シュミレーション
彼は焦っていた。どんなに計画通りに物事を進めても、シミュレーションの段階になると、ことごとく失敗してしまうのだから。
最初は余裕だと思っていた。しかし、シミュレーションになると失敗していった。理由も分からずに。
回数を重ねるたびに、どんどんと余裕が削られていくのを感じた。
何故、計画通りにいかないのか。そのことばかり考えていた。計画通りにいけば楽ができるというのに。
焦りが募っていく。いや、すでに焦り以外の感情が無くなっているのだ。残念なことに。
しかし、それは仕組まれた罠でもあった。データが改竄されているのだ。しかも重要な部分を。一部だけ。焦っている彼には、そのことを考える余裕なんて無いのだ。周囲からすれば滑稽に映るのだろう。
彼にはもはや信じることしかできない。シミュレーションが計画通りにいくことを。改竄されているとも知らずに。
どのくらいの回数を重ねただろうか。信じれば信じるほど裏切られていく。計画通りになんていかなくて。
彼の姿はやつれてしまっていた。目の下の隈が濃厚なほどに。幽鬼を連想させるほどにまで。
過労状態そのもの。一歩違えれば、過労死に至りかねないぐらいに。
それでも何とか踏み止まっていたのは、計画通りにいくこと。シミュレーションの成功だけである。改竄されていると知らずに。
データを改竄していたのは、彼の同僚たち。それは彼の成功を妬んだ結果だった。
だがしかし、彼らの誤算は、彼の執着とも言える、シミュレーションの成功だった。
そして、彼は倒れてしまった。過労死に最も近い状態で。死にかけの状態で。
彼の同僚たちは焦りを覚えた。自分たちのせいで、彼が倒れてしまったことに。その要因でもあったのだから。
罪悪感が彼の同僚たちに襲いかかる。振り払えないようにして。そして同僚たちは、データの改竄を元に戻した。彼のシミュレーションは計画通りとなったのである。
同僚たちは気付いた。彼の仕事量に。圧倒的なまでの仕事量をこなしつつ、楽できるようにもしていたのだから。
彼を失いかけた会社は、倒産の危機まで迎えることになった。納期が大幅に遅れていったのだから。その果てに業界での信用を失い、会社は倒産を決定した。
その時になって、ようやく会社側は気付いた。全ては彼がいたからこそ、立つことができていたのだと。
しばらくして彼は、計画通りにいったこと。シミュレーション通りにいったことを知った。けれども、勤めていた会社が倒産したこともセットになったが。
療養を経て、彼は回復していった。以前の幽鬼を連想させる表情だったのが、元に戻ったのだから。
それから彼は退院して、新たに別の会社へと再就職を果たしたのである。
彼は学んだだろう。どんなに計画を立てたとしても、問題によって計画が頓挫することがあるのだと。
シミュレーション通りにいかないこともあるのだと。
そして、無理はしないことを学んだ。無理をしてしまえば、二の舞を舞うことになるのだから。 会社の心臓になるのは、懲り懲りなのだからーー。




