メッセンジャー
彼は走った。メッセンジャーとしての責務を背負いながら。将軍の元へ情報を届けるために。
危険な坂道に臆することなく。敵の追手を振り切りながら。彼にとって進む道は前方にしかないのだから。
夜半や早朝に関係なく。将軍の元へと必死に。彼にとって将軍に伝えられるないことこそ、恐怖でしかないのだから。
足が震えるとしても、それでも走っていく。駆け抜けていく。疾風のごとく。東洋の果てならば、韋駄天の如く。
一日でも早く。敬愛する将軍の元へ。前線からのメッセージを伝えるために。
ついには、彼の届けたメッセージが将軍に伝えられた。そして、将軍は決断する。今が進軍の時であることを。前線で斥候として、偵察をしている者たちへと報いるために。
彼の疾風の速度は報われたのである。休みを頂いた。休息のための休みを。疲れを癒すために。
彼は実感した。将軍のために走った甲斐があったのだから。
進軍することによって、敵軍は恐れを抱くことだろう。相手は降伏するかもしれない。あるいは徹底抗戦をするかもしれない。
どちらにせよ、戦局はこちらに傾いた。そのはずである。なにしろ、将軍が動いたのだから。
連戦連勝の将軍。それは圧倒的な力を持っていた。かつての神話にでてくる英雄たちの1人でもあるかのように。吟遊詩人たちが詩にしていくように。
そんな将軍に彼は敬意を抱いたのである。将軍の役に立てることこそ、彼の使命でもあった。
勇士たちのように列に並ぶことは無いだろう。しかし、誰よりも早く走れることこそ、彼が見出した武器でもある。
点と点を結ぶ線のようにして、斥候として彼は戦場と陣営を繋いでいく。敵の情報を伝えるために。時間に関係なく。どんな時にでも。それが彼の有り方なのである。
やがて彼は将軍への功績により、斥候長へと命じられた。しかし彼は辞任したのである。
長となっては将軍へ直接伝えることはできないと思って。それだけは他の者に任せたくなかったのだから。
自分の我が儘かもしれない。けれども、譲ることはできなかった。
将軍はそのことに気付いた。それはいつ頃だったのか。しかし、彼のおかげで、進軍のタイミングを知ることができた。それは事実である。
将軍は決めた。彼のことを、専属の斥候部隊に入れることを。一部隊でなく、専属にすることで彼の要望に応えたのである。
足の早さが武器の彼のとっては、良い知らせであった。敬愛する将軍の部隊へと招かれることになるとは、夢にも思わなかったのである。
それからの彼は足の早さを活かして、戦場を駆け巡った。将軍のためになる情報を入手していくために。
敵軍には不利な情報を集めて。自軍には有利な情報を集めて。それらを伝えに行ったのである。
斥候であることを活かして。罠をあらかじめ仕組んで置いたりすることによって、将軍にも、自国にも功績を積み上げていった。
しかし、それは将軍が生きている時までだった。
将軍が重い病気に罹り、死の淵に立っていた時、彼もまた重い病気に罹ってしまった。
そして、それは治ることが無かった。ついには将軍が息を引き取った同じ時刻に、彼もまた息を引き取ったのであるーー。




