとそれは不可能である。専門家ですら手を焼きかねないのだから。

 ゆえにこそ図書館で厳重に保管されていた。そのはずであった。そうすれば安全だったはずなのだから。

 盗人が入り込んだのか、あるいは新米のミスだったのか。どちらにしても、無題の本で力を有しているのは確かである。

 必死になって探し出すも見つからない。人数を総動員してもである。そして、最悪の事態になってしまった。

 保育園の子供たちが行方不明になってしまったのである。一冊の本を残して。それで見つかった。本だけが。

 しかし、本を開けてみると、不思議なことが描かれていた。黒い剣の戦士が、怪獣と思われるドラゴンと戦っている絵本のようになっていたのである。そして、ページを読み進めていくうちに、ドラゴンの腹部に黒い剣が突き刺さっていた。そして、子供たちが笑顔で笑っているシーンのみとなった。

 そして、本が眩い光を放つと、閉じ込められていた人々が出てきたのである。子供たちから始まって。

最後に黒い剣の戦士が現れた。彼は大人たちにこう告げたのである。

「本の管理ぐらいしっかりとするように」と。

 そこにいた大人たちは苦笑するしかなかった。子供たちの手前もあったのだろう。

 そう告げた彼はどこかへと去ってしまったのである。あるいは彼が本を盗み出したのだろうか。それでうっかり子供たちを巻き込んでしまったのかもしれない。ゴシップ記事の一文にはなるだろう。

 だが真実は闇の中。闇をほじくるなんてものは野暮なこと。

 無題の本は力を失っていた。それに気付いたのは、子供たちが大きくなってからのことである。いつ失ったのかは、それも闇の中のことーー。

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