12話
「…話すことなんてないよ」
今更私が関わっても向こうは迷惑なはずだ。正直冷静に話せるか分からない。みっともなく罵倒する可能性もある。そんな自分は見たくないし見せなくない。
「んなこと言うなって。ちゃんと話しとかないとセナずーーーーっとモヤモヤしてるぞ。アイツを吹っ切るにしろ許すにしろ、向き合わないとレオンのことも考えられないだろ?」
「…」
紛うことなき正論。私は黙ってしまうが、やがて大きくため息をつく。
「向き合うと言っても何話すの?アルバートとクレア王女は恋仲で、私を誘惑するように命令されたから仕方なく好きなフリまでしてた。実際呪いで殿下のこと忘れてるんだからそれが事実でしょ」
吐き捨てるように言った。全身で彼らに関する話題を拒絶する私にエドは困ったように眉尻を下げたが、こう切り出した。
「…まあ何と言うか…セナが出て行った後あの爺さん…魔術師が呪いについて詳しく調べて教えてくれたんだよ。あの呪い、魔王が次に目覚めるまで時間を代償にかけたらしくてな?」
「目覚めるまでの時間?」
「魔王は基本的に数百年単位で復活してるんだ。今年は前回魔王が復活してから丁度300年後、だから聖女を召喚したんだが。それでな、本来呪いの類が効かないはずの勇者を呪うために、向こう500年復活出来ない代償を支払ったらしい。これに関しては魔王復活の周期が延びたわけだから、その分平和が続くってことだが…その代償がアレでは喜べねぇな」
私はエドの話を聞いて唖然とする。あの魔王、散々人々を苦しめて傷つけ私達も彼には何度も追い詰められた。
こちらを必死さを嘲笑うかのようにいい加減で、飄々とした態度の魔王。本気なのか手を抜いてるのかすら分からなかった奴は、こちらの体力と魔力が尽きる寸前を見計らったかのように、アルバートの一太刀を受けて消滅した。
そんな奴が復活するまでの時間を代償にしてまで勇者を呪った。嫌がらせだろうか。まあ自分を倒す勇者達への復讐だとすれば、これほど効果的なものはない。
実際アルバートの秘密が明らかになり、残るはずだった私は帰ると言い出した。今頃魔王は狙い通りに事が運んだ、とほくそ笑んでいるかもしれない。
「あのクソ魔王…完全に消滅すれば良かったのに」
「魔王を完全消滅させる方法は存在しないんだ、酷い顔になってるから取り敢えず落ち着け…それで爺さんがそのクソみたいな呪いの状態を確認したんだよ。そしたら…」
意味深な顔で言葉を切るエドに私は焦れったさを覚える。
「何、変なところで止めないでよ」
続きを話すよう急かすとエドは勿体付けて、こう言った。
「…呪いの元がアルの魂に絡み合っていて、腕の良い魔術師でもまず無理だと断言された。代償を払っただけあって、絶対解呪させないという気概を感じるってよ」
先程はアルバートが精神崩壊する危険と引き換えに解呪出来るかも、という見立てだったがどうやらそれも不可能らしい。
「じゃあ解呪は無理って事?」
「今のところは、だな。経過観察しつつ方法を探すことも可能らしいが、当のアルバートが解呪に乗り気じゃない。命の危険がないのなら無理にしなくていいとさ」
「なんかあっさりしてるね」
一番好きな人の存在が自分の中から消えてるのに、取り乱すこともなく淡々としていた。忘れているからこそ、あの反応なのだろうか。
「奴の中から殿下の存在そのものが綺麗に消えてる状態だからな。薄情でも何でもなく、誰が呪われてもあんな感じになるってさ。恐ろしいな。もっと恐ろしいのは何をしてもアイツが殿下のことを思い出すことは、絶対無いってことだ。呪いの元をどうにかしない限り」
エドの説明を聞いて私は言葉を失う。呪いと言っても、小説で良くある「愛の力で打ち勝つ」とか正視の方法でなくとも呪いを解く方法があるのでは?と期待していたから。
200年の時間と引き換えにかけた呪いの容赦の無さと悍ましさをひしひしと感じている。
「あの2人、これから大変かもしれないね」
彼らに対して同情も憐れむこともしない。
「記憶無くなっても、元々好きだったならまた好きになるんじゃねーの?知らねぇけど」
「うわ、他人事みたいな言い草」
「だって他人事だし、セナは他人事じゃ無いけどな」
「え?」
「え?じゃねーよ。アイツ殿下のことすっぽ抜けてて、その分お前のことが頭を占めてるっぽいからさ。絶対絡んでくるぞ。さっきもお前の後を追ってレオンが出て行った時すげぇ顔してたし」
不穏な言葉が聞こえたが聞かなかったことにする。
そうだった。謁見の間を出る直前の彼を思い出す。レオンのことがあって忘れていた。
アルバートは殿下の記憶が消えて、そのポジションに2番目以降?だった私が入り込んでいて…。
「うわ、ややこしい」
「難しく考えるな、要するに今のアルはセナのこと好きってことだ。命令されたにしろ、最終的に絆されてたんだろ?アイツ家がアレで、顔も良いから昔から肉食獣みたいな女に追いかけ回されてたらしいからな。そういう圧を感じさせないセナにコロッといっても、おかしくない」
確かアルバートは公爵家の次男で年の離れたお兄さんが家を継ぐと聞いた。その上美形で第一騎士団の副団長。それだけで死ぬほどモテそうな感じがする。現に私は見た目で惚れてしまった1人。
「…本来なら喜ぶべきことなのに…」
多少は好意を抱いていたとしても、所詮2番目の女。虚しさしか生まれてこない。下を向き沈んだ私をエドが元気づけようと声をかける。
「やっぱり引きずってるじゃないか、向こうが絡んでくる前に話し合いの場を設けて、そこでどうするか決めた方がいい」
「許すか、許さないか?」
「そうそう、その前に情報も集めないとな。2人が本当にそういう関係だったか。隠してたっぽいが完全に隠し切ることは難しい。口止めされてても、陛下の耳にも入ってると伝えれば口の軽い奴は話してくれそうだ」
事実確認や裏取りは大切だ。あの時の私は勢いのまま飛び出してしまい、碌に確認もしなかった。調べたからと言って恐らく事実は変わらない。
けれど、「その時」のアルバートが何を考えていたかを知る一端にはなると思う。
当然私が聞いて回ったら目立つのでこっそり誰かに頼むことにする。こっちに来てすぐに護衛として女性の騎士を付けられた。戻って来てから会ってはないけれど、「時間があったらで良いから」と頼むことは出来るかも。
職務に関係ないことをお願いするのは忍びないが、こっちはこっちで時間もあまりない中アルバートの問題を片付けなければいけない。
そろそろ帰る、とソファーから立ち上がったエドを見送りに私も立つ。
「あ、そういえば今夜のパーティー誰にエスコート頼むんだ?慣習に則れば勇者だろうけど」
「………」
「スッゲェ顔、だよな気まずいよな。じゃあレオンに…アイツも無理?まあアイツに頼んだら後々面倒くさいことになりそうだしな、俺が無難か」
拝み倒した結果、エドにエスコート役を頼むことになった。
パーティーまで、後少し。




