第三十二話 聖女ラエルザ 魔導人形師を招く①
「ここが私の住んでいるキルクス村よ」
朝露も乾ききらぬ早朝、私はユークと巡回商人をつれて、キルクス村に到着した。
「いやぁ、魔道人形の力はすごいですな、まさか一晩で土砂崩れで封鎖された道を復旧されるとは、思いませんでした」
従魔が引く馬車の御者台で、帽子の下に白髪を覗かせる巡回商人のマドロスさんが感心した声を上げる。
「ええ、まぁ」
私の隣に立つユークは、苦笑いをしながら答えた。
街道を封鎖していた土砂崩れは、私がデザリアを使って一晩かけて開通させた。その最中に魔物に襲われているユークを発見し、助けたというのが真相であった。しかしマドロスさんは眠っており、その現場を見ていなかった。それに私が土砂崩れで塞がった道を復旧したとなると、私の力がバレてしまう。そのためユークが魔導人形で土砂を撤去したことにしたのだ。
マドロスさんの馬車を引く従魔は巨大だ。その巨体を見て村人達が集まってくる。その中にはタバサ村長もいた。
「これはラエルザ様、まさかそこにいるのは?」
「ええ、商人のマドロスさんです。先ほど峠道を見に行ったらお会いしまして」
「やぁタバサ村長、お久しぶりですな」
マドロスさんはタバサ村長を見て、帽子を軽く上げて挨拶をする。
「これは遠路はるばる、村に来てくださってありがとうございます。しかし道は大丈夫でしたか? 土砂崩れで塞がっていると聞いたのですが?」
「ええ、そうなんですよ。私も引き返そうと思っていたのですが、このユークさんが魔導人形で土砂を撤去してくれましてな」
マドロスさんがユークを見る。
「はぁ、魔導人形? が?」
「ユーク、見せてあげたら?」
タバサ村長が首を傾げるので、私が促すとユークも頷く。そしてローブの前を開く。すると幾つもの球が収められたポケットがあらわになる。
魔導人形の中心部品となる関節球だ。
ユークが魔力を発すると、三個の関節球が一人でに浮かび上がり、道にあった石にくっつき、石同士を連結させる。
石と石は、まるで心を持った人形のように動き始めた。
ユークが操る魔導人形を見て、キルクス村の村人達は驚きの声をあげる。
「いやはや、すごいものですな。王都ではこんなものが沢山あるのですか?」
「そういうわけではありませんが、ユークは王都でも認められた魔導人形師なんですよ」
私がタバサさんに教えてあげると、みんながユークを感心した目で見つめる。私としても鼻が高い。
「これを使って、ユークさんが土砂を撤去したのですか?」
「ええ、そうなんですよ。私が寝ている間に、一晩で」
「それはすごい」
タバサ村長の問いに、マドロスさんが答える。事実は違うが、そういうことにしておこう。
「ユークさん、村を代表してお礼を言います。この後はどうされるので?」
「ラエルザの屋敷に厄介になろうと思っています」
ユークは答え、私を見る。
「ラエルザ、構わないかな?」
「もちろんよ」
私は二つ返事で了承する。屋敷は完全に修復されたわけではないが、ユーク一人ぐらいなら、十分住めるはずだ。
私とユークは、もっと魔導人形を見せてくれとせがむ村人に、また今度と断り屋敷へと向かった。
「おっ、あれが君の住んでいる屋敷かい?」
「そうなんだけれどね、私が住んでいるのは、その後ろにある教会なの」
「教会?」
「ええ、あのお屋敷なんだけれど、百年ほったらかしだったから、中が荒れていて、修繕が必要なの。だから庭にある教会の部屋に私達は住んでて……」
私は説明しながら屋敷の庭に入り、隅に建てられている教会を見る。
「でも安心して、ユークが住む部屋ぐらいなら、すぐに用意できるから!」
私は慌てて付け加えた。遠くから来てくれた友達に、不便をかけさせるわけにはいかない。
私が教会に向かうと、煙突からは煙が上がっていた。おそらくアリサが朝食を作ってくれているのだろう。
昨日は夕方から土砂崩れを撤去する仕事を始め、朝に戻る約束をしていた。アリサは私が戻るのを、朝食を作りながら待ってくれていたのだろう。
「アリサ、ただいま。お客様を連れてきたわよ」
教会の勝手口を開けながら声をかけると、台所で料理をしていたアリサが顔を上げる。
「お帰りなさ……なぜ貴様がここにいる! ユーク!」
私の背後にいるユークを見ると、アリサの三白眼が険しくなる。
「ここはお前のような男が来ていい場所ではない、さっさと帰るがいい!」
「そういうわけにはいかないね、ここに住まわせてもらうつもりだ」
睨みつけるアリサに対し、ユークも負けまいと言い返す。
「ちょっとアリサ、やめて。ユークは遠くから来てくれたのよ」
「この男は下心があるからです。傷心のお嬢様を狙う不埒者です」
アリサはユークに指を突きつける。
「さっさと出ていけ!」
「悪いけど君の命令を聞く理由はない。そう命じていいのは、領主であるラエルザだけだ」
ありさを睨み返した後、ユークは私を見る。
「ラエルザ、君の領地に滞在していいかな?」
「もちろんよ」
「ということだ。でも無料で泊まらせてもらうつもりはないよ。とりあえず一ヶ月、金貨三十枚でどうだい?」
ユークは懐から小袋を取り出して掲げる。
「金などで、私の意思を挫けると思っているのか?」
「まさか、君の心を金で買えるなんて思っていないよ。でも天秤の対に乗っているのが、ラエルザだったらどうだい? 屋敷からは、それほど荷物を持ち出せなかったんだろう? ラエルザの新しい服や身の回りの品々は足りてるかい? 屋敷の修繕には、お金もかかるんじゃないのかい? ラエルザを、いつまでもこんなところに住まわせておく気なのかい?」
教会の部屋を眺めるユークの言葉に、アリサは綺麗な鼻の上に皺を寄せる。
「お嬢様の温情に、感謝するがいい」
アリサは金貨の入った小袋を奪い取りながら答えた。
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