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違和感

 彼は抱えていた。違和感を。生きていることに対して。どうしてなのかは分からない。けれども、常に感じているのだ。生きている。ただそれだけなのに。何故なのかは分からない。あまりにも長い間、彼の心は晒されていたのだ。

 恋人にも相談したことがある。けれども、納得のいく答えは得られなかった。

 幸せとは何かを探していた。今、自分が感じている違和感のことを知りたくて、哲学に傾倒していった。

それでも、解決することはなかった。ただ自分が無知であることを思い知らされるだけとなった。

 虚しい日々の中で、彼は考えていた。どうして自分には違和感が付きまとうのかを。誰にも理解されることの無い日々。単なる気のせいと片付けられる。しかし、そんなことで片付けられないのだ。 

 あまりにも虚しい日々が続いていく。やがては違和感のせいでメンタルまで病みそうにもなった。

そして、彼は考えていく。どうして自分は違和感を感じるのかを。否、違和感から背けようとしているのかを。

生きている。なのに、違和感を感じる。それは何故なのか。向き合うようにして、思考を巡らせていく。長年苦しめてきた違和感に立ち向かうように。

 逃れようとしても無駄なのだ。ならば、勇気を持って立ち向かうしかない。彼は違和感を直視する。そして、見つけ出す。違和感と戦うための武器を。

それはペンとノート。ノートに自分が感じている違和感を、できるだけ書き出していった。白紙のノートを埋めていくかのように。

 書き出すうちに気づいていく。この違和感の正体を。けれども、確信が持てないでいた。

それでも彼はノートに書き出していく。手が疲れていても気にすることなく。外から内から埋めていくようにして。

 彼が違和感の正体を掴もうと傾倒していった哲学が力となっている。デカルトの言葉が思い浮かぶ。シンプルな言葉。すなわち、「課題は分割せよ」。その言葉の通りに、彼は感じている違和感を分けて割いていった。

 一度に攻撃を加えても意味が無い。ならば、分けて集中砲火のように言葉を浴びせていく。それはまるで執拗に執念を込めて。苦しめてきた存在を、逆に苦しめるようにして。

生きていることが虚しい。ならば、何故そう感じるのか。あるいは、虚しく感じさせる要因は何なのか。

いつ頃からなのか。それを特定していく。過去を振り返るようにして。物心がついた時からなのか。あるいはその前からなのか。先天性なのか。それとも、後天性なのか。分からないで済ませたくないように。

 ノートが埋まりゆく。けれども、違和感の正体。それに確信が持てないでいた。推測はできる。しかし、外れていたらという不安が付きまとう。違和感からの抵抗のように。それでも彼は立ち向かう。ペンをノートに走らせながら。食らいつこうとするかのように。しかし、中々、手応えを感じられない。外堀は埋められたというのに。

 どうして。どうして。たどり着けないのか。違和感の正体に。長年の間苦しめてきた存在に。ここまで手を尽くしてきたのに。無駄にはしたくない。違和感との戦いを。

 ついには、彼のノートは全てのページが埋め尽くされてしまった。けれども彼は諦めない。この戦いで手にしたものは、経験となるのだから。次のノートを用意して、立ち向かってやる。彼はそう決意を固めた。

 しかし、残念ながら彼を苛ませていた違和感は、より強まっていくことだろう。彼の必死の抵抗も虚しく、散らされるのだからーー。


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