とある令嬢の死
華やかな夜会の会場にて、何の前触れもなく一人の令嬢が死んだ。
その結果、当然ながら今夜の夜会は中止せざるを得なくなり、彼女が亡くなった現場には何人かの警察官達が来ていた。
夜会で人が死んだことに対し、ある貴族はショックのあまり気を失い、ある貴族は言葉を失っていたり、ある貴族は恐怖に染まった様子で悲鳴を上げていたりと、それぞれ分かりやすく騒ついていた。
まぁ、こういった出来事とは無縁の夜会で人が死んだのなら、そういった反応になるのも無理はない。
それに、こんな状態で正気を保てるかと言われたとしても、答えはノーしかない。
そして、他の貴族達と同じように事件に巻き込まれた側の私はというと....
「アイヴィー、どうだった?」
現場の様子を見に行った幽霊のアイヴィーに対し、どうだった?とばかりにそんな言葉を掛けていた。
その言葉に対し、彼女はある程度は収穫があったかのような顔になっていた。
どうやら、今夜起こった出来事には裏があるようだ。
〈あの子の名前はシェリー・カルバドス。最近になって勢いに乗っている資産家の令嬢らしいですわ〉
「資産家の令嬢.......」
アイヴィーからの報告に近い言葉に対し、彼女の方を向きながらも小声でそう呟く私。
いくら私が幽霊を見えるとしても、周りが幽霊が見えない上に信じていない以上、小声で話した方がこちらとしては都合の良いのである。
それに....あの時、アイヴィーが目撃した令嬢の幽霊がシェリーだったのなら、色々と聞きたいことがあるしね。
「今の時代、成り上がりの資産家の娘が夜会に参加すること自体は珍しくないからね」
〈えぇ、わたくしが生きていた頃には考えられないことですわ〉
遠巻きに現場を見ている私の言葉を聞きつつ、時代の流れを実感するようにそう言うアイヴィー。
アイヴィーは、今から百年前に亡くなった貴族令嬢の幽霊だ。
彼女が生きていた時代は、今よりも貴族の影響力が強かったらしく、それこそ普通の平民から資産家に成り上がるという概念すら無かった。
だからこそ、アイヴィーはそんな言葉を口から漏らしたのかもしれない。
そう思いながら、彼女の話に耳を傾ける私。
「それで、そのシェリーの死因は?」
〈それはまだ分からないですわ。でも....〉
「でも?」
〈彼女の腕に『赤い何か』が広がっていましたの。だから、恐らくは毒に近いモノを盛られたかもしれませんわ〉
アイヴィーがそう言った瞬間、その言葉に反応するように大きく目を見開く私。
間違いない、その『赤い何か』こそがシェリーの死を紐解く鍵であり、この出来事の裏で何があったのかを暴く切り札だ。
ただ。今の段階ではあまりにも情報が少ないので、まずはこの場から立ち去ったであろうシェリーの幽霊を探すしかない。
と言っても、今の私はシェリー殺しの疑惑が掛かっている容疑者の一人。
つまり、シェリーの幽霊を探すために下手に動けば、警察の御用になることは間違いないのである。
でも、どっちにしても彼女を探さないと意味がないので....周りにバレないようにこっそりと夜会の会場を抜け出した後、シェリーの幽霊が向かったであろう場所に向かっていた。
「アイヴィー、シェリーはどこに行ったの?」
〈そうね、この方向で間違いないはずなのだけど.......〉
そんな言葉を交わしつつ、アイヴィーと共にシェリーの幽霊を探し続けること数分後。
私達はシェリーの幽霊を見つけた....とわけではなく
「「あっ」」
運悪く、時間のことで廊下を調べていたであろう警察官とバッタリ遭遇していたのだった。
当の警察官自身は私のことをジロッと見つめた後、ここで何をしているとばかりの顔になっていた。
うん、とりあえずは敵意とかは向けられていない.......のかな?
あと、アイヴィーは落ち着こうか。
私がそう思っていた時、警察官は徐ろにこう言った。
「貴様、こんなところで何をしている?」
「え、えっと......トイレに行こうかなと」
「.....トイレなら、この廊下にはないぞ」
怪しいとばかりに警察官がそう言った瞬間、図星とばかりに声を漏らす私。
マズい、このままだと間違いなく警察のお世話になってしまう。
私がそう思っていた時、ふと視線を警察官の方から上の方へと移したところ、そこには花瓶がフヨフヨと浮いていた。
その直後、空中に浮かんでいた花瓶が傾いたかと思えば、そこから勢いよく水が出てきたため、案の定警察官はびしょ濡れになっていたのだった。
「あ、アイヴィー!?何やってるの!?〉
〈あら、ごめんなさい。ついうっかり.....花瓶の水をこぼしてしまいましたわ〉
クスクスと笑いながら、自身の姿が見えないことを良いことにそう言うアイヴィー。
....アイヴィーの根は優しいんだけども、一度敵だと思った相手にはとことんやるからなぁ。
そう思いつつ、びしょ濡れになった警察官の下に駆け寄る私。
一方、その警察官の方は何が起こっているんだとばかりの反応になっていて
「......は?」
ハンカチを手に駆け寄ってきた私の姿が見えないほどに、呆然とした様子と化していた。
なお、それを見たアイヴィーはざまぁみろという顔になっていたのはここだけの話だ。
その様子の警察官を尻目に、私はそのハンカチで彼頭を軽く拭いたところ、当の警察官本人は更にポカーンとした顔になっていたのは言うまでもない。
「大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ....」
私がそう声を掛けた後、持っていたハンカチを警察官に手渡す私。
そのハンカチを受け取った警察官は、未だに状況が飲み込めていないような顔付きのままだった。
すると、どこからか何かの音が聞こえたため、私はアイヴィーと共にその音がする方へと向かっていった。
〈......ホローナって優しいのね〉
「そういうアイヴィーは厳しすぎるでしょ!!」
〈フフッ、女の恨みは凄いのよ〉
かくして、この出来事の真実を知るために私とアイヴィーは動き始めたのだった。
「......行ってしまった」
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