〈6〉儀式前夜
ヨシノは迎えにつられて大集落の供物の間に連れられて行った。
その姿を見送ったノハナは泣いた。
「ノハナ、泣くな」ナオはノハナの頭に手を置いた。
ノハナはナオを見た。
「ピンチはチャンスって言葉がある。満月までまだ時間はある。それまでに出来ることがあるだろう」
ノハナはピンとこない顔をした。
ナオは夜、一人、松明の炊かれている儀式が行われる大集落の高床式住居がある祭祀を見回った。
「あそこからホノミコが現れるのか……」
生贄を火あぶりにする台と生贄を縛りつける棒を見た。
「ヨシノはこの棒に縛られて焼かれるのか」
ナオは周りを伺い、台の上の棒のところにいった。
棒を揺さぶってみた。
「結構、硬いな」
ナオは棒を揺らし、棒が刺さっている穴をグラグラにした。
「これぐらい緩ければ取れるな」
ナオは緩くなった穴に周りにある藁を間に入れた。
ヨシノは供物の間で、朝になると滝にうたれ体を清められた。
面会は許されなかったが、暇ではなかった。ヨシノはナオからコインをもらっていた。ヨシノはそのコインを使ってナオから教わったことを一日中やっていた。全くできないがヨシノは飽きることなく笑顔でやり続けた……。
そうこうしているうちに儀式の当日がやってきた。
ウボロギが二人の戦士を連れてオトシカたちの家にやってきた。
「お前たちは儀式が終わるまで腕を縛らせてもらう」
二人の戦士はオトシカ、ナギリ、サヒトモ、ノハナ、ナオの腕を後ろ手に布で縛った。
「儀式が終わったら解いてやるから、それまで大人しくしてろよ」ウボロギが言った。
ウボロギと二人の戦士は家を出て行った。
ナギリは泣いた。
するとナギリの前にナオが立った。
ナオの手には後ろ手に縛られた紐をナギリの目の前に放り投げた。
「ナギリ、そんなに泣かなくてもいいよ」
「ナオ!」オトシカが驚いた顔をした。
「こんなの。縛ったうちには入らないよ。俺は子供の頃、ハリーフーディーニの伝記を読んで育ったんだ。ハリーフーディーニは手錠破りの名人で、といっても分からないか」
ナオはサヒトモとノハナの縄を解いた。
「サヒトモ、ノハナ、ヨシノを助けるから手伝ってくれ」
「え⁉ 手伝うってホノミコさまに逆らうの?」ノハナが言った。
「そんなことは出来ない!」サヒトモが言った。
「逆らわないよ。ホノミコの儀式の邪魔をするつもりはない。いや、逆に、お手伝いをさせてもらうのかな」
サヒトモとノハナはピンとこない顔をした。
「オトシカとナギリはここで待ってて」
ナギリは心配そうな顔をした。
「大丈夫、ちゃんとヨシノを連れて帰って来るから」ナオはナギリに微笑んだ。




