↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ラエルザ伝 ~脳筋すぎて婚約破棄されたので、領地に戻って改革することにした。もちろん筋力で~  作者: 有山リョウ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/33

第三十話 聖女ラエルザと特級魔導人形師④



『親愛なる妹、シャルロッテへ


 やぁ、シャル。元気にしているかい? ユークだよ。君の事だから元気にしているのだろうけれど、あまり魔法学院の先生方を困らせてはいけないよ。君の活躍と噂は、王都にまで届いている。でも女の子なんだから、無茶をし過ぎないようにね。


 それはそうと、王都では大変なことが起きたんだ。この手紙が着く頃には、そちらにも噂が届いているかもしれないけれど、ラエルザがグエン王太子から婚約破棄されたんだ。


 ついに来るべき日が、来たかという思いだよ。

 君も知っての通り、王太子のラエルザに対する扱いには問題があった。ラエルザは人を疑うことを知らないから気づいていなかっただろうけれど、やはりグエン王太子はラエルザのことを愛していなかった。グラルド王が病に伏したため、ついに本心を顕わにしたみたいだね。


 グエン王太子に対してはいろいろ思うところはあるけれど、今はラエルザのところに向かうつもりだ。この話を聞けば、君もラエルザのもとに向かうというかもしれないけれど、まずは学院をちゃんと卒業するようにね。


 この手紙はラエルザのもとに向かう従魔車の中で書いている。マグノリア領は噂に違わぬ秘境のようでね、使役《テイム》した魔物でなければ、通行することすら不可能らしいんだ。

 たまたま巡回商人の従魔車を捕まえることができてね、同行させてもらっている。実際道のりは危険で、時折魔物の襲撃を受けている。頑丈な荷車に加え強力な従魔のおかげで、何とか進めているが、普通の馬車だったら一日ともたないだろう。


 ラエルザはキルクス村というところにいるらしいけれど、どんな生活をしているのか思いやられるよ。まぁ彼女のことだから、どんな所でも元気にしているだろうけれどね。


 ラエルザに早く会いたいよ。彼女と最初に会ったのは八年前、私が十歳で、シャルが七歳の時だったね。あの頃は継母に無理やり王立学院に入学させられ、寮での生活にもなじめず、とても寂しかったのを覚えているよ。シャルはいつも家に帰りたいと泣いていたね。(この話をするとシャルは『私は泣いてない、泣いていたのはお兄ちゃん』というけれど、お兄ちゃんはそんなに泣き虫じゃないよ)


 寂しい思いをしている私達に、ラエルザは声を掛けて友達になってくれた。私よりも二個年下だったけれど、彼女の天真爛漫な笑顔にはずいぶんと救われたものだよ。いつか彼女に恩を返すため、勉強して魔法の力も鍛えてきた。こんな形で彼女を助けに向かうことになるとは思わなかったけれど、ラエルザの助けになれるなら、何だっていい。


 それじゃぁ、ラエルザに会って腰を落ち着けたら、また手紙を書くよ。

 体に気を付けてね。

                               愛を込めて、ユークより』


 ユークが最後の一文字を書き終えた瞬間、荷車が突然停車して大きく揺れた。

 手紙を汚さないよう、ユークは慌ててペンをあげる。手紙が汚れていないことを確認して一息つくと、眉間に皺を寄せて顔をあげた。すると息も詰まるような空間が見える。


 周囲にはいくつもの木箱が積み上げられ、商品の入った袋や樽も所狭しと並んでいた。足を延ばせる広さもなく、何より暗く息苦しい。分厚い板で覆われた荷車は、小窓が左右に二つあるだけだからだ。

 キルクス村には馬車の定期便などなく、巡回商人の馬車に同乗するしか方法がなかった。なんとか座る場所だけは作ってもらったが、寝転がることもできない。ここではユークも運ばれる荷物の一つなのだ。


「なんなんだ……」

 ユークは居住環境の悪さに辟易しながら、小窓から外を眺めた。

 外は険しい山々が見え、目的地であるキルクス村でないことはすぐにわかった。


「おい、どうして止まる?」

「旦那、悪いですが、引き返すことになりそうです」

 ユークが小窓から問いを投げ掛けると、御者台に座る巡回商人から声だけが返ってくる。


「なんだと! 今日の夕方に、キルクス村に到着するという話だっただろう!」

「怒らねぇでくだせぇ、儂も行きたいのはやまやまです。ですが、道が塞がってるんです。どうしようもありません」

 巡回商人の溜息交じりの言葉に、ユークはたまらず荷車から外に出る。すると行く手にある山道を、大量の土砂が塞いでいた。


「なんでこんなことに」

「何日か前に大嵐が来ましたからね、その時に土砂崩れが起きたんでしょう。これじゃあ先に進めません」

 御者台からは、帽子の隙間から白髪を覗かせる巡回商人が答えた。老人が言う嵐には覚えがあった。ユークがガレル大河に橋を架けた時に、大雨が降ったのだ。あの嵐だろう。


「どうにかならないのか? その従魔なら乗り越えることができるんじゃないのか?」

 ユークは御者台の前に繋がれた生物を見た。先ほどまでユークが乗っていた荷車と同じほどの大きさがあり、全身を毛に覆われ、本来の姿が全く想像できない見た目をしている。


 額に注視すれば紫の魔石が見え、魔物の一種であることが見て取れる。

 ただし危険はない。額の魔石には刻印がなされており、人を襲うことなく命令を聞く呪縛となっているためだ。特殊な技術を持つ従魔師達が刻み込んだ従魔印だ。

 魔物が生息する場所では、馬が襲われる危険がある。魔物に対抗できるのは魔物だけであると、使役した魔物に荷車を曳かせるのだ。


「無茶言わんでください、こいつは儂の親父よりも年寄りなんですよ? それにこいつが上れても、荷車は無理です」

 御者は荷車を曳く従魔に目を向ける。毛むくじゃらで見た目からは何も分からないが、かなりの高齢らしい。


「儂としても残念ですが、引き返すしかなさそうです」

「まてまて、キルクス村まではあと半日の距離なんだろう? 迂回路はないのか?」

 一日でも早くラエルザに会いたいユークにとって、引き返すなど論外だった。歩いてでも行くつもりだ。


「村のものなら知ってるかもしれませんが、儂は知りません。それに正規の道を外れれば、危険な魔物に遭遇するかもしれませんよ? おすすめはしませんね」

 首を横に振る巡回商人に、ユークは言葉を詰まらせた。


「お気持ちはわかりますが、引き返しましょう」

「まて、問題は道が塞がっていることだけだろう? これは私が何とかして見せる」

「どうされるんで?」

「まぁ見ていろ」

 ユークはそれだけ言うと、土砂崩れで塞がれた道へと向かった。大量の土と共に、大きな岩や石が幾つも混じっている。これを撤去するとなると、何十人もの人手が必要となるだろう。土木工事の専門的な知識も必要となる。ただし幸いなことに、ユークは土木工事の専門家であった。


 大量の土砂の前で、ユークは青いローブの前を開いた。そこには小さなポケットが幾つも取り付けられており、中には拳ほどの球体が二十個収められている。

 球のひとつひとつには複雑な幾何学模様が刻まれ、大きな魔石が埋め込まれている。


 ユークが精神を集中させて念じると、体からは青い光を帯びた靄が立ち上る。ユークの体から生み出される力、魔力と呼ばれる力の発光現象だ。

 魔力に反応し、ポケットに納められた球体が光を帯びてひとりでに浮き上がった。そしてユークを取り囲むように浮遊する。


「行け、関節球達よ!」

 号令と共にユークが手を振ると、周囲に浮かんでいた球が一斉に土砂崩れへと向かう。そして土に埋もれた大きな岩や石に接触する。球体に触れられた岩や石は球体と共に浮かび上がり、岩や石が連結して人の形へとなっていく。


「お、おお! こいつはすごい! 魔導人形《ゴーレム》ってやつですかい? 旦那は魔導人形師だったのですか?」

 巡回商人がたまげたと声をあげる。ユークは答えず笑みだけを返した。


 魔導人形は体を構成する岩や石に目が行きがちだが、最も重要な部品は体を稼働させる関節にある。魔導人形師とは、自在に動く関節球を造り、操る者の総称だ。

 通常の魔導人形師であれば、十個ほどの関節球を操るのが限界だが、特級魔導人形師の称号を持つユークであれば、二十ぐらいは軽く操れる。


「やれやれ、不細工だな」

 呟くユークの前には、二体の魔導人形ができ上がった。ただし、特級魔導人形師としては、到底納得できる仕上がりではない。体を構成する岩や石はデコボコとしており、何とかかろうじて人型をしているに過ぎない。

 通常であれば素体となる岩を吟味し、動きやすいように加工するのだ。しかし土砂崩れの中で調達した岩や石に、そんな細工をしている暇はない。贅沢は言えなかった。


「こいつで土砂を撤去する。時間はかかるが、引き返す手間を考えればましだろう?」

「そりゃまぁ、儂もキルクス村にはいきたいですからね」

 巡回商人も了承し、土砂の撤去が始まった。


ロメリア戦記のアニメが、2026年10月3日(土)21時~

アニメタイムズ・U-NEXT・Netflixにて国内独占&地上波先行配信!

また2026年10月5日より

TOKYO MX/BS11/サンテレビ/KBS京都/CBCにてⅡクールで放送が開始されます !



皆さん見てください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。