第五話 聖女ラエルザ 魔王の斧を発見する
私は掃除道具や草刈り用の鎌を探すべく、アリサと共に蔵に向かった。中に入ると入り口の周囲には、箒や塵取り農具や大工道具などが置かれていた。しかし……。
「熊手にシャベル、大ばさみにジョウロ。庭掃除に使えそうなものは一通りあるのに、鎌だけはないわねぇ」
私は肝心の物がないと、蔵の中を歩いていた。すると壁の近くに、斜めに突き出た黒い大きな柱が見える。柱に手をかけて後ろも探してみるが、やはり鎌はない。
落ちていないかと床を見ていると、あることに気づいた。手をかけている柱だが、その一番下は、球状になっているのだ。これでは一点でしか支えられず、柱に適していない。この柱は何なのだろうと見上げてみると、私は驚き身を震わせた。
「え? なにこれ?」
見上げた視線の先には、巨大な鉄板があった。左右に突き出た鉄板はそれぞれが半月を描き、先に行くほどに尖り、鋭利な輝きを見せている。黒と金の装飾が施された柱の上部には、二本の角が突き出た髑髏が取り付けられ、闇を覗いたような眼窩が私を見下ろしていた。
斧だ。巨大すぎて気づかなかったが、両刃の斧が蔵の壁に立てかけられている。私が柱だと思っていたのは、斧の柄だったのだ。
「すごい……」
私は斧に見とれた。研ぎ澄まされた刃は吸い込まれるように美しく、神々しい存在感を放っている。見れば見るほど美しく、肌が泡立つほどだ。
息を呑む私に、アリサの声が掛けられる。
「それはもしや……魔王の斧デザリアでは?」
アリサが、眼鏡をかけ直しながら斧を見る。
「この斧のことを知っているの?」
「確かラザリック様が魔王ゼーダインを討ち取った時、戦利品として魔王の得物を持ち帰ったと聞いております」
アリサの説明に、私はへぇと返事を返しながら右手を伸ばした。そして斧の柄を掴んで持ち上げてみる。ズシリとした手応えだが、持ち上げられないほどではない。
「良く持ち上げられますね。確か兵士十人でも持ち上げることができなかったと言う話ですが」
「そぉ? ちょうどいい重さよ」
私は軽く左右に振ってみる。確かに重いが、なんというか吸い付くように手になじむ。握った斧が、体の一部のような気がしてくるのだ。
「でも探しているのは、斧じゃなくて鎌なのよね。魔王の鎌だったらいいんだけど」
斧を見上げながら呟くと、先端に取り付けられた髑髏の目が突然光った。すると斧が一瞬で形を変え、柄の長い巨大な鎌へと変わった。驚きの光景に、アリサは眼鏡の奥で目を丸くしていた。
「あら、お前。姿を変えられるの?」
鎌となったデザリアに話しかけると、髑髏の眼窩が一瞬光ったような気がした。
「さ、さすがは魔王の武器ですね」
驚きに、アリサの眼鏡はずり落ちそうになっている。
「ねぇ、大きさは変えられる? 小さくなれると持ち運びにも楽なのだけど」
私が話しかけると、またデザリアの眼窩が光って形を変えた。今度は手から少しはみ出るほどの、小さなスティックとなった。
「へぇ、便利ね」
私はバトンとなったデザリアを、手の中で一回転させてみせた。黒と金の装飾が施されたスティックは、中央は緩いカーブを描いてくびれており、先端には角がある髑髏が、後端には尖った石突きがついている。バランスは完璧で取り回しに問題はなかった。でもちょっとかわいくない。
「そうだ!」
私は頭につけた二つの赤いリボンのうち、右のものをほどいて、デザリアの左の角につけてあげる。これで可愛くなった。
「これでお揃いね」
私が笑いかけると、デザリアの目も嬉しそうに輝いたように見えた。
「魔王の武器を可愛くしてどうするのです」
アリサが溜息をついていたが、可愛い方が絶対にいい。魔王だってそう思うに決まっている。
私は右手に持ったデザリアを、再度回転させた。今度は一回転では止めず、クルクルと回しながら手首、腕、肩へと回し、首で一回転させる。そして肩を跳ね上げて前に飛ばす。
落ちていくデザリアを、私はスカートの裾を翻して右のつま先で蹴り上げた。跳ね上がったデザリアは、回転しながら背後に飛ぶ。私は目で追いながら、よっと掛け声をあげて今度は左足の踵で蹴った。クルクルと高速で回るデザリアは、私の右手に収まるように戻る。
「相変わらず御器用ですね」
賞賛するアリサに対し、私はヘヘンと笑って見せる。以前、王都に来た大道芸人に、ジャグリングを教えてもらったことがあるのだ。才能があったようで、すぐに覚えることができた。
「その器用さを、お裁縫や楽器の演奏にも発揮できたらよろしかったのですが」
続くアリサの言葉は、ちくりと私の心に刺さった。貴族の淑女たるもの、ハンカチに刺繍を施し、楽器の一つも弾けねばならない。しかしどうも私は、細々とした作業が苦手だ。楽器の演奏も、まず楽譜が読めない。どれだけ教わっても、あのオタマジャクシの意味が理解できないのだ。
「じゃ、じゃぁ、私、庭の草刈りをしてくるから」
この場に残るのはまずいと判断した私は、逃げるように蔵を出た。背後でアリサの溜息が聞こえたが、全力で聞かなかったことにした。
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