第三十四話 聖女ラエルザ 魔導人形師を招く③
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用水路をすぐに修復しろ。無理難題を言いつけるだけ言いつけると、特別監査官のボードンは逃げるように去っていった。
私としては溜め息しか出ない。
「全く、なんと言う理不尽! お嬢様、あのような命令を聞くいわれはございません。正式に抗議いたしましょう!」
アリサが目を釣り上げて、ボードンが去っていた方向を睨む。
「いったい彼は誰だい?」
事情を知らないユークが、不思議そうに首を傾げる。
「あの人はボードン様。王都から派遣された特別監査官で、私の領地運営を監査しているの」
「ああ、なるほど。グエンは君の領地も取り上げるつもりなのか」
ユークはすぐに事情を察し、顔を顰めた。
「それで、用水路が壊れてるのかい?」
「そうなの。おかげでこの前までは、私が畑に水を撒いての」
「君が畑に水を? 手間なことをしていたんだね」
「そうでもないわよ、デザリアがあるから」
私は腰から、黒いスティック状のデザリアを引き抜く。
「何だい? それ?」
「そういえば紹介がまだだったわね。これはお祖父様が戦利品として持ち帰った、魔王の武器よ。姿を変えることができるの」
私はデザリアを、大きなシャベルに変えて見せる。
「あっ、それは魔物を倒した時の。いつの間にかなくなってたから、不思議に思ってはいたんだ」
ユークがデザリアを指差す。確かにユークを襲っていた魔物を撃退した時、シャベルにしたデザリアで叩いたのだった。
「これを大きな杓に変えてね、奥にある湖から畑に水を撒くのよ」
「水を撒くって、まさか……空に?」
「ええ、雨みたいに降り注ぐってわけ」
私が説明すると、ユークは頭を抱えた。
「そんな不効率なことをしたのかい、ラエルザ」
ユークは呆れた声を出すが、そんなに変なことだろうか?
「そぉ? 結構簡単だったけれど?」
私にとっては、夕食前の軽い運動だった。すると大きな溜息が返ってくる。
「もういい。日照りの度にそんなことをやらせるわけにはいかない。壊れた用水路の場所に案内してくれ」
「それはいいけれど、どうするの?」
「私が誰か忘れたのかい? 数学者にして特級魔導人形師、そして建築家だよ?」
呆れたようにユークが答えた。そういえばそうだった。ユークは建築家としても名を馳せており、大きな川に橋を掛ける仕事に抜擢されていた。
「じゃぁ用水路を直せる?」
「造作もないよ。ただし、一人じゃ無理だ。ラエルザ、手伝ってくれるかい?」
「もちろんいいわ!」
私は二つ返事で答えた。
「用水路はこっちよ」
私はユークとソイル、アリサを連れて、村の用水路へと向かった。全周を崖で覆われたキルクス村では、川というものは貴重であった。崖から湧き水は出るが、全ての水は屋敷の裏にある湖に流されてしまう。
そのため崖の岩には、緩く弧を描くように用水路が配置され、雨水や湧き水を集め畑へと誘う用水路が設けられていた。ただしずっと前に山崩れがあり、用水路ごと崖の岩肌が崩壊している。それ以来、用水路は使えないでいる。
「なるほど、この用水路を作ったものは腕がいいな。難しい地形の中で、水を集める工夫が凝らされている」
壊れた用水路を見るなり、ユークは何度か頷いた。
「ただこれだと、素人には修復は難しいだろう」
「そうなのよ。崖の急な傾斜に、緩く用水路が設置されてるから、元のように修復できないの」
ユークと一緒に用水路を見ると、壊れた用水路を修復しようとした跡が見られた。キルクス村の人達も、復旧のための行動はしていたのだ。しかし素人目にも、難易度が高いのは見てわかる。
「私もやってみようとは思ったんだけれど、そもそも地形そのものが変わってるから、どうすればいいのかもお手上げで」
私はえぐれた崖を見上げた。地面なら掘れるが、えぐれた崖はどうすればいいのかわからない。
「まずは、測量だな」
ユークが呟いたかと思うと、全身が淡く緑色に発光した。そして足元から光の線が地面を這い、無数に伸びていく。
光は格子状に伸びていき、周囲の地面は手のひらが収まるほどの正方形で区切られていく。
「なにこれ?」
私は緑の光で区切られた地面を見て驚く。光は私の足元や崖の岩肌にも伸びていた。
「測量しているのさ。グリッド魔術と私は呼んでいる。これで修復する箇所の、距離と勾配は確認できた」
ユークは顎に手を当て、ほんの数秒考え込む。するとまた地面にグリッド魔術を発動し、今度は図面を書き込み始める。
「こんなものかな。ラエルザ、石材となる岩がいる。あれとあれとあれを持ってきてくれるかい?」
ユークが地面から顔を出す、岩を示しながら問う。力仕事は得て分野だ。
「任せて、すぐとってくる」
私は軽く走って岩の下に到達すると、岩の出っ張りに手をかけて持ち上げた。そしてユークの下に行き岩を下ろす。数度の往復で、指示された岩を全て運び終える。
「じゃぁ次は、この線に沿って切ってくれるかい?」
ユークはグリッド魔術の線を、岩にも投影した。綺麗に引かれた線は実に明確だ。
「わかった、やってみる」
私はデザリアを巨大な鉈へと変えた。そして息を吐き刃を水平に振り抜く。すると線に沿って綺麗に岩を切り抜くことができた。
「これでいい?」
「ああ、見事なもんだよ」
ユークに褒められて、私は得意げに鼻の下を掻いた。
私は手先が不器用で、裁縫なんかの細かい仕事は大の苦手だった。しかしこの手の体を動かすこととなると、正確に動けるのだ。
「それじゃぁ、どんどんいくわよ」
私はデザリアを操り、ユークに指示された場所を次々に切っていった。
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