予言
彼は語った。予言を。破滅の予言を。周囲は最初、信じなかった。馬鹿馬鹿しいと思っていた。
けれども、彼がいなくなってから、その予言は実現し始めた。語られた内容通りのことが生じ始めたのである。
今まで問題なかった流れが詰まり始めた。そんなことは無かったというのに。いや、一度であった。だが思い出せたのはいるだろうか。
彼が不在だった8月は災禍の夏だった。それが今や、災禍の年に成ろうとしていた。
流れの詰まりを解消するため、有能者が駆り出された。しかし、それは諸刃の剣。たまりゆく不満を解消する先が必要だった。
そして、決壊が生じ始める。洪水のようにして、残っていた有能者たちが去り始めたのだ。
人材の流出。それは止まることのないもの。支配者たちは窮することになった。
彼が述べた災いが実現し始めた。災いと破滅の予言が。
かつての安寧は彼がいたことによって生じていたのだ。だがしかし、もはや彼はいない。白のための贄になっていた彼はいないのだ。黒しかない。転落していくのみ。
渦中の中にいる者たちは信じられなかったのだろう。だがしかし、実現していることに目を背けることはできなかった。
偶然だと思うことで否定したかった。しかしそれは無駄に終わってしまう。
連なるようにして退職の流れは止められない。最悪の連鎖を断ち切ることはできない。
馬鹿馬鹿しいと思っていたことが、もはや的中していっている。そして彼らは落ちぶれていってしまったのだ。
彼が残したものを闇に葬ることによって。力は失われていったのである。
彼の幻影は、彼を知る者たちにとっては苦難の元となった。彼がいてくれればこんなことにならなかったのに。そうぼやくしかないのだ。
落ちぶれ、失った先は濃密な黒。冷めゆくぬるま湯でしかない。あるいは最初からそうなったのかもしれない。真相は闇の中にしかないのだ。
彼のことを知る者は支配者たちにはもういない。災禍が過ぎ去ったのである。かつての栄光を知る者はいない。今はただ呆然とするのみである。
描かれていた未来も、砂塵へと消え去った。集めようにも集めることすらできない。砕かれ、粉々になったのだから。
彼が戻って来ることは絶無である。希望すら残されていない。白のための贄はいないのだ。
黒へと反転したのだから。黒一色の盤上へと。返すことすらできないオセロのように。
どうしてそうなってしまったのだろうか。そう嘆いても、聞く者たちはいない。今はただ目の前にある仕事をこなすしかないのだ。かつての量を平らげていた彼はいない。今ある量は減った。
残された者たちの嘆願によってだが。ゆえに濃密な黒なのである。
彼が語った予言は実現し終えたのかもしれない。彼がいたなら、この惨状を見たなら、なんて言うだろうか。それは分からない。ただトリガーとなっていたのだろう。データに基づいて言葉を発するのかもしれない。だが尻拭いはしないだろう。
もはや彼は、そこに戻ることは絶無に等しいのだからーー。




