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男女比『1:16億』の北半球 ~50年ぶりの生身の男に、世界中が大パニック&大熱狂!~  作者: 団田図


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第34話 料理中の密着

「フライパンは重いからな、俺が支えてやる。一緒に振るぞ、せーのっ」

「あ、うんっ……!」

 ゼロ距離で感じる、リアルな兄の圧倒的なオスの熱量。そして、首筋に吹きかかるタケルの息遣い。

 南半球の過酷な環境で育ち、女性に対する免疫もデリカシーもないタケルにとって、これは単なる「料理の指導」でしかなかった。しかし、十五歳の感情豊かな少女である芽衣にとって、憧れの生身の兄からの強烈なスキンシップは、完全にキャパシティオーバーだった。


「あっ……ソースが跳ねた」

 タケルはフライパンを火から下ろすと、芽衣の頬に飛んだ茶色い肉汁のソースを、自分の親指で無造作に拭ってやった。

「熱くなかったか? 火のそばは気をつけろよ」

 ワイルドに笑いかける精悍せいかんな顔つき。

「あ、あわわ……っ」

 芽衣の顔は瞬く間に熟れたチェリーのように真っ赤に染まり、頭頂部からプシューッと湯気が出そうなほど限界を迎えていた。ブラコン気質とツンデレな性格が完全にショートし、タケルの腕の中で小さく震えることしかできない。


 一方、その頃。

 玄関のドアの外では、異常事態が発生していた。

 マンションの高性能な換気扇をすり抜け、廊下に漏れ出した「暴力的なガーリックと肉の焼ける匂い」。そして、ドアの向こうから聞こえてくる、芽衣の「ひゃっ」「あっ、お兄ちゃん、熱い……っ!」「近すぎるよぉ……っ」という、誤解を招くような高揚した声。


「……くっ! 中、中でタケル様がどんな乱れた行為を……!?」

「ただでさえタケル様のオスのフェロモンに耐えているのに、この強烈な匂いと声のコンボ……! 理性が、理性が飛びそうです……っ!」

 エリートであるはずの二人の女性警護官は、ドアにピタリと耳をへばりつけ、顔を真っ赤にして床に崩れ落ち、本能からの激しい刺激に悶絶していたのである。


 +++


「お兄ちゃん、もうそれくらいで……焦げちゃうよ!」

「大丈夫だ、この焦げ目が美味いんだよ。よし、そろそろ火から下ろすぞ」

 タケルと芽衣が、油の跳ねるキッチンで肩を並べて笑い合っていた、まさにその時だった。


 ピンポーン、と。静かなマンションに、来客を告げる無機質なインターホンの電子音が鳴り響いた。

「おっ、誰か来たみたいだな。ちょっと待ってろ」

 タケルがエプロン姿のまま、フライパンを火から下ろして玄関へと向かう。ドアを開けると、そこには二人の女性警護官が顔を真っ赤にして膝から崩れ落ちており、その奥に、淡いワンピースを着た葉寺はでら優愛ゆあが、困惑した表情で立っていた。


「あ、タケルさん……。あの、警護官さんたちがドアの前で倒れているんですけど……それに、なんだかすごくいい匂いが」

「優愛! 来てくれたのか。こいつらは……まあ、気にしなくていいと思う。今ちょうど、南から届いた肉を焼いてたところなんだ。上がってくれよ」

 タケルは倒れた警護官たちを適当にあしらい、優愛をリビングへと招き入れた。


 優愛がリビングに足を踏み入れると、そこには北半球の無菌室のような空気とはまるで違う、暴力的なまでに食欲をそそるガーリックと肉の脂の匂いが充満していた。

 そして、キッチンの方に視線を向けると、そこにはエプロン姿のタケルと、同じくエプロンをつけて頬を赤らめている芽衣の姿があった。タケルの大きな手が、芽衣の頭にポンと置かれている。まるで、新婚夫婦のような甘い空気が漂っていた。


「……っ」

 その光景を見た瞬間、優愛の透明な瞳の奥に、静かだが激しいヤキモチの炎がボワッと燃え上がった。

「優愛さん、いらっしゃい。今ね、お兄ちゃんが私だけのために、南の特別なお料理を教えてくれてたの」

 芽衣がタケルの腕にギュッと抱きつき、わざとらしく優越感に浸った笑みを浮かべる。リアルな兄を独占する「家族特権」の誇示だった。


「……家族特権って、ズルいです」

 優愛は低い声でポツリと呟くと、ポシェットをソファに放り投げ、スタスタとキッチンへ歩み寄った。

「私だって、タケルさんのお手伝いをします! お肉の切り分けなら、私にもできますから!」

「ちょっと! 優愛さんはお客さんなんだから座っててよ!」

「いいえ、やります! タケルさん、包丁はどこですか!?」

 優愛は強引にタケルと芽衣の間に割り込み、タケルの右腕のポジションをガッチリとキープした。

「お、おい、二人とも落ち着けって! 刃物は危ないから俺がやる!」


 右には純粋ゆえの重い愛情と嫉妬を燃やす優愛。左にはブラコン全開で牽制してくる妹の芽衣。南の野蛮な男であるタケルは、少女二人の柔らかな身体に両脇を固められ、滝のような冷や汗を流しながら、ドタバタクッキングバトルを繰り広げる羽目になったのである。

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