令嬢の幽霊
夜会にて、何かしらの毒によって亡くなったであろう資産家の令嬢こと、幽霊となったシェリーを追いかけること数分後、私とアイヴィーは屋敷の物置部屋で彼女の幽霊を発見することに成功した。
幽霊になったと言っても、彼女はつい数分前に死んだばかりなので、その霊体はアイヴィーのように半透明になってはいなかった。
ただ、恐らくは幽霊になった直後だからなのかは分からないけども、まだ状況を飲み込めていないような様子になっていた。
まぁ、突然亡くなった末に幽霊になったのなら、軽くパニックになるのも無理はないよね。
そう思いつつ、シェリーに声を掛ける私。
「あの、大丈夫ですか?」
私がそう声を掛けたところ、その声に気がついた様子でこちらを向くシェリー。
そして、同じ幽霊であるアイヴィーの存在が目に入ったのか、彼女は驚いた顔になりつつも私達の方を見ながらこう言った。
〈....私が見えるんですか?〉
「えぇ、バッチリくっきり見えますよ」
私がそう言った瞬間、シェリーはポロポロと涙を流し始めたかと思えば、霊体となった自身の姿を目視できる人間が居たことに対し、安堵した様子になっていた。
....きっと、彼女は自分が死んだことに対して戸惑っているからこそ、私が声を掛けただけでもこんな反応になるんだろうな。
涙を流すシェリーの姿を見つつ、そう心の中で呟く私。
「私の名前はホローナ、ホローナ・ウィロウです」
シェリーに対し、簡易的にそう自己紹介をする私。
私の名前を聞いたホローナは、ウィロウ家の名前に聴き馴染みが無かったのか、少しだけ落ち着いた様子で涙を手で拭っていた。
とりあえず、彼女が見つかって良かったな。
そんなことを思っている私を尻目に、隣に居たアイヴィーはシェリーに近づくと一言
〈大丈夫、彼女は私達が見える上に貴方の味方になってくれますわ〉
と言ったため、彼女は分かりやすく安堵の表情を浮かべていた。
....肉体が霊体化したばかりの幽霊は、まだ自分の死を受け入れられないことが多い。
だからこそ、アイヴィーのような先輩幽霊の存在によって救われる幽霊も少なからず居るし、何だったら心の支えになっている幽霊も居る。
そう思えば思う程に、彼女をここまで不安にさせる犯人についての怒りを滲ませていた。
「シェリー、幽霊になったばかりの貴方にこんな質問をするのはアレなんですけど....自分自身が死ぬことになった原因とかに心当たりはありますか?」
私がそう言ったところ、シェリーはその言葉にピクッと反応したかと思えば、そのまま申し訳なさそうな顔になっていた。
恐らく、彼女自身は自分の死んだ理由に心当たりからこそ、それが返って言いにくいのかもしれない。
そう考えつつ、アイヴィーと共にシェリーの様子を見守る私。
そして、シェリーは私になら話しても大丈夫だと思ったようで、そのままこう話し始めた。
〈その....私、体質的な問題で前に牛乳を飲んで死にかけたことがあるんです〉
シェリーがそう言った瞬間、その言葉の意味を理解したかの様子でお互いに顔を見合わせる私。
牛乳を飲んだことがキッカケで、シェリー自身が死にかけたことがある。
それは、シェリー・カルバドスの死んだ理由を探す私達にとって、とても重要な情報だったのはいうまでもない。
〈じゃあ、腕にできていた赤いブツブツは...?〉
〈アレは牛乳を飲んだ時に出てくる症状の一つで、牛乳を使った加工品でも出てくるから、バターやチーズも食べられないんです〉
シェリーがそう言うと、少しだけ納得したかのような顔になるアイヴィー。
そして、その証拠とばかりに彼女は私達に赤い何かが浮かんでいるその腕を見せたため、私は彼女の腕に赤い何かが浮かんでいた理由を察したのだった。
〈でも、あの時と同じように呼吸が苦しくなる感覚になった時は、グラスに何かが仕込まれているってことはすぐに分かったんです。ですが〉
「その時にはもう、死んでしまった....と言うことですか?」
私がそう言った瞬間、コクリと頷くシェリー。
間違いない、シェリー・カルバドスを苦しめた末に死に至らしめた何かは牛乳。
あるいは....乳製品のどちらかが、何かしらの形でグラスに仕込まれていたのかもしれない。
でも、犯人はどうやって牛乳や乳製品をグラスに仕込んだのだろう?
普通に考えてみれば、牛乳や乳製品には独特の匂いがあるからこそ、すぐさま違和感に気づくはずなのに。
そう思っている私に対し、シェリーは何かを思い出したかのような様子でこう言った。
〈えぇ、それに....〉
「それに?」
〈グラスに口を付けた時、ほんの少しだけ変な味がしたんです〉
ほんの少しだけの変な味。
その言葉を聞いた瞬間、目を見開く私。
それはアイヴィーも同じだったようで
〈....まさかとは思うけど、そのグラスの中身の飲み物が腐っていたのかしら?〉
思わずそんなことを呟いていた。
そう呟いているアイヴィーに対し、首を横に振るシェリー。
そして、何かがおかしいと言う様子になっている私達に対し、こんなことを言った。
〈そうですね....飲み物自体は腐っていなかったですし、その変な味も一瞬だけしか感じなかったので、特にあんまり気にしてはいませんでした〉
私たちに対し、シェリーが記憶を辿るようにそう言った瞬間、脳を回転させつつ彼女の死因を考える私。
シェリーは体質的に牛乳が飲めないために、それを利用される形で亡くなった。
となると、今夜の出来事は完全に殺人事件なのかもしれない。
「でも、一体どうやって毒を.....?」
「何かの話で盛り上がるのは良いが、誰と話しているのだ?」
そう考えている私に対し、聞き覚えのある声が聞こえて来たため、その声のした方を向くと....そこには、あの時の警察官が居たのだった。
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