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聖女ラエルザ伝 ~脳筋すぎて婚約破棄されたので、領地に戻って改革することにした。もちろん筋力で~  作者: 有山リョウ
第一章

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 第二十七話 聖女ラエルザと特級魔導人形師①


 鉛色の雲が空を覆い、雨を滴らせていた。空で生まれた雨粒は、地に落ちることなく川に呑み込まれる。昨日から降り続く雨により、茶色に濁った水面を見せるのは、グィード王国の中央を貫くガレル大河の威容であった。


 雨が降り注ぐ中、川を背にして丘を上る一人の男がいた。作業服姿の男は、橋の建設などを請け負う建設業者のデミトスであった。


 デミトスは、丘の中腹で立ち止まり振り返る。視線の先には水量を増すガレル大河が見えた。濁流となりつつある水面からは石造りの橋脚が伸び、対岸へと等間隔で続いている。デミトスが一年かけて建設した橋脚であった。並ぶ橋脚は、増水する川に呑みこまれそうになっている。

 空を見れば灰色の雲は黒みを帯び、風は強くなり始めている。このまま水量が増せば、建設したばかりの橋脚は流されてしまうだろう。


「やっぱりこの川に、石の橋を架けるなんて無理なんだ」

 デミトスは舌打ちをした。ガレル大河は暴れ川で知られている。木材で橋を架けても雨期になれば何度も流され、毎年のように架け替えねばならなかった。


 流されぬ頑丈な橋をと、石造りの橋を建設する計画は何度もあった。しかし建設途中に川が増水し、造りかけの橋や橋脚を洗い流してしまう。ガレル大河に橋を架けるのは、どんな建築家も匙を投げた話なのだ。


 デミトスは丘を上るのを再開した。頂上にたどり着くと、建設を指揮するための天幕が張られていた。空いたままの入り口に飛び込むと、中には大きな机が置かれ、何枚もの図面が広げられている。そして机の向こう側には、派手な服を着た男が座っていた。

 ガレル大河に橋を架ける工事の総責任者、ブラハ子爵であった。


「子爵、川の水量はやはり増えています。雨足は強くなる一方です」

「そんなことはわかっている!」

 デミトスの報告に、怒声が返ってくる。腹は立ったが、デミトスは抑えた。しかしブラハ子爵の声は止まらない。


「ええい、どうしてこんなに早く雨期が来るのだ! 例年より十日も早いではないか! こんなことは計算外だ! ありえないだろうが!」

 怒鳴り散らすブラハ子爵の目は血走り、顔中に脂汗を流している。目の下には濃いクマが見えた。昨夜は一睡もできなかったのだろう。


 無理もなかった。もしこのまま増水して橋脚が流されれば、橋の建設は失敗する。ブラハ子爵はガレル大河に橋を架けて見せると、王都で大口をたたいたと聞く。もしこれで計画が失敗すれば、ブラハ子爵の面目は丸つぶれだ。何より王家から、厳しい処罰が下されるだろう。場合によっては領地の没収もあり得る大失態なのだ。

 ブラハ子爵は、まさに進退窮まっている。しかしデミトスにも譲れないものがあった。


「天気はどうしようもありません! それよりも計画の中止を! 現場の作業員を退避させてください」

 デミトスは開け放たれた天幕の入り口から、ガレル大河を指差した。橋脚の周りでは小舟が何艘も浮かび、橋の点検を行っている。全てデミトスの元で働いている作業員達だ。

 このまま川が増水すれば、デミトスの部下達も危険にさらされる。それだけは避けねばならなかった。


「駄目だ、それはならん!」

「何故です! もはや工事の続行は不可能です!」

「いや、まだだ! 予定では、『彼』がこちらに向かっている! 彼が到着すれば、工事の完成も不可能ではない! それまでに橋脚の点検を済ませておくのだ!」

「何を馬鹿な! 昨日から降り続く雨の中、予定通りに到着するはずがないでしょう!」

 デミトスは首を横に振った。大きな工事の現場では、全ての物事は予定より必ず遅れる。予定通りに進むことなどほとんどないのだ。


「いや、彼は来る。来てくれるはずだ!」

 ブラハ子爵の言葉は、ただの願望だった。そんなものに付き合って、作業員達を危険にさらすことはできない。

 作業員を退避させると、デミトスが宣言しようとしたその時だった。ずぶ濡れの男が天幕に飛び込んでくる。デミトスのところで使っている雑用係の一人だった。


「なんだ! 今は話し合いの最中だぞ!」

「そ、それが……、その、街道から、巨大な何かが!」

 雑用係の言葉は、全く要領を得ないものだった。しかしデミトスとブラハ子爵は、同時に答えに到達して互いに顔を見合わせる。


「来てくれたのか!」

 ブラハ子爵が天幕から飛び出し、デミトスもその背に続く。

 雨が降り注ぐ外に出ると、ガレル大河に背を向け街道に目を向けた。


 森を切り開き新設した街道は、雨に濡れて見通しは全く効かなかった。何も見えず、誰の姿もない。

 自分達の早とちりかと、デミトスが溜息を吐いたその時、遠く雷鳴のような音が響く。音は断続的に続き、こちらへと向かって来る。


「まさか!!」

 デミトスは息を呑んだ。音と共に振動が足から伝わる。雷のような足音を響かせて、何かがこちらに向かって来ているのだ。

 街道を凝視するデミトスの目に、雨の向こうから巨大な何かが姿を現す。


 岩だ!

 

 四角く切り出された家ほどもある巨大な石材が、ひとりでに動いていた。雨の向こうからはさらに石材が続き、大小さまざまな石材が連なり、生物のように蠢いている。特に大きな石材の塊からは、足のような石材が伸び、体を支えながら這うように進んでいた。

 あまりに威容にして異形な光景に、デミトスは言葉もなかった。その隣でブラハ子爵が歓声をあげる。


「来てくれた! 魔導人形《ゴーレム》が来てくれたぞ!」

「魔導人形? これが魔導人形ですって?」

 デミトスは信じられなかった。


 魔導人形というものがあるのは、デミトスも知っていた。魔導士が作り上げた、魔法で動く人形だ。しかしデミトスが王都で見たものは、人型をしており、大きさも人間の倍ぐらいだった。しかし今目の前で動いているのは、人とは似ても似つかぬ怪物だ。更に全体の大きさは、城ほどの規模と言っても過言ではない。


「これほど巨大だったとは……」

 デミトスはそれ以上の言葉がなかった。橋脚の建設さえ終われば、あとの仕上げは魔導人形を用いて行う。事前に計画は聞かされていたが、まさかここまで大きな魔導人形だとは思わなかった。


ロメリア戦記のアニメが、2026年10月3日(土)21時~

アニメタイムズ・U-NEXT・Netflixにて国内独占&地上波先行配信!

また2026年10月5日より

TOKYO MX/BS11/サンテレビ/KBS京都/CBCにてⅡクールで放送が開始されます !



皆さん見てください

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