第二十一話 聖女ラエルザと嘘つきソイル②
「実は、もう一つ隠していることがあるの」
山の中で、ラエルザが告白した。
すでにラエルザの怪力を知っているソイルは、何が来ても驚かないと頷く。するとラエルザは腰から一本の棒を取り出した。片手で持てば、手の両端から少し飛び出るほどの短い棒は、漆黒の輝きを放ち、先端には角の生えた禍々しい髑髏が取り付けられている。しかし角にはラエルザと同じ赤いリボンが取り付けられており、恐怖の象徴は台無しになっていた。
「ちょっと離れててね」
ラエルザは数歩後ろに下がったかと思うと、金槌になってとスティックに話しかける。すると髑髏の眼窩が光り、スティックが岩をも砕けそうな金槌へと変化した。
「おっ、おお……」
巨大質量の出現に、ソイルの腰は抜けそうになった。肩に乗る精霊様も、驚いて首の後ろに隠れる。だがソイルはラエルザの手前、足腰に力を入れ恐怖を必死に抑え込んだ。
「これは屋敷の蔵で見つけたもので、お爺様が魔王を倒した時に手に入れたデザリアって武器らしいの。自由に姿を変えることができて、とってもいい子よ。魔物との戦いにも役に立ってくれるわ」
ラエルザは自身の何倍もある金槌を軽々と担ぎ、笑顔を見せる。その光景もまた迫力があった。驚きの連続だったが、ソイルの頭にある答えが浮かんだ。
「最近魔物が出なくなったって聞いたけれど、もしかして」
「あっ、うん。私が退治していたの。さっきみたいに魔石を取り外して追い返したの」
ラエルザは頷きながら、山の茂みを見る。そこには先ほど去っていった、カブト虫の魔物の足跡が残っていた。
キルクス村の周囲は、強力な魔物が跋扈する危険な場所だった。しかし最近では魔物が鳴りを潜め、姿を見せなくなったという。原因は不明で、村人も首をかしげていた。しかしその答えは、目の前にいる小さな女の子にあったのだ。
「それで今ね、これで畑も耕してるのよ」
「畑を? なんで?」
「ほら、ボードン様っているでしょ? 王都から来た」
「ああ、あのいけ好かないおっさんな」
ソイルが本音を言うと、ラエルザがちょっとソイルと窘める。しかしその口調から、ラエルザもボードンを煙たがっていることはわかった。
王都からやって来たというボードンは、あれをしろこれをしろと村人に命じる、偉そうな男だった。村人も嫌っており、顔を見るのも嫌と言うのが村人の総意だろう。
「あの方がね、キルクス村は畑が少ないから、開墾しろっていうのよ」
「開墾って、どこに? そんな場所ないだろ?」
窪地に囲まれたキルクス村は、ほぼすべて開墾され尽くしている。余っている土地などどこにもない。
「うん、だから村の外にね、作ることになったの。ほら、村を出たら荒れ地があるでしょ? あそこ」
ラエルザは簡単に言うが、とんでもない話だった。
「あんなところを畑に? 無理だよ」
「そぉ? 耕すことはもうできているわよ」
自信満々に語るラエルザに対し、ソイルは嫌な予感がした。取り敢えず見せてくれと話し、村の外にある荒れ地に向かう。すると昨日まで草がまばらに生えていた土地が、一面掘り返されていた。
「私が今日耕したの」
ラエルザは自慢げに語る。確かに一見すると畑に見えなくもない。しかし……。
「でもなんだか畑っぽくないのよね……白っぽくてぱさぱさしてるの」
何が違うんだろうと、ラエルザは首をかしげる。
ラエルザの見立ては正しかった。これは『土』と『砂』の違いだ。
作物を育てる土は、落ち葉や堆肥などがふんだんに含まれ栄養豊富だ。一方で砂は、岩を細かく砕いただけのものだ。栄養は乏しく、これだけでは作物はおろか、まともな植物も育たない。この場所が森にならず、草がまばらな荒れ地であるのには理由があるのだ。
このままでは作物を植えても、芽すら出ないだろう。しかし……。
「大丈夫なんじゃないかな? いい畑だと思うよ?」
「本当? ソイル。私よくわからないんだけれど、畑として使える?」
ソイルの嘘にラエルザは嬉しそうに顔を明るくする。
「うん。ただ石が多いから、それはとらないとね」
ソイルは屈んで掘り起こされた土から石を掴む。
「そっか、耕すだけじゃ駄目なんだ」
「そこは地道にやるしかないよ。でもこれだけ耕してあったら、あとは楽なもんさ。爺ちゃんや村の皆に手伝ってもらえば、種蒔きまでには終わるよ」
ソイルの嘘にラエルザは嬉しそうにほほ笑む。だがその顔に小さな雨粒が当たった。二人して空を見上げると、いつの間にか暗雲が立ち込めている。少し前は日照り続きだったが、雨期の到来により雨がよく降るようになった。雨雲は濃く、嵐になるかもしれない。
「今日はもう、帰った方がよさそうね」
「ラエルザは先に返っておいて。俺は少し畑を見ておくよ」
「一人で大丈夫?」
「すぐ戻るから平気。それよりラエルザは、家の人が心配するだろ?」
ソイルはラエルザが一緒に住む侍女を思い出した。目つきは悪いが、ラエルザと共にこんな辺鄙な場所まで来たのだ。ラエルザを大切に思っているのだろう。
「わかった、それじゃぁ、明日も会える?」
「ああ、この畑を完成させよう」
ソイルがぐっと拳を固めると、ラエルザも同じポーズで返す。そして大きく手を振り、村へと戻っていった。
ラエルザが見えなくなったのを見て、ソイルは掘り返された荒れ地を見た。
「このままじゃ、畑にはならない……」
目の前の畑は痩せており、とても作物が育つ場所ではない。畑に改良するにしても、大量の肥料が必要となるだろう。しかし今のキルクス村に、それほど大量の肥料はない。だが!
「俺の魔法でなら、何とかなるかも」
ソイルは膝をつき土よ豊になれと念じながら、魔法を発動した。すると手から光が放射され、白っぽい土が黒くなっていく。ソイルが魔法を停止し触れてみると、うっすらとだが、柔らかい土の層ができていた。
「やっぱり俺の魔法は、土に栄養を与えることができるんだ」
ソイルは自分の持つ魔法の特性に気づいた。この魔法をもちいれば、この荒れ地を本当の畑にする事だって可能だ。
ソイルは雨が降り注ぐ地面に手をかざし、もう一度魔法を発動する。するとどこからともなく、光る人形のようなものが現れる。精霊様だ。その体には、ラエルザからもらった青い魔石を抱くように持っている。
精霊様が側に来ると、魔法の力が増大して効果範囲が拡大する。精霊様を見ると、抱える魔石と共に、その体も光っていた。
どうやら魔石には、精霊様とソイルの魔法を強化する効果があるようだった。魔物が棲む土地でソイルの魔法の効果が上昇するのも、魔石と関係があるのかもしれない。
「ありがとう、精霊様!」
ソイルは魔法の出力を高めた。みるみるうちに土が黒くなり、肥沃な土に変わっていく。しかし腕に激痛が走る。
ソイルが腕を抱えて自分の右腕を見ると、手の血管が浮き上がり指先から出血していた。
山でもあった腕の痛みだ。おそらく慣れていない魔法を酷使したためだろう。このまま魔法を使用し続ければ、腕がどうなるかわからない。でも……。
「まだまだ! まだ左手もある。この程度で音を上げてたまるか!」
顔をあげれば、そこにはラエルザが掘り返した荒れ地が広がっていた。ソイルが変化させた土地はほんのわずかで、百分の一にも満たない。
「ラエルザを嘘つきにするわけにはいかない。俺が真実にしてやるんだ」
ソイルは痛みをこらえ魔法を使った。
降り注ぐ雨は次第に勢いを増し、容赦なく打ち付けた。
ロメリア戦記のアニメが、2026年10月3日(土)21時~
アニメタイムズ・U-NEXT・Netflixにて国内独占&地上波先行配信!
また2026年10月5日より
TOKYO MX/BS11/サンテレビ/KBS京都/CBCにてⅡクールで放送が開始されます !
皆さん見てください




