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男女比『1:16億』の北半球 ~50年ぶりの生身の男に、世界中が大パニック&大熱狂!~  作者: 団田図


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第26話 VIP席

 北半球の極東アジア地区、東京・有明。

 抜けるような青空の下、高度に自動化された都市の真ん中に、巨大な流線型のドームが銀色の輝きを放ってそびえ立っていた。北半球が誇る最新鋭のエンタメ施設、有明巨大コンサートホールである。

 御手宮おてみやタケルは、政府の「特級遺伝子に対する歓迎と慰労」という名目で、今日この場所で行われるライブのVIP席に招待されていた。


「すごいな……外も中も、チリ一つ落ちてないぞ」


 タケルはホールのエントランスを歩きながら、圧倒されたように周囲を見回した。

 空調は完璧に管理され、ほのかにフローラルな香りが漂っている。足元の磨き上げられた床は鏡のようにタケルの顔を映し出し、無音の案内ドローンが空を滑るように飛んでいた。

 タケルの故郷である南半球の赤道直下にも『ツイン・シェル・アリーナ』という巨大施設があったが、あそこは咽せ返るような機械油の匂いと男たちの怒号、そして剥き出しの熱気が渦巻く泥臭い場所だった。それに比べ、この北半球の施設はあまりにも綺麗で、まるで宇宙船の中にいるかのようだった。


「お兄ちゃん、キョロキョロしないでよ! 田舎者丸出しで恥ずかしいんだから!」


 タケルの左腕にがっちりと抱きつきながら、妹の御手宮おてみや芽衣めいがツンと唇を尖らせた。

 今日は休日のプライベートな招待ということもあり、芽衣は気合いの入ったフリルのついた可愛らしいブラウスを着ている。「はぐれたら危ないから!」という大義名分のもと、彼女はここぞとばかりに兄のたくましい腕を自分の胸元に押し当てていた。


 そんな仲睦まじい(?)兄妹の様子を、少し後ろから羨ましそうに見つめている少女がいた。

 タケルの文通相手であり、先日初めてのデートを経験したばかりの葉寺はでら優愛ゆあだ。

 淡いピンク色のワンピースに身を包んだ彼女は、タケルの空いている右腕と、ピッタリとくっつく芽衣の姿を交互に見つめ、モジモジと自分の指先を弄っている。

(私も、あんな風にタケル君の腕に……ううん、せめて手だけでも……でも、恥ずかしくて自分からは言えないよ……)


 優愛が切なそうに視線を落とした、その時だった。

「優愛」

 不意に名前を呼ばれ、顔を上げる。

 そこには、立ち止まって優しく微笑むタケルの姿があった。彼は健康的に日焼けした大きな右手を、優愛の目の前にスッと差し出していた。

「ここ、人が多いから。優愛も、はぐれたら危ないだろ」

「あ……っ」

 優愛の顔が、瞬く間に完熟スモモのように真っ赤に染まった。

 恐る恐る、自分の白くて小さな手をタケルの手のひらに重ねる。するとタケルは、優愛の指の間に自分の太い指を滑り込ませ、ギュッと力強く握りしめた。

 恋人つなぎだ。

 南半球の過酷な環境で育ったタケルの手は少しゴツゴツしていたが、そこから伝わってくる生身の男の体温は、優愛の胸の奥を強烈に甘く痺れさせた。

「た、タケルさん……温かいです……」

 優愛がとろけそうな声で呟いた瞬間、タケルの左腕をホールドしていた芽衣が「はっ!」と鬼の形相で二人の手を睨みつけた。


「ちょっと! なんで自然に恋人つなぎなんかしてるのよ! ズルい! 抜け駆け禁止!」

「なっ、ズルいってなんだよ! 優愛が一人で歩いてたら危ないだろ!」

「じゃあ私だって、もっとくっつくもん!」

 芽衣は激しい嫉妬心から、タケルの左腕をさらに強い力で抱え込み、自分の身体をタケルの脇腹に密着させた。

 右には恥じらいながらも手を強く握り返してくる純粋な少女。左にはブラコン気質を爆発させてしがみついてくる妹。

 タケルは両腕を完全に封じられ、「歩きにくいっての……!」と冷や汗を流しながら、周囲の女性客からの羨望と殺意の入り混じった視線を浴びてVIP席へと案内されていった。


+++


 ホール内部は、開演前から凄まじい熱気に包まれていた。

 タケルたちが案内されたのは、ステージの目の前、手を伸ばせば届きそうなほどの最前列中央にある特等席だった。周囲は厳重なセキュリティで囲まれており、一般客は近づけないようになっている。

 やがて、会場の照明がゆっくりと落ちた。

 地鳴りのような歓声が湧き上がり、無数のレーザー光線がステージの中央を射抜く。

 眩い光の中から、ポップアップリフトに乗って一人の少女が勢いよく飛び出してきた。


「みんなー! 今日は最高の夜にしようねっ!!」


 鼓膜を震わせる爆音のイントロと共に、トップアイドル・星波ほしなみキララがステージに舞い降りた。

 十八歳。自分の欲求に素直で、情熱的な性格そのままに、彼女はステージを縦横無尽に駆け回る。遠くからでも目を引く華やかなオーラと、カリスマ性に満ちた魅惑的なルックス。彼女が手を一振りするだけで、会場を埋め尽くした数万人の女性ファンが絶叫し、熱狂の渦が巻き起こった。


「すげえ……これが北半球のトップアイドル……」

 タケルは圧倒され、ステージから目を離せなかった。AR越しの映像とは次元が違う。生の歌声、激しいダンス、そして彼女から発せられる熱量が、ビリビリと肌に伝わってくる。


 一方、ステージ上のキララは、完璧なパフォーマンスをこなしながらも、ふと視線を最前列のVIP席へと向けた。

 政府関係者やスポンサーが座る退屈な席。いつもなら一瞥して終わるはずのその場所に、今日は『異物』があった。

(……え?)

 キララの動きが、ほんの一瞬だけ止まった。

 そこに座っていたのは、ニュースで世界中を騒がせている特級遺伝子の少年、御手宮タケルだったのだ。

 だが、映像で見るのとはまるで違った。

 照明に照らし出されたタケルの姿は、北半球の無菌室のような世界で育った女性たちには絶対に持ち得ない、圧倒的な質量を伴っていた。健康的に日焼けした精悍な顔つき、服の上からでもわかる分厚い大胸筋、そして、ステージを見つめる野性味あふれる鋭い眼差し。

 完璧に統制されたこのエンタメ空間において、彼だけが強烈な「オスの生命力」を放っていたのだ。

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