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男女比『1:16億』の北半球 ~50年ぶりの生身の男に、世界中が大パニック&大熱狂!~  作者: 団田図


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第33話 南からの贈り物

 前回のブラック・ママ・マーケットによる誘拐未遂事件を受け、御手宮おてみやタケルの日常はさらに窮屈なものとなっていた。

 北半球の政府から派遣された女性警護官たちが、十人体制で二十四時間、常に二人がかりでタケルに張り付くようになったのだ。彼女たちは「プライベートな空間には立ち入らない」というルールを遵守し、タケルが暮らすマンションの玄関ドアの外に直立不動で待機している。しかし、ドアの向こう側から常に監視されているというプレッシャーは、タケルの肩に重くのしかかっていた。


「はぁ……なんだか、見張られてるってだけで緊張して腹が減るな」

 リビングのソファに深く腰を沈め、タケルは深いため息をついた。

 ダイニングテーブルの上に用意されていたのは、北半球の高度なテクノロジーが詰まった「バイオ培養食」である。完璧な栄養素が計算され、見た目も美しく、洗練された上品な味がするゼリーやペースト状の食事。北の女性たちにとってはこれが当たり前のクリーンな食生活なのだが、南半球の過酷な環境で育ち、脂の滴るような肉や高カロリーなジャンクフードを日常的に食らっていたタフな肉体のタケルにとっては、どうにも「食べた気」がしない代物だった。


「綺麗すぎるんだよな、こっちの飯は……。もっとこう、ガツンとくるものが食べたい……」

 タケルが空腹を持て余して天井を仰いだ、その時だった。


 ウィィィィン……。

 ベランダの方から、聞き慣れたモーター音が響いてきた。

 タケルが窓を開けると、夜空を飛んで一機の無人輸送機、ドローンが手すりに着陸したところだった。

「おっ! これ、俺が南で組んでたやつじゃないか!」

 タケルは目を輝かせた。それはただの配達用ドローンではない。タケルが将来、南の資源と北の医薬品を交換する自動輸送ルートを支える「ドローン整備士」になるという夢のために、自らの手でカスタマイズし、大切に整備していた特別な機体だったのだ。


 ドローンのカーゴボックスには、南半球にいる父・英明ひであきからのメッセージカードが添えられていた。

『タケル、無事か。北の飯に飽きてる頃だと思ってな。俺たちのパワーの源を送る。しっかり食って、北の女たちに負けるなよ』

 不器用な父親の愛情に苦笑いしながら、タケルがボックスを開けると、そこには北の無菌社会では絶対にお目にかかれない「密輸品」がギッシリと詰まっていた。

 分厚く切り出された赤身肉の塊、泥がまだついたままの無骨な野菜、そして鼻を突くほど刺激的な香りを放つ粗挽きのスパイスボトルだ。


「うおおおっ! 親父、最高だぜ!」

 タケルが歓喜の声を上げると、自室から妹の御手宮おてみや芽衣めいがパタパタと小走りでリビングにやってきた。

「お兄ちゃん、何してるの……って、何そのお肉! すっごい野生的な匂いがする!」

 十五歳の芽衣は、あまり目にしない本物の泥つき野菜と血の滴る肉塊に目を丸くした。しかし、彼女の瞳の奥には、嫌悪感ではなく強烈な好奇心が燃え上がっていた。

 芽衣の将来の夢は、「バイオ培養食のフレーバー開発者」である。以前、通信越しにタケルが食べていた南の高カロリーな手料理の見た目に衝撃を受けて以来、新しい味覚を研究することに情熱を燃やしているのだ。


「お兄ちゃん、これ、私に調理させて!」

 芽衣は腕まくりをして、キッチンに立つ。彼女は最新鋭のAI調理器を起動し、肉の塊をセットした。

「AI、カロリーと脂質を最適化して、このお肉を一番美味しく焼いて!」

『……調理を開始します』

 AI調理器は完璧な温度管理で肉を焼き上げ、余分な脂を丁寧に落としていく。数分後、綺麗に切り分けられた上品なステーキが皿に盛られた。

 芽衣が期待に胸を膨らませて一口食べる。しかし、その表情はすぐに曇った。

「……違う。これじゃない。お肉は柔らかいけど、私が求めてる『南の雑な油っぽさ』や『ガツンとくる旨味』が全然出てるように思えない……っ!」

 芽衣は悔しそうに唇を噛んだ。完璧すぎるAIの制御が、南の暴力的なまでの生命力の味を殺してしまっていたのだ。


 +++


「貸してみろ、芽衣。南の料理ってのは、そんなお上品に作るもんじゃないんだよ」

 見かねたタケルがエプロンを身につけ、キッチンの前に立った。

 タケルは迷わずAIの自動制御システムを強制オフに切り替える。

「えっ!? ちょっとお兄ちゃん、AI切ったら温度管理が……!」

「細かいことは気にするな。火力は最大、油はたっぷりだ!」


 ジュワアアアアッ!!


 熱したフライパンに分厚い肉の塊を放り込むと、激しい音と共に、暴力的なまでに香ばしい匂いが弾けた。タケルは肉汁が溢れるのも構わず、豪快に粗挽きスパイスを振りかける。

 ピチピチと油が跳ね、北半球のチリ一つない清潔なキッチンが、見る間に南の雑多な油汚れで染まっていく。


「ほら、芽衣。肉はこうやって、焦げ目を恐れずにしっかり焼き付けるんだぞ」

 タケルは芽衣の背後に回り込み、彼女の小さな両手を、自分の分厚く大きな手で包み込んだ。

「ひゃっ……!」

 タケルの隆起した大胸筋が芽衣の背中に密着し、健康的に日焼けした腕が彼女の視界を覆う。

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