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〈4〉ミカハ

ナオは自分の存在、実態は感じるも脳がまだついて行かなかった。

ナオは人々の関心の的になったが、話しても理解されない。ヨシノの助言もあり、ナオは人に尋ねられても「知らない。分からない。覚えてない」で話を逸らした。

ナギリは人々の関心を和らげるために人々が来ている貫頭衣をナオに着させた。

ナオはオトシカ、タケヒトと共に集落の人々と稲作に従事した。一緒に働くことでオトシカはナオを家族の一員として受け入れてくれた。それは集落の人々も同じでナオを仲間として徐々に受け入れていった。

「郷に入れば郷に従え、とはまさにこのこと」

生きるために食べる。

ナオは食べ物を食べるたびに、死後の世界を生きてるのではなく、自分は過去の世界にタイムスリップしたのでは、と思うようになった。

〈タイムスリップなんて、本当にそんなことあるのか?〉

しかし、そんなことを考えても仕方ない。

ナオは今を生きることに決めた。そう前向きに思えたのはヨシノの存在だった。

〈見れば見るほど水樹よしのに似ている。いや、水樹よりこっちのヨシノの方が俺はいい〉

そんなヨシノにナオは声をかけられた。

「ナオ。ミカハに会いに行かない?」

「ミカハ? ミカハって」

「私の友達。ナオのこと話したら会ってみたいって言われたの」

「別にいいけど」

「ミカハはね、次の満月に神に捧げられるの」ノハナが言った。

「神に捧げられる?」

ヨシノの顔が曇った。

タケヒトも動きを止めた。

「神に捧げられるって、何?」ナオは聞きなおした。

「今度の満月の夜、命結びの儀式にミカハは神への供物として捧げられるの」

「神への供物って、それって、生贄のこと?」

「生贄ではない。供物だ」タケヒトが言った。

「言い方の違いだろ」

「大きな違いだ」

「同じだよ」

一同、沈黙した。

「兎に角、ミカハに会いに行こう。俺も会ってみたい」

ナオはヨシノに連れられて、大集落にやってきた。そこは高床式住居が並び、明らかにナオたちが住む家とは違っていた。

「随分立派な建物があるんだな?」

「そうよ。中央にある家にホノミコさまが住み、そこで祭祀が執り行われるの。その隣の家がこのヤマタイをまとめている部族の長たちがいるのよ」

「じゃぁ、ごあいさつでもした方がいいのかな」

「会えないわよ。特にホノミコさまには。神への儀式のときだけあそこから現れるのよ」

「ミカハはどこにいるの?」

「ミカハは奥の供物の間にいるわ。神に捧げられるため今は限られた人としか会えない」

「俺はいいんだ」

「私の知り合いだから」

「知り合いね……」

ミカハのいる家も高床式住居の前に二人の槍をもった戦士がいた。

ヨシノは二人に会釈した。ナオもヨシノに倣い会釈した。

槍を持った戦士は直立不動のままだった。

高床式住居の階段を登った。

「ミカハ、ヨシノです」

すると、戸が開き、ミカハが現れた。

「ヨシノ!」

「今日はこないだ話していたナオを連れて来たよ」

ミカハはナオを見た。

「あなたがナオね。なんでも私たちとは違うところからやってきたとか」

ナオの目に映ったミカハはヨシノや集落の女性とは違いふくよかな女性だった。

ナオはミカハに自分がいた世界のことを話した。話しても勿論、理解はされなかった。

「俺がいた世界で俺が何をしていたか、少し見せてあげるよ」

「え、何?」ヨシノも食いついた。

ナオは何もない手の平からコインを出す初歩的な手品を見せた。

それを見たヨシノとミカハ、「何今の!」と、とてつもなく驚いた。

ナオは続けて片手に握られているコインの上に手を乗せてコインが通り抜けて上に出る手品を見せた。

「え、どうなってるの! 今、この丸いのがなんでそこにあるの!」

「こんな初歩的な手品でこんなに喜んでくれるなんて、二人ともいいお客さんだな」

「え、ナオって鬼道を使うの?」

「鬼道って?」

「ホノミコさまのように神の力、呪術よ」

「これは手品っていうんだ。神の力じゃないよ」

「すごーい! もう一回出来る?」

「何度でも出来るよ」

「ほんと!」

「ああ」

ナオはコイン一枚と手だけで出来る手品を色々見せた。その度にヨシノもミカハも驚き、盛り上がった。

ヨシノは横目でミカハを見た。

ミカハはとびっきりの笑顔をしていた。その笑顔を見たヨシノは神妙な面持ちをした。


大いに盛り上がり、ヨシノとナオはミカハのところに夕食が出される夜までいた。

二人は家に帰る道すがら、ナオはヨシノと話した。

「いやぁ、こんなに喜んでくれるのなら、俺がこのヤマタイの呪術師になろうかな」

「今日はありがとう。なんか久しぶりにミカハのあんな笑顔、見たわ」

「ミカハは少しみんなよりぽっちゃりしてるね」

「神に捧げる供物が貧相ではいけないと栄養のあるものを食べさせられているから」

「そうか。生贄だもんな」

「神への供物よ」

「どっちも同じだよ。で、次の満月っていつなの」

ナオは夜空を見た。

「そうね。あと十四日」

「十四日? どうしてわかるの?」

「空を見れば分かるわ」

「空」ナオは夜空を見た。

「月がないでしょ」

「ほんとだ、月がない」

「新月だから月が見えないの。満月から次の満月まで二十八、九日かかるの。月が見えないから今は新月。これから七日経つと右側が輝く半月が見えるわ。そこから七日経つと満月になるの。だからあと十四日」

「そうなの?」

「そうよ」

「へぇ、結構、科学的なんだな」

「カガクテキ?」

「いや、俺はもっとこの時代の人は何も考えず、漠然と生きてると思ってたから。案外知的なんだな」

「はぁ?」

「いいよ。わからなくて。ただの俺の独り言」



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