第三十三話 聖女ラエルザ 魔導人形師を招く②
「それじゃぁ、ユーク。あとでこの村を案内するわね」
私はキルクス村に滞在することになったユークに、村の案内を約束した。
遠くから友達が来てくれたのだし、この村のことをよく知ってほしい。
「ああ、頼むよ。でもその前に、馬車に載せていた荷物を取りに行かないとな」
「そうだったわね! 村の人に運んでもらえるよう、お願いしてくる。あとユークが使う部屋も、修繕や清掃をしてもらわないと」
私はすぐに行動しようとした。しかしアリサに呼び止められる。
「お嬢様、そのような事は私がいたします。それよりも朝食をお食べになったほうがいいのでは? 昨夜は夜通し作業されていたのでしょう?」
アリサに指摘されると、体が空腹を思い出してお腹が鳴った。昨夜は夕飯を食べたあと、土砂崩れで封鎖された道を、一晩かけて復旧していたのだ。
体は疲れていないが、お腹は空いていた。
「でも……」
「丁度朝食は二人分ございます」
アリサの目は私からユークへと移る。
「君の分だけど、私がもらってもいいのかい?」
ユークが驚いたように目を丸める。
「お客様として遇すると決めた以上、仕方なくだがお世話をしてやる。ありがたく思え」
憎まれ口を叩くアリサに、ユークは苦笑いを浮かべながらも、ありがとうと返す。
「全く。せっかくお嬢様と二人きりの時間を過ごせると思っていたのに、どうして余計な奴らばかりくるのだ」
アリサのぼやきに、私とユークは顔を見合わせながらも、部屋に入って食卓を囲む。
「おーい、ラエルザ。巡回商人が来てるらしいんだけれど、一緒に見に行かないか?」
アリサが作ってくれた朝食を食べ終えた頃、外から声が聞こえてくる。ソイルの声だ。
「ソイル、ちょっと待ってて」
私が席を立ち、勝手口を開ける。手を挙げて挨拶をするソイルだったが、扉越しに食卓にいるユークを見て表情を固めた。
「ラエルザ、そこにいるのは誰だ?」
驚くソイルに対し、ユークも目を細める。
「そういう君こそ誰だ? ……まさか!」
問い返すユークが何かに気づいたようにハッとし、そして首を返し今度はアリサを見る。
「ああ、お前の予想通り、いつものやつだ」
アリサは面倒そうに答えた。するとユークが大きくため息をつく。
「全く、またたらし込んだのかい? ラエルザ!」
「たらし込んだって何よ! お友達を作っただけじゃない!」
私は思わず言い返した。アリサもユークも、なんだかひどい言い草である。
「おい、お前はなんなんだよ!」
たまらず叫ぶソイルに、ユークは鼻を鳴らす。
「ラエルザの友達だよ。君よりずっと前からのな」
ユークの言葉に、ソイルが息を呑む。
「言っておくが、ラエルザはお前だけのものじゃない。納得できないかもしれないが、私だって納得してるわけじゃない。これまで自分が一番の友達だと思っていたのに、ラエルザはちょっと目を離したすきに、すぐに新しい友人を作る」
「言っておくが、ラエルザ様の一番は私だ。お前達など、物の数にも入らん有象無象だ!」
ユークがため息混じりに答え、アリサが鼻息荒く答える。
「ちょっとやめてよ、二人共! どうしていつもそういう話をするの! みんな友達でしょ!」
私は二人を叱った。私が友達を作ると、何故か順番を競いたがる。
「言っておくけれど、罪作りはラエルザだよ。私はもう慣れたけれど」
ユークが私を叱るが、なんとも納得がいかない話だった。
「でも私は!」
私が言い返そうとしたその時、大きな咳払いが響き渡る。私達が揃って視線を向けると、そこには恰幅のいい男性がいた。王都からやってきた特別監査官のボードンだった。
「お忙しいところ、よろしいかな? ラエルザ殿」
「はいお騒がせして申し訳ありません、ボードン様。今朝はいったいなんの御用でしょう」
「用も何も、街道が土砂崩れで封鎖されているというではありませんか。街道の通行を保証できぬとは、これは領主失格でございますぞ。今日中に道路を復旧していただく! 必ず、今日中にですよ!」
ボードンは宣言する。その言葉に、私達は目を見合わせる。
「あの、ボードン様。土砂崩れの問題でしたら、すでに解決していますよ」
私が教えて差し上げると、ボードンは鼻で笑った。
「嘆かわしい。得意のお祈りでも解決できないからと、そのような嘘を言われるとは、それでも信託教会の聖女だったお方ですか?」
「いえ、本当ですよ、その証拠に今朝巡回商人のマドロスさんが、村に到着しましたので」
私が事実を告げると、ボードンの顔が驚愕に変化する。
「馬鹿な、嘘に決まっている」
「本当だぞ、村中が大騒ぎになってる」
ソイルがぶっきらぼうに答える。
「ではボードン様、我が領地に問題はない。そういうことでよろしいですか?」
私がにっこりと笑って答えると、ボードンは歯を噛み締める。
「いいえ、まだです。これまで言わずにおきましたが、用水路は壊れたままでしょう! 村人に負担をかけるなど、領主のやることではありません。あちらも即刻直していただく!」
「これまで問題にしていなかったことを、いきなり問題にされるのですか?」
「私が問題だと言ったら、問題なのです! できなければ王都に報告させていただく!」
ボードンはそれだけ言うと去っていった。
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