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10話



豪華でフカフカなベッドにうつ伏せで倒れ込んだ。向こうの世界で使っていたベッドとは比べ物にならないほど上質な物。少し横になっただけで、直ぐに眠気を誘う。ここを使うのは1年ぶりだが、使用されていない期間も定期的に洗っていたようで、枕やシーツからは良い匂いがする。


………………。


と、うっかり寝てしまいそうになった私は慌てて枕から顔を上げた。


駄目駄目、寝ている場合ではないのに。しかし一度に色んな事実を聞かされ、長旅を終えた身体的な疲れと精神的な疲れがベッドに横になったことで一気に襲いかかる。


あー、眠い。少し寝てしまおうかな。今は2時くらいだし、一眠りしても夜には間に合うはず。


今日の夜は王宮の大広間で勇者一行の凱旋パーティーが行われ、国中の貴族が参加するという。


そこで聖女の正式なお披露目も行われると、例の騒ぎの前に陛下から聞かされていた。聖女が召喚されて魔王討伐の旅に同行することは公表されているが、私の素性は秘匿扱いで外見も旅に出るまでは魔術で髪や目の色を変えて過ごしていた。黒髪黒目の女性は召喚された聖女以外に存在しないらしく、見る者が見れば正体がすぐにバレるという。


世界を救う聖女を良からぬことに利用しようとしたり、逆に魔王や魔物に脅かされている現状が維持されないと困るという、一部の人間から身を守るためだと説明された。


私としては、帰るんだから態々お披露目なんて必要ないと思ってる。まあ、さっきまではこの世界に残る気で居たから仕方ないけど。


しかしパーティーなんて。注目されることに慣れてないし、招待された貴族の方々に挨拶もしないといけないなんて想像しただけで気が重い。


その上勇者パーティーの美形3人衆と一緒に参加する。聖女という点を除いても注目されること間違いなしだ。あの3人と並ぶのに外見が釣り合ってないとか、心の中では色々言われるのだろうな。面と向かって言ってこないのなら、心の中でどう思われようが構わない。直接来たとしても、()()()()()()から適当に受け流す事は出来そうだけど。


…いや、聖女にそんなことする命知らずはいないか。要らない心配をする必要はない。全く、最近こんな事はなかったのに卑屈になる癖どうにかしたい。


「そうだ、パーティー。どちらにしろ2人に会わないといけないんだ」


独り言を呟き、大きく溜息を吐いた。


逃げるよう出て行ってしまったから、アルバートと次に顔を合わせるのは気まずいことになると分かってはいた。ここにもう1人、気まずい相手が加わってしまうことになるのは予想外だ。


「どうしろって言うのよ…」


アルバートのことも自分の中で消化出来てないのに、好きだとか帰って欲しくないだとか一気に言われても困る。考えるだけの余裕が私にはない。


あー、パーティー出たくない、顔を合わせたくない。でも出ないわけにもいかない。聖女が体調不良で出席出来ない、なんて余計な憶測を生みそう。それは私の望むところではない。


つまりどうやってもパーティーに出ないといけないし2人と顔を合わせる事は避けられない。


まずい、顔を合わせたら平静を装えるか自信がない。それに、アルバートとレオンの仲が何やら悪くなっているのも気がかりだ。謁見の間での一件からレオンはアルバートに対する敵意を隠そうとはしてなかった。あの場にいた人達はその理由を察しているだろう。レオン本人も言及していたし。


あれはつまり、そういうことだ。今まで2人は仲が良いと思っていたが、私には不仲を悟られないようにしていただけで実際のところは違ったのかもしれない。


私は何も知らなかったし、知ろうともしてなかった。エドなら、私達の中で一番年上でお兄さんポジションだった彼ならアルバート達のことを知っていたのだろうか。今の私が普通に話せるのは彼だけだ。エドもレオンと同じで職場である第三騎士団に顔を出しに行っているのか。


…ちょっと話を聞きに行ってみようかな。


その時、ドアをノックする音が部屋に響く。私は慌ててベッドから降りて返事をする。



ドアが開かれると、私付きの侍女の1人であるララさんが入ってくる。彼女は私の顔を見るとにっこりと微笑む。


「セナ様、お久しぶりでございます」


「ララさん、久しぶり!」


彼女とは年が近いこともあって、すぐに仲良くなった。けど聖女と侍女では、仲良くなったと言っても少しは壁がある。それは仕方ないと諦めたけど。


ララさんは扉の近くに立った私に向かって、恭しく頭を下げた。


「聖女様、この度は魔王討伐、引いてはこの世界を救ってくださったことを一国民として心より御礼申し上げます」


突然畏まった態度を取られ、私は戸惑う。だが彼女はすぐに頭を上げ、クスクスと笑った。


「驚きました?」


冗談だったようで私は肩の力を抜いた。


「びっくりしたよ、急に別人みたいなこと言うから」


「聖女様は王族と肩を並べる身分の方。本来なら先程のような態度で接しなければいけないのです」


「それは分かってるけどさ、ララさんは今まで通りに接してよ」


分かってますよ、とララさんは答える。


「セナ様、お休みのところ申し訳ないのですが会いたいという方が」


どうやら私に会いに来ただけではないらしい。


「うーん、少し休もうと思ったけど…私に会いたい人?」


誰だろう、こっちに来てからの知り合いは数えるほどしか…。私はハッとしてララさんに訊ねる。


「あの…金髪か銀髪の人…?」


「…?いいえ違います」


ララさんは怪訝な顔で否定する。今顔を合わせづらいツートップではないと知り、ごめんなさいと心の中で謝りつつ安堵した。


「じゃあ、誰?」


「赤髪の方です」


するとララさんの後ろから、背の高い赤髪の男が現れる。


「どーも、赤髪の方です」


剣聖、エドワルド・レイグ、通称エドが人好きのする笑顔を向けていた。


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