第31話 準備万端
四月 最初の満月の日。
「今日は、植え替えをいたしましょう。」
リリア様は、朝からどこか楽しげにおっしゃった。
手にはスコップ、そして軍手までしっかりとご用意されている。
「リリア様、準備万端ですね。」
思わず笑みがこぼれる。
「……というか、とても慣れていらっしゃるような……?」
「ふふ、それは秘密ですわ。」
リリア様は、いたずらっぽく微笑まれた。
そしてそのまま、軽やかな足取りで歩き出す。
向かう先は、チェリーブロッサムの植え替え場所。
以前、アルベール様が
『植え替える時は、あの辺りがよいですよ』
と教えてくださった場所だという。
――私の知らないところで、
お二人は、花を通して少しずつ距離を縮めていらしたのだ。
「……ここね。」
たどり着いたのは、お城から少し離れた丘の上。
土の色が周囲とわずかに違い、
丁寧にレンガで縁取られた一角があった。
まるで、ここに植えるために用意された場所のように。
「きっと、ここだわ。」
リリア様は、迷いなくスコップを手に取る。
その動きは驚くほど手慣れていて、土を掘る姿もどこか様になっていた。
私は思わず、その様子に見入ってしまった。
あっと言う間に、大きな穴があき、
そこへ肥料を混ぜていく。
リリア様は、チェリーブロッサムをそっと鉢から取り出し、穴に入れた。
木の周りから、丁寧に土をかぶせる。
広い場所に植え替えられたチェリーブロッサムは、なんだかのびのびとして見えた。
――植え替えは無事に終わった。
私たちは、並んで小さく息をつく。
「大きく育ってくれるといいですね。」
リリア様は、そっと木を見つめながら言った。
「ええ、きっと。」
――私は気づいていた。
リリア様の視線が、何度も何度も、
遠くへ続く道の先へ向けられていることに。
まるで
誰かの姿を、探しているかのように……。




