先生
私はその部屋に入った時、空白かと思った。なぜならばもぬけの殻だったからである。
先生はどこに行ったのか。私は混乱に襲われてしまった。誘拐事件だろうか。それとも失踪事件だろうか。どちらにしろ、先生がいないのは確かである。
どうしたらいいのか。私には分からない。誰に連絡すればいいのか。先生は私にとって救いだというのに。先生の作品のおかげで、立ち直れたというのに。
あの憂鬱な日には戻りたくない。死にたくなるようなあの日々には。
嫌な予感がする。私はもう二度と先生に会えないのだろうか。空っぽの部屋には、私だけがいる。ただ一人。私だけ。どうしてこうなってしまったのだろう。
ショックで固まっている私は、一つの封筒を見つける。先生が残したものだろうか。何が書いてあるのだろう。
そこに書いてあったのは、「さよなら」の四文字だけ。私の元から去っていくことだろうか。それともこの世からの「さよなら」だろうか。そうだとしたら、これは先生の遺言書ということになる。
悪い想像が私の頭の中を駆け巡る。先生がいなくなるなんて、私には耐えられない。
どうせなくなるのなら、先生と心中したかった。それすら叶わぬ夢だというのだろうか。
先生、先生はどこにいるのだろうか。私を、私を置いていかないで。
私は発狂しかけていた。否、すでに精神はおかしかった。狂うほどにまで先生のことを愛していたのだから。
あなたの作品のファンであることに誇りを抱いていた。数少ないファンの中の。
先生。あなたの作品のおかげで、今の私があるのです。なのに、なのに、なぜいなくなってしまわれたのですか。
先生を慕う私の気持ちは、どこに向けたらいいのですか。先生、答えてください。あなたの返事を聞くことが私にできるのでしょうか。
あなたの指先から紡がれる作品たち。それは一つの連作のように、私の心をほどいてくださいました。あの感覚を忘れることができないのです。
満開の花を一枚一枚、丁寧に剥ぎ取るような感覚。どんな人であっても、私の心の中の花を剥ぎ取ることができるのは、先生、あなただけなのです。どうかさよならなんて言わず、私のもとに戻ってきてください。
あなたがいなくなったら、私は何を見ながら生きていけばいいのでしょうか。私にはもう、先生、あなたしかいないというのに。
独特の余韻に浸ることは、もうできないというのですか。あなたがいたからこそ、今の私がいるのです。なのに、なぜ、私のもとからいなくなったのですか。泣き崩れると知った。そのうえで消えたのですか。
先生。あなたは私を裏切りました。あなたに対する私の思いを踏みにじったのですから。
私は、私はもう、他の先生を探すことにします。傷心の私を受け入れてくれる先生を見つけることにします。
あなたと心中できなかったのは私にとって無念でしかありません。あなたがさよならとされたのですから。
あなたは私の次の先生でしょうか。なら、私の傷ついた心を、思いを、癒してくださいますようにーー。




