男爵令嬢ホローナ・ウィロウ
一応は男爵の爵位を持つ貴族の一族こと、ウィロウ家の人間は人ならざる者を....最近の新聞のように誇張せずに表現するなら、幽霊が見える体質を持って生まれることが多い。
と言っても、それはここ数年に始まった話ではなく、今から数十年もの前の話だ。
何故、そんな出来事が未だにウィロウ家の中で続いているのかは分からない。
ただ、その当時の一族の当主が死の淵から蘇った際、『あの世で何かを一口だけ食べた』と言っていたらしく、それが原因ではないかとメイド達は囁いていた。
と言っても、幽霊が見えたところで私達の生活に影響は無いし、一度そういったことに慣れてしまえばどうということもない。
それに、私はウィロウ家の一族であるが故に人間の友人は少なかったものの、幽霊の友人はたくさん居た。
例えば、首無し騎士のアランに煤まみれのトムと血塗れのメグ。
絞首刑のゴードン、水死体のアン・白亜のメアリー。
みんなの死因や亡くなった年はそれぞれ違うけれども、私にとっては彼ら彼女らは大切な友達だ。
それに、アラン達の他にも幽霊の友人はたくさん居るし、何だったら屋敷に住み着いたりもしている。
ただ....幽霊が住み着いた影響なのかは分からないけど、屋敷ではたまにポルターガイスト現象が起こるし、何かしらの写真に映ることだってある。
あと、メイド達の中には見えないけども幽霊の存在を感じる人も居るようで、それがキッカケとなって辞めていく人もそれなりに居る。
要は、ウィロウ家は住まう館は正真正銘のお化け屋敷に暮らす一族なのだ。
なので、そのことも相まって他の貴族達は私達から距離を取るし、何だったら縁談のえの字どころか音沙汰すらも一切ない状況が続いていた。
この際だから、いっそのこと夜回に参加する形で人間の友人と増やそうと思ったものの
「見て、アレがウィロウ家のゴーストレディよ」
「あら、本当だわ」
「アレが呪いの一族....」
「幽霊に好かれる体質というけれども、本当なのかしら?」
いざ、その夜会の会場に向かったところ....そこで私を待ち構えていたのは、周りからの好奇の目だった。
当然ながら、そんな視線に浴びせられて気分が良くなるはずもなく、私は逃げるように夜会の会場となっている屋敷のバルコニーへと移動した。
そして、そのまま現実逃避とばかりに涼しい夜風を肌身で感じながら、思わずこう呟いた。
「やっぱり、人間は苦手だな....」
いくら蒸気機関車や工場用の機械によって国が発展したとしても、結局人間はそういったオカルト的なことを信じる性分の生き物だ。
だからこそ、貴族達は幽霊が見える私のことをゴーストレディと呼ぶし、懐疑的な目で見ることだってある。
幽霊が見える一族の令嬢として、こうなることぐらいは予想できていたし、行く前から分かっていた。
分かっていたはずなのに、どうして自分らしくない無茶をしてしまったのだろう?
あぁ、嫌だ。
私はただ、幽霊の友達だけではなく人間の友達が欲しかっただけ。
ただ、それだけの話なのに....どうして、何故、上手くいかないのだろうか?
まぁ、幽霊に慣れている弊害で人間に慣れていない私もある意味では悪いけども。
そんなことを悶々の考えながら、私が夜空を眺めていると....その場に一体の幽霊が、幽霊の方の友人こと毒殺令嬢のアイヴィーが現れた。
〈全く、わたくしの友人の近くであんなことを吐き捨てるなんて、恥知らずにも程がありますわ!!〉
プリプリと怒りつつ、そう呟くアイヴィーの顔には分かりやすく怒っている顔が映し出されていた。
でも、その感情には私のために怒っているかのような様子が映し出されていたので、彼女はあくまで例の言葉を吐いた令嬢達に怒っていたらしい。
アイヴィーは言い方はキツイけれども、根はとても優しくて思いやりのある幽霊だ。
その性格を考えたら、そうなるのも無理はないのかもしれない。
〈もし、わたくしに対して彼女達がそんなことを言うのなら、毒を盛ってやりますわ!!〉
「フフッ、アイヴィーらしいね」
憤慨している様子のアイヴィーに対し、ありがとうとばかりに微笑みつつもそう言う私。
ホローナ・ウィロウには人間の友人が居ない代わりに、幽霊の友人が居る。
アイヴィーを見てそう思えるだけでも、私は立派なウィロウ家の人間なのかもしれない。
ただまぁ、やっぱり変な目で見られるのはキツイけどね。
〈ところで....さっき、貴方がここに来るのと同時にどこかの令嬢の幽霊が大広間から出て行ったわよ〉
「......え?」
その言葉を聞いた瞬間、そう言葉を漏らす私。
そして、私はそのまま賑やかな様子のホールの方を見つめていた。
この夜会の会場である屋敷に来た時、令嬢の幽霊は一度も見ることも話しかけることもなかった。
それに....短い時間だったけども、大広間に居た時でさえ令嬢の幽霊を見ることはなかった。
それはつまり、この夜会が何かが起こったと言うことを意味していた。
そして、その考えを裏付けるように大広間で悲鳴が響き渡っていたため、嫌な予感を感じた私は急いで大広間へと戻ったところ....そこには、生気どころか生きている気配すらも失った令嬢の姿があった。
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