13話
色んな意味で気が進まないパーティーへ向かう準備が始まった。ララさん以外にも数人のメイドがドレスや宝石、靴や化粧道具を持って部屋の中にやってくる。お風呂に入る際も彼女達は手伝ってくれたが、正直なところ恥ずかしい。こちとら庶民、人の手を借りてお風呂に入った経験はない。が、そういうものだと言われてしまえば固辞するのも申し訳ないなと思ってしまう。
薔薇を浮かべたお風呂でマッサージやら何やらもみくちゃにされた私の肌や髪はツヤッツヤになっていた。旅の間当然スキンケアに気を遣う余裕はなかったので髪もパサパサ肌も日焼け等で傷んでしまっていたが、どんな効能なのか旅に出る前かそれ以上の髪や肌に戻っている。毎日使ってたら恐ろしいことになりそう。
なんて思いながら風魔法で髪を乾かしてもらっていた。スキンケアが完了した頃合い。
「セナ様、今夜のドレスどれにいたしますか?セナ様でしたらどんな色でもお似合いになると思いますが」
ララさんに言われ、メイドさんが次々とドレスを見せてくれる。派手な色から落ち着いた色、淡い色と次々見せられるも、多すぎてどれがいいのか分からない。
「…あの、流行りの色ってどれ?」
「はい、最近は赤や黄色、橙色といった暖色系が若い方々の間では人気です。ご婦人方の間ではシックな色、モノトーンや派手ではない色のものが人気ですね」
ふむ、その辺りは元の世界とあまり変わらないみたい。
「また、恋人や婚約者、夫の髪や瞳の色を取り入れるのが主流となってます。ドレスに限らずネックレスや指輪にも色を取り入れる方が多いですね」
「そうなの?」
「はい、好きな人の色を身につけたいという女心、相手を自分の色に染め上げたいという男心をどちらも満たすので人気なのです。この大陸の国全土に広がっております」
旅の途中で色んな国を回って、そこに住む人達のことも見てきた。この世界の人は皆髪と瞳の色が色鮮やかだ。好きな人の髪や瞳の色のものを身につける、というのはロマンチックに聞こえ少し心惹かれるものがある。
元の世界で同じことをしようとすれば、黒や茶色など落ち着いた色合いのものばかり身につけることになってしまう。金や銀、赤や青に染めている人もいるがその色を身につけるのは何か違う気がする。
しかし私は失恋したばっかで、好きな人もいない。だから無難な色合いのドレスやネックレスを選ぶしかないのだ。
「あ、エメラルドグリーンだけは誰も身につけません。王族の色だからです、身につければ処罰されます」
「え!」
私は脳裏に陛下を始めとした王族の方々の姿を思い出す。皆綺麗なエメラルドグリーンで宝石のような瞳を持っている。
エメラルドグリーンは王家の証だと聞いた記憶がある。とても神聖な色なのだろう。誰も彼もが身につけていいわけがない。
「この国で知らない人間はいませんからね、まず仕立て屋も宝石商も最初から仕入れていません。用意のしようがないんです」
ララさんとそんな話をしながらドレスを吟味していく。
その中の鮮やかな赤のドレスが目に留まった。レースやフリルがふんだんに使われている可愛らしいデザイン。いやでも…似合わないよね。
ゴシック調のドレスでスカートの部分はフリルが何段にも重なっている。こういうデザインのミニドレスを昔出来心で着てみて、あまりの似合わなさにショックを受けたことを覚えている。
(お姉ちゃんなら似合うんだろうな)
遠く離れた地で恥をかくことは避けたい、とそのドレスは諦めて別のドレスに視線を移す。
「セナ様、そのドレスお気に召しました?」
「え、」
違うと言おうとしたが、その前に「着てみましょう!」と宣言され、あれよあれという間に数人のメイド達に着せられてしまった。
着た後もララさんは止まらない。このドレスならこのネックレス、髪型、髪飾り、化粧と口を挟む暇がないまま鏡に映る自分が変わっていくのを眺めていた。
ちょっとでも動こうとすると「動かないでください」と鋭い声でお願いされる。
どれくらい時間が経ったのか、「出来ました!」と言う彼女の声でボケーッとしていた私の意識は覚醒した。
「…これ私?」
鏡の中には派手な色のドレスを着こなす女性がいた。というか私である。
「お似合いですよセナ様」
化粧が違うだけで、こんなにも印象が変わるものなのか。サイドの髪を下ろして後ろで編み込んで一つにまとめ、ドレスと同じ赤い花飾りを着けている。
メイクのことよく分からなくて、自分に合う合わないも考えず適当にしてたけどちゃんとしてればこんな感じになるんだ。
的確に施した彼女達の手腕に驚くばかり。そもそも聖女の側付きとなる人達が優秀でない訳がなかった。
「パーティーに参加された方々は皆、セナ様に釘付けですね」
「そんなことないよ」
「あります、美しいことはもちろんですがよからぬことを企む輩にもお気をつけくださいませ。あのお三方も参加されるのなら、心配はないでしょうけど」
「よからぬことを…ああ」
言わんとすることは分かる。魔王討伐のために召喚され帰還した聖女とお近づきになりたい人間は山ほどいるだろう。それを利用しようとするものも。
「そもそも聖女様に手を出す愚か者がいるとは思いたくありません。聖女様を害したら、下手をすれば極刑ですからね」
「そんなに」
「何百年か前に召喚された聖女様に無体を働いた王族がいたそうです。聖女様は元の世界に残した恋人のために戻るつもりだったのに、聖女様に横恋慕した王族が無理矢理…聖女様は自ら命を絶ってしまったそうです」
あまりの惨さに言葉を失った。聖女の身の安全が保障されているのは当たり前のことではなかったことに。
「国のために命をかけた聖女様への仕打ちに当時の国王は怒り狂い、その王族を即刻処刑。以後聖女の身の安全を保障する法令を作ったとか」
そんなものがあるとは。本当に聖女とは大事にされる存在らしい。
だが、それならあの件は。…別に害されたわけではない。もしかしたら法令に触れない範囲で聖女を上手いことコントロールしようとしたものはいたかもしれない。例えば王族と結婚させたいから、そうなるように仕向ける、とか。
今考えても仕方ない。どうせ帰る身なのだから。
ドレスアップしてもらったからだろうか、気が進まなかったパーティーがほんの少しだけ、楽しみだ。




