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男女比『1:16億』の北半球 ~50年ぶりの生身の男に、世界中が大パニック&大熱狂!~  作者: 団田図


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第31話 誘拐

 高度に自動化され、塵一つ落ちていない北半球の朝は、ひどく静かで無機質だった。

 まだ太陽が昇りきっていない薄暗い時間帯。御手宮おてみやタケルは、支給されたバイオ繊維のスポーツウェアに身を包み、整備された無人の遊歩道を一定のペースで駆け抜けていた。

 頭には目深に被った帽子、顔の半分を覆う大きなサングラス、そして分厚いマスクという、明らかに不審者じみた重装備である。

 タケルは南半球特有のワイルドな環境と、毎日のように食らう高カロリーなジャンクフードによって作り上げられた、タフで筋肉質な体格をしている。北半球での生活は快適だが、南の男だらけのむさ苦しい活気や、石炭と機械油の匂いが少しだけ恋しかった。何より、常に誰かに見られ、少しでも正体がバレれば大パニックになる日々に、タケルは息苦しさを感じていたのだ。

 だからこそ、誰もいない早朝に重装備でジョギングをすることが、彼にとって唯一のストレス解消法であり、日課となっていた。


 タケルの百八十センチの長身から放たれる圧倒的な熱量と、アスファルトを力強く蹴る足音。

 すれ違う早起きの女性たちは、タケルの正体を知る由もないが、その特異なオスのフェロモンと生命力に無意識に当てられ、頬を赤らめて思わず振り返ってしまう。


 +++


 華やかで清潔な北半球の社会の裏側には、政府の管理を逃れ非合法に精子や遺伝子情報を取引するアンダーグラウンド市場、通称ブラック・ママ・マーケットのシンジケートが存在していた。

 国家の技術エリートであるテクノクラートが厳格に管理する遺伝子割り当て法に不満を持つ富裕層に向け、未検査の遺伝子を高値で売りさばく闇の組織である。

 薄暗い地下駐車場のバンの中で、シンジケートの実行部隊であるセクシーな女怪盗集団が、モニターに映るタケルの姿を舐め回すように見つめていた。


「歩く特級遺伝子、御手宮タケル……今日も同じルートを走っているわね」

 タイトなレザースーツに身を包んだリーダー格の女が、艶やかな唇を歪めて笑う。

「政府の警護が薄くなるこの早朝のタイミング。完璧なルーティンだわ」

「リーダー。彼を捕まえたら、すぐにクライアントに引き渡すんですか?」

 部下の女が、息を荒くして身を乗り出した。

「馬鹿ね。五十年ぶりの生身の男よ? しかもあんなに極上で、生命力に溢れてる。闇市場で何百億という値がつく前に……まずは私たちで、たっぷり極上の遺伝子を堪能させてもらうに決まってるじゃない」

 女怪盗たちは獲物を狙う肉食獣のような瞳を光らせ、静かにバンを発進させた。


 +++


「ふぅ……だいぶペースが上がってきたな」

 タケルは額に浮かんだ汗を拭い、息を整えながら角を曲がった。

 その時だった。


「きゃあっ!」


 タケルの数メートル前を歩いていた、露出度の高いセクシーなスポーツウェアを着た女性が、派手な音を立てて大げさに転倒したのだ。

 タケルは足を止め、ハッとした。

 頭に浮かんだのは、南半球にいる祖父の御手宮おてみや隼人はやとから通信越しに教わった、レディーファーストで徹底的に紳士として扱えという、旧時代の恋愛テクニックだった。


「大丈夫ですか!?」

 タケルは疑いもせず女性に駆け寄り、その場にしゃがみ込んだ。

「あいたた……足首を捻ってしまったみたい。痛くて、立てなくて……」

 女性は上目遣いでタケルを見つめ、ひどく甘えた、胸の奥をくすぐるような声を出した。香水のキツい匂いがタケルの鼻腔を突く。

「それは大変だ。救急ドローンを呼びますか?」

「ううん、大丈夫。あそこの駐車場に私の車が停めてあるの。連れが待っているから、そこまで運んでくれないかしら……?」

 女性は潤んだ瞳でタケルの腕にすがりついてきた。


 タケルは「仕方ないな」と頷き、女性の背中と膝の裏に太い腕を回し、軽々と抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこである。

「ひゃっ……!」

 女性は小さな悲鳴を上げた。演技ではなく、南の男の暴力的なまでの腕力と、密着した分厚い胸板から伝わる恐ろしいほどの熱量に、本能的な恐怖と強烈な快感を同時に覚えてしまったのだ。


「車はあっちですね。しっかり掴まっててください」

 タケルは女性を抱えたまま、指定された薄暗い立体駐車場へと足を踏み入れた。


 +++


「あの黒いバンよ。ありがとう、優しいのね」

 女性が指差した先には、大型の黒いバンがエンジンを切って停まっていた。

 タケルがバンのスライドドアの前に立ち、女性を降ろそうとした、まさにその瞬間だった。


 バァンッ!


 内側から勢いよくドアが開き、車の中に潜んでいた仲間の女怪盗たちが無数の手を伸ばしてきた。

「えっ!?」

 タケルが驚く間もなく、腕や肩、胸ぐらを強烈な力で掴まれ、車内へと強引に引きずり込まれそうになる。

「な、なんだお前ら!」

 タケルは持ち前のタフな身体能力で踏ん張ろうとした。しかし、背後から先ほどまで怪我人のふりをしていた女性が、タケルの首筋に特殊なスタンガンを押し当てた。


 バチィッ!!


「ぐああっ!?」

 強烈な電流と、同時に車内に充満した甘い匂いの催眠ガスを吸い込み、タケルの身体から一気に力が抜け落ちる。

 抵抗虚しく、タケルはバンの後部座席に引きずり込まれ、ドアが乱暴に閉められた。


 薄暗い車内。意識が朦朧もうろうとするタケルの視界に映ったのは、獲物を仕留めたセクシーな女怪盗集団の妖艶な笑顔だった。

「捕まえたわ、全世界の希望」

 リーダーの女がタケルに馬乗りになり、その逞しい胸板を指先でなぞる。他の女たちもタケルの両手両足をしっかりと押さえ込み、逃げ場を完全に塞いだ。

「こんなに立派な身体……。ねえ、私たちと最高の遺伝子を残しましょう? 優しくしてあげるから、抵抗しないでよ。一緒に気持ちよくなるのよ」

 女の甘く危険な囁きが耳元で響く。

 タケルは薄れゆく意識の中で、どうすることもできずに絶望の声を上げるしかなかった。


 +++


「さあ、まずはその邪魔なウェアから脱がせてあげる……」


 薄暗いバンの後部座席。リーダーの女の艶やかな手が、抵抗できない御手宮おてみやタケルの胸元にかかった、まさにその瞬間だった。

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