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男女比『1:16億』の北半球 ~50年ぶりの生身の男に、世界中が大パニック&大熱狂!~  作者: 団田図


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第39話 3Dスキャン

 北半球の政府直属・特級遺伝子および抗体研究施設。

 極秘エリアのさらに奥深くに位置する専用検査室に呼び出された御手宮おてみやタケルは、目の前にそびえ立つ巨大で怪しげなボタンやスティックが付いたカプセル型の装置を見上げ、嫌な汗を流していた。


「……あの、霧島きりしまさん。データの解析が終わったって連絡をもらって急いで来たんですけど、このSF映画の人体改造装置みたいなカプセルは何ですか?」


 タケルが恐る恐る尋ねると、スタイリッシュな最先端の白衣を身に纏った美人女医、霧島きりしま理沙りさが、知的なメガネの奥でギラリと目を光らせた。


「人体改造装置だなんて人聞きの悪い。これは北半球の最高技術を結集した、超高精細フルダイブ型3Dスキャナーよ。今日はタケル君の体全体を、細胞レベル、ミリ単位の精度で3Dスキャンさせてもらうわ」

「3Dスキャン……? データの解析って、抗体とか遺伝子の話じゃなかったんですか?」

「もちろんそれもあるわ。でも、あなたのその特異な『パッチワーク細胞』が全身の筋肉や骨格、神経系とどのように連動してゼロ・シェルを無効化しているのか、完全な立体データとして保存しておく必要があるの。これは人類の未来のための、極めて重要な医学的アプローチよ」


 理沙はそう言いながら、手元のタブレットを操作し、空間に複雑な化学式とホログラムの立体モデルを次々と展開し始めた。

「細胞壁を構成するリン脂質二重層への干渉波長、および特異抗体が引き起こすタンパク質の立体構造変化をリアルタイムでマッピングし、ゼロ・シェルの致死システムである特定の電磁スペクトルとの位相のズレを計算する……。そのためには、あなたの肉体を外部から一切のノイズなく、完全な状態でキャプチャしなければならないの」


 圧倒的な知性を感じさせる早口で、超高度な理論をスラスラと並べ立てる理沙。北半球の特級遺伝子・抗体研究のチーフディレクターという肩書きは伊達ではない。その凛とした天才研究者としての横顔に、タケルは思わず「なるほど、すげえ……」と感心してしまった。

 しかし、その尊敬の念は、続く理沙の言葉で一瞬にして木っ端微塵に打ち砕かれることとなる。


「というわけで、完璧なスキャンを行うために、今すぐ服を下着ごと全部脱いで、全裸になりなさい」

「……はい?」

「だから、ゼ・ン・ラよ。布地一枚でもスキャンのノイズになるの。さあ、早く」


 理沙は悪びれる様子もなく、むしろ頬をほんのりと朱に染めながら、艶やかな唇をペロリと舐めた。先ほどまでの冷徹な天才研究者のオーラはどこへやら、その瞳にはタケルの若く逞しい肉体を隅々まで鑑賞したいという、強烈なよこしまの欲望が完全に漏れ出していた。


「いやいやいや! 絶対おかしいでしょ! なんで毎回毎回、俺は素っ裸にされなきゃならないんですか!」

「タケル君、これは医学のためよ! 私のこの純粋な瞳を見て。邪な気持ちなんてマイクログラムも混ざっていないと断言するわ!」

「よだれを拭きながら言わないでくださいよ!」


 タケルが必死に胸の前で両腕を交差させて抵抗するが、理沙は「抵抗するなら警護官を呼んで無理やり脱がせるわよ」と脅しをかけてきた。北半球の女性たちに囲まれて全裸にされるよりは、まだ目の前の変態女医一人を相手にする方がマシだ。

 タケルは屈辱に震えながら、支給されていたバイオ繊維の服を脱ぎ捨て、最後に残ったボクサーパンツもゆっくりと引き下げた。


「ほぅ……いつ見ても素晴らしいわ」

 無駄な脂が一切ない、彫刻のようにたくましいタケルの全裸が露わになると、理沙は「ハァ……ハァ……」と荒い息を吐きながら、食い入るようにその肉体美を見つめた。南半球の過酷な環境とジャンクフードで鍛え上げられた分厚い大胸筋、引き締まった腹筋。十六億人の女性が住む北半球において、唯一無二の生身のオスの肉体である。


「よし、それじゃあスキャンの準備の最終工程に入るわね」

 理沙はそう言うと、どこからともなく透明な液体の入ったボトルを取り出し、自分の手のひらにトポトポと注ぎ始めた。

「……なんですか、それ。変な薬品とかじゃないですよね?」

「薬品なんてとんでもない。ただのオイルよ。レーザー光の反射効率を最大化して、皮膚の表面張力を均一にするための特殊なローションみたいなものね」


 理沙はオイルまみれになった両手をすり合わせ、ジリジリと全裸のタケルに歩み寄ってきた。

「機械やハケじゃ細かい起伏に塗り込めないから、私が『素手』で丁寧にコーティングしてあげるわ。さあ、力を抜いて……」

「ひゃっ!?」

 理沙の白くて細い指先が、タケルの分厚い胸板に触れた。オイルはなぜか人肌の温度に温められており、ひやりとするどころか、生温かくてひどく生々しい感触だった。

「すごい……なんて弾力のある大胸筋。それに、この燃えてるような熱量……」


 理沙はハァハァと息を荒くしながら、首筋から胸板、そして脇の下へと、ねっとりとオイルを絡ませるように手を這わせていく。さらに、タケルの腕を下から持ち上げ、ゴツゴツとした指の一本一本まで、自分の指を絡めながら執拗に塗り込んでいくのだ。

 彼女の身体から漂う甘い香水と、女性特有のフェロモン。そして、オイルで滑りを増した柔らかい素手の感触が、タケルの嗅覚と触覚を限界まで刺激する。


「あ、ちょ……理沙さん、そこは……っ!」

「動かないで、タケル君。ちゃんと下腹部の鼠径部そけいぶまで塗り込まないと、データにムラができるのよ」

「だ、だからって……手つきがみだらすぎるってば! んあっ……!」


 一方、その頃。

 分厚い防音ドアで隔てられた検査室の外では、タケルを二十四時間護衛する任務に就いている二人の女性警護官が、直立不動の姿勢を崩し、壁に耳をへばりつけていた。

 わずかな隙間から漏れ聞こえてくる、中でのやり取り。


『ダメっ……理沙さん、そこはダメっだって!』

『いいから大人しく私に体をゆだねなさい。ほら、こんなに熱くなって……』

『や、やめ……あっ、んんっ……!』


「……っ!!」

 それを聞いた二人の警護官の顔は、瞬く間に沸騰したように真っ赤に染め上がった。

「た、タケル様が……あの変態チーフの毒牙にかかって、全身をオイルまみれにされながら弄ばれている……っ!」

「なんて羨まし……いえ、なんてお可哀想な! 私だって、私だってそのオイルの役目を代わって差し上げたいぃぃっ!」

 北半球の無菌室のような社会でエリートとして育ってきた彼女たちにとって、生身の男の艶かしい喘ぎ声は、致死量を超える強烈な劇薬だった。

「あぁっ……タケル様の、オスの熱い吐息が、脳に直接響いて……っ」

 二人の警護官は完全に妄想を爆発させ、鼻からツーッと赤い筋を流しながら、幸せそうな顔で廊下の床にパタリと倒れ伏したのだった。

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