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聖女ラエルザ伝 ~脳筋すぎて婚約破棄されたので、領地に戻って改革することにした。もちろん筋力で~  作者: 有山リョウ
第一章

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第二十六話 聖女ラエルザ 嘆願書を送られる③


「あと、お前が嘘つきであろうとなかろうと、どうでもいい。だがお嬢様に害を及ぼすようなことがあれば、私が許さん。いつでも目を光らせておくからな!」

 過保護なアリサは、ソイルを睨みつける。私が頭を抱えていると、アリサは表情を一変させ、柔和な笑みを湛えて私を見た。


「それでお嬢様、今日はどうされるおつもりで?」

 あまりの表情の変化に、私は呆れるほかなかった。ソイルを睨んでいた顔と私に向ける笑顔。両者が同じ顔とは思えない。


「まぁ……いいわ。そうね、今日は山に行って、魔物がいないか見て回る予定よ。ついでに柵に使えそうな木があったら、今のうちに切っておくつもり。ほら、村の外にできた畑だけれど、柵も壁も何もないから、魔物が来たら不安でしょ?」

 私は北に目を向けた。十日前の嵐の夜、女神様が現れるという奇跡が起き、キルクス村の外に畑を作ることができた。


 畑は状態もいいらしく、今年の種播きには使用可能だという。ただ我がマグノリア領には魔物の数が多い。私が定期的に討伐を行っているが、まだまだ完全ではない。農作業中に村人が襲われることだけは避けたかった。


「昨日、畑の周囲に堀と土塁を造る計画があると言われていましたが、そちらは?」

「ああ、あれは昨日の夕方に、チャチャッと終わらせたわ」

 私はアリサに向けて拳を突き出し、親指を掲げる。


「一日で終わらせたのですか……。数十人を動員しても、一年はかかる工事だと思いますが」

「デザリアがあれば簡単よ!」

 腰に差したデザリアは変幻自在の魔王の武器だ。スコップに変えれば堅い土も楽々と掘ることができる。村人の目を避けて夕方から作業したが、夕飯前には終えることができた。村人が見れば、また奇跡が起きたと思うことだろう。


「ただ畑として使うには、水場がないんだよなー」

 ソイルが腕を組み、現実的な問題を指摘する。

 新しい畑の最大の問題は、近くに川や池がなく、用水路と言った灌漑設備もないことだ。これでは作物に水を与えることができない。離れたところに山から流れる小川はあるが、あそこから水を運ぶとなると、かなりの手間になるだろう。


「そもそも村の用水路も壊れてるからな。整備するにしてもこっちが先だろう。ただ、土木工事の専門家が村にいない。壊れた用水路は百年前に造られたもので、誰にも修理できないんだ。新しい畑に用水路を新設するなんて、夢のまた夢だ」

「私も、用水路を作るのは無理だと思う」

 ソイルの言葉に、私は溜息を落とす。


 デザリアがあれば、堀や土塁を造るのは簡単だ。しかし水を導く用水路となると話が違う。水を流すには、正確な傾斜が重要となるからだ。

 大雑把な私には、これはすこし難しい注文だった。せめて掘るべき深さの目印があればいいのだが、そうなると今度は精密な図面が必要になってくる。そして精密な図面となると、正確な測量や計算ができなければいけない。

 机の前で計算する。私が最も苦手とする作業だった。


「とにかく、やれることをやろうと思う」

「わかりました、仕方ありません」

 アリサも納得してくれたその時、裏門が開いて誰かがやってくるのが見えた。麦わら帽子をかぶっているのは、村人のタバサさんだ。


「あら、タバサさん。どうかされましたか?」

「ラエルザ様。実はご相談したいことが……」

 タバサさんが用件を切り出そうとすると、アリサが眼鏡の奥にある三白眼を逆立てる。


「タバサさん。嘆願書でしたら、すでに受け取りましたよ」

「あ、いえ、アリサさん。それとは違う話でして……」

 タバサさんは麦わら帽子の下、困り顔を浮かべる。


「実は猟に出ていた猟師のダナンが戻ったのですが、何でも峠道が土砂崩れで塞がっているそうなんです。おそらく十日前の嵐が原因でしょう。そろそろ巡回商人がやってくる頃で、もし通行できないとなると、商人が帰ってしまいます」

 タバサさんが語る問題は、確かに深刻だった。このキルクス村は外界とほぼ隔絶されており、数カ月に一度来る巡回商人だけが外との接点だった。村人は年に数度やってくる商人から、布や包丁といった必需品を買い込んでいるのだ。


「それは問題ですね」

 私達にとっても、これは他人ごとではなかった。王都の屋敷に残してきた家令のスミスさんからの手紙なども、巡回商人が預かっているはずだ。またこちらからの手紙も、彼らに預けるしかない。このままでは手紙を受けとることも、出すこともできなくなってしまう。


「何とか修繕しないといけません。これから村長や村の若い者を集めて、どうするか相談します。どうなるかはわかりませんが、ラエルザ様にはとりあえずご報告をと思いまして」

 タバサさんはそれだけ言うと、一礼して戻っていく。三人だけとなった私は、アリサの顔を見上げた。


「どうやら、私の出番のようね?」

 アリサは無闇に村人を助けてはいけないと、私を戒めた。しかしこれは村人が解決するには荷が重く、私達の問題でもある。


「わかりました、仕方ありません」

 アリサは溜息交じりに頷いた。


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