11話
「エドー…」
さっきまで一緒に居たのに、少し顔を見ないだけでとても懐かしい気分になった。私はベッドから降りるとヨロヨロと彼に近づく。そんな私にエドは心配そうな視線を向ける。
「おい、フラフラじゃねーか。大丈夫か」
「…色々あって、ちょっと疲れた」
そんな私をエドはソファーに誘導し、向かい合って座る。エドを案内したララさんは部屋を出て行った。多分扉の側で控えている。何かあったら飛び込めるように。エド相手に「万が一」は絶対あり得ないが、そういうものだと言われれば仕方がない。
「ふーん、レオンに告られでもしたか?」
「っ!」
突然投げかけられたエドの言葉に、私の頬が一気に熱を持ち始めた。そして脳裏に蘇る、あの時のレオンの顔…。
「あ、当たりか?まあ、セナの後追いかけておいて何もしなかったら擁護の仕様がないドヘタレだしな」
「…あの、エドはレオンのこと」
恐る恐る訊ねるとエドはあっけらかんと答える。
「知ってたに決まってるだろ」
「えー、私どれだけ鈍いの…」
鈍感も度を越えると苛立ちの対象になる。4人パーティーの輪を乱しかねなかった私を、エドを含めどう思っていたのか急に不安に駆られた。
「まーセナは鈍いとは思うが、レオンも気づかれないようにしてたしお前は良くも悪くもアルしか眼中になかったからな。寧ろレオンに気を持たせる言動を取る事なく、適切な距離感を取ってただろ」
これは慰めてくれてるのだろうか。
「最初の頃はパーティーで色恋沙汰かよめんどくせーと思ったけどな」
どうやら気のせいだったらしい。その時のことを思い出したエドが顔を顰める。
「魔王倒す前に三角関係拗れてパーティー崩壊かよとヒヤヒヤしてたよ。でも直ぐにレオンが2人をくっつけたいが自分は恋愛事に全く縁がなかったから、協力しろと言われた時はコイツ正気かと疑ったぞ。どっちか一方に肩入れしたら面倒だから、断ろうとしたけどあまりにアイツが真剣に頼んでくるから、遂OKしちまった」
「そんな事が」
「懸命な判断だと思ったけどな、脈なしで告ったりセナがレオンの気持ちに気づいたら確実にギクシャクしただろうし、ちょっとしたパーティー間の不和が命取りになりかね無い」
自分達のパーティーの危うさを突きつけられ、終わったこととはいえ冷や汗を掻いた。本当、生きて帰ってこれて良かった。
私は旅の道中のレオンのことを思い出す。彼はどういう気持ちでアルとの仲を取り持ってくれたのだろう。知らなかった、気づかなかったからといって済まされる問題ではないと思う。
散々心の中で詫び、口頭でも謝ったけど心苦しさが減ることはない。いくら謝っても足り無いくらいだ。
そんな私の心境を察したのか、エドが気遣わしげに声をかける。
「セナのことだからレオンに申し訳ないとでも思ってるんだろ?気持ちを告げないことに決めたのも、アルとの仲を取り持つことに決めたのもアイツの意思だ。アイツが気取られないようにして、そしてセナも気づかなかったんだ。気にする必要はない、それにレオンに負い目があると自分の選択を見誤るぞ」
「見誤る?」
エドの言葉の意味が分からず、聞き返す。
「あの執念深い魔術馬鹿はな?セナが別の男とくっつくことよりも、魔王を倒した後お前が元の世界に帰ることを何よりも恐れていたんだ。だから他の男とくっつけるっていう自己犠牲の塊をやってのけた。アルが呪われて、あんなことになってセナは帰ると言い出した…レオンには帰るなと言われたんだろう?」
「…うん、帰る準備が整う半月の間に…自分のことをす、好きにさせてみせるって」
自分で言ってて恥ずかしくなってきたが、エドは気にせず話を続ける。
「俺もセナが帰るのは寂しいが、結局決めるのはお前自身だ。どっちを選択するにしてもそれを尊重するよ…これだけは言っとく。レオンに対する負い目や同情でこっちに残る、というのは止めろ。同情で残るという選択をしたら、いつかセナは後悔するしレオンも気に病むだろうが、一度残る選択をしたセナをレオンは絶対に逃がさないぞ」
何やら聞き捨てならない言葉が聞こえてギョッとする。
「逃がさないって何?か、監禁とかするの?」
そんな病んでる一直線みたいな行動を取る素振りや予兆は、彼には一切ない。エドは大きく溜息をついた。
「…魔術師ってな例外なく興味があるものにはトコトン執着するタチなんだ、それ以外に対しては恐ろしいほど冷淡なのに。アイツらは国や俺らにとっては強力な戦力であり心強い味方だが、一歩間違えれば狂人一直線なんだよ。アイツらの興味の矛先が人に向いたら…」
エドが意味深な笑みを浮かべた。皆まで言わないせいで、私は恐ろしい想像をしてしまう。例えば鎖で繋がれるとか、そういった方向の。
「お、脅かさないでよ!」
「いや脅しじゃねーから。魔術師って基本的に執着心えげつない人格破綻者だからな。皆真人間の面被ってるだけだ」
「そこまで言う…?」
酷い言われようだ。魔術師って魔法使える凄い人、のイメージしかなかった。私は癒しの魔法以外にも魔法適性があるらしく、旅に出るまでの数ヶ月の間魔法を使う練習をしたのだ。これがとても難しく、ヒーヒー言いながら練習してやっと初級魔法を使えるレベル。身を以て知った後だと魔術師の凄さが分かる。
何でも出来る万能の人達だと思い込んでいたが、話を聞く限り人格には少々問題がある様子。恐ろしい話を聞かせた張本人は飄々とした態度を崩さない。私はちょっと青くなっているというのに。
「そこまでも何も本当のことだからな。俺はセナが誤った選択をしないよう助言してるんだ」
「助言というか脅しだよね?」
これで私が怖気付いて、直ぐに帰る!と騒ぎ出したらどうするつもりだったんだ。エドが余計なことを言ったとレオンにバレたら恨まれるのでは。
「脅しだと受け取ったのなら、レオンのことはもうどうでもいい、怖い、直ぐ帰りたいという気になったか?」
今さっき心の中で考えていたことをエドに問いかけられた。
私はレオン…魔術師の特性を聞きどう思ったのか。確かに驚いた、というかギョッとした。想像したら恐ろしくはなった。監禁コースを喜ぶ人間は一部の人間だけ。私はその一部には含まれない。
だからといって、直ぐ様帰りたいと思うかというと。
「…なってはない、かも」
答えは否だった。エドは意外そうな顔になる。
「へぇー、完全な脈なしってわけではなさそうだな」
変な勘違いをしてるエドに私は慌てて訂正した。
「違うから、そういうのじゃないから」
「じゃあなんだよ」
「…魔術師がこうだから、レオンもこうなるはず。だから怖い、無理じゃなくてよく考えた上で答えを出したいんだよね。まあレオンのこと一度も男として見たことないから、よく考えた上で帰るってことになるかも」
「…お前結構辛辣だな、男として見たことないとか。ちょっと不憫に思えてきた」
エドが痛ましげな表情で私を見る。そんな顔をされても本当のことだからしょうがないだろう。
「正直恋愛とか当分いいやって気分なんだよね、さっきは思わず頷いちゃったけど」
「アイツの雰囲気に流されて?」
「流されて」
「流されてそのまま残るって言い出しかねないか、お兄ちゃん心配」
どれだけちょろいと思われてるのか、心外だ。
「ちゃんと考えるよ、そうしないとお互い不幸になるだけだしね」
監禁コースは断固ご免である。
「そうか、何かあれば相談しろよ。旅の時は中立の立場だったけど、今の俺はセナ寄りだ」
「何で?」
「パーティーの中で一番年下だから」
如何にも年長者のような顔を言う。エドだけ私達と年が離れているから、年長者なのは本当だけど。大らかで頼りがいのある人で、折り合いが悪い(推定)のアルバートとレオンが何とかやってこれていたのもエドがいたからだろう。
頼り切っていいのか、という不安はある。が、今の私に無条件で頼れる相手は居ないに等しい。
言い方は悪いが、使えるものは使っておこうの精神だ。
「そんなお兄ちゃんから助言です。レオンのこと考えるのも良いけど、アルのことも少しは思い出してやれよ?というかアイツとも一度話した方が良い」
私の中で「顔を合わせづらい」ぶっちぎりトップの名前がエドの口から飛び出てきて、顔を強張らせた。




