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男女比『1:16億』の北半球 ~50年ぶりの生身の男に、世界中が大パニック&大熱狂!~  作者: 団田図


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第27話 ファンサービス

 ドクンッ! と、キララの心臓がこれまでにないほど大きく跳ねた。

(な、なに……この胸のドキドキ……っ! 実物の男の人って、こんなに……こんなに惹かれるものなの!?)

 キララはマイクを握る手にギュッと力を込めた。自分の欲求に極めて素直な彼女の本能が、警鐘を鳴らすと同時に、爆発的なスピードで恋に落ちていくのを感じていた。

 北半球のトップアイドルが、南半球の生身の男に、文字通りの『一目惚れ』をした瞬間だった。


+++


 そこからのキララのパフォーマンスは、明らかにおかしな方向へとヒートアップしていった。

「いくよーっ!」

 キララは曲の間奏に入ると、ステージのギリギリまで歩み寄り、VIP席のタケルの真正面にしゃがみ込んだ。

 そして、タケルの目を真っ直ぐに見つめながら、バチンッ! と音が鳴りそうなほど熱烈なウインクを飛ばしたのだ。


「えっ!?」

 突然のトップアイドルからの露骨なファンサービスに、タケルは驚いて目を丸くした。

 しかし、キララの猛アタックはそれだけでは終わらない。

 彼女は歌いながら、胸元を少し強調するようなセクシーな振り付けをタケルに見せつけ、曲のラストには、手のひらにキスをしてタケルに向けてフッと吹きかける『投げキッス』まで放ったのだ。


「キャアアアアッ! キララちゃんの特大ファンサよ!!」

 背後の一般客たちは誰に向けられたものか気づかず熱狂していたが、VIP席の空気は、北極の氷点下のように冷え切っていた。


「……タケルさん」

 優愛の声が、地を這うような低いトーンに変わっていた。

 タケルが恐る恐る右を見ると、優愛の清楚な顔からは表情がすっぽりと抜け落ち、その透明な瞳には、静かだが激しい独占欲の炎がゆらゆらと燃え上がっていた。

「あの子のこと、そんなに見つめないで。タケルさんは、私と手を繋いでるんですよ……?」

 優愛はそう言うと、タケルの右手を両手で包み込み、絶対に逃がさないとばかりにギュウウウッと強く握りしめた。


「い、痛い痛い! 優愛、指の骨が軋んでる!」

「ふんっ! ただのアイドル風情が、私のお兄ちゃんに色目使ってんじゃないわよ!」

 左側では、芽衣がステージ上のキララに向けて、今にも飛びかからんばかりに牙を剥いていた。

「お兄ちゃんもデレデレしないの! あんなチャラチャラした女より、妹の私の方が見る価値あるでしょ!」

 芽衣はタケルの左腕にさらに深くしがみつき、自分の存在を強烈にアピールしてくる。


 前方からは、トップアイドルからの情熱的で猛烈なアピール。

 両隣からは、純粋ゆえの重い愛情を暴走させる優愛と、ブラコン全開の芽衣からの、バチバチの嫉妬の炎。


「お、俺はただ……音楽ライブを楽しみたかっただけなのに……っ!」


 逃げ場のないVIP席のど真ん中で、タケルは滝のような冷や汗を流しながら、三人の女性の狂騒に挟まれて小さく震えることしかできなかった。


+++


 二時間に及ぶ狂乱のライブが終了し、会場の熱気がようやく引き始めた頃。

 御手宮おてみやタケル、葉寺はでら優愛ゆあ、そして御手宮芽衣めいの三人は、黒服の女性スタッフに案内され、ホールの奥深くにあるVIP専用の楽屋へと足を踏み入れていた。

 北半球の最新鋭の施設らしく、楽屋はチリ一つない真っ白な空間で、完璧な空調が効いている。しかし、そこに漂う空気は決して穏やかなものではなかった。


「……なんで私たちが、あんなアイドルの楽屋に挨拶に行かなきゃいけないのよ」

 芽衣が不機嫌さを隠そうともせず、タケルの腕をギュッと抱きしめながら毒づく。

「仕方ないだろ、政府からの招待のプログラムに入ってたんだから」

 タケルが苦笑しながらなだめるが、反対側に立つ優愛もまた、静かな、しかし確かな怒りを孕んだ目をしていた。

「タケルさんは、あの子の過激なアピール……嬉しかったですか?」

「う、嬉しくなんかないって! あんな大勢の前で投げキッスなんかされて、寿命が縮むかと思ったよ」


 タケルが必死に弁解した、まさにその時だった。

「あはっ! 寿命が縮むくらいドキドキしてくれたんだ! 嬉しいなっ!」

 楽屋の奥から、弾むような声と共に、ライブ衣装のままの星波ほしなみキララが飛び出してきた。

 先ほどまで数万人を熱狂させていたトップアイドル。彼女の肌にはまだ汗が滴り、ライブ直後の強烈な熱気と甘い香水の匂いが、狭い楽屋の中に一気に充満する。


「初めまして、御手宮タケル君! 実物のあなたに会えるなんて、本当に感激!」

 キララはタケルの前に立つと、周囲の目など一切気にせず、ズカズカと彼のパーソナルスペースに踏み込んできた。

 北半球の女性たちは、タケルを見ると「キャアアッ」と遠巻きに悲鳴を上げて群がるか、極度の緊張で固まってしまうのが常だった。高度に自動化され、無菌室のような社会で育った彼女たち特有の「か弱さ」だ。

 しかし、キララは違った。彼女の瞳には、トップパフォーマーとしての圧倒的な自信と、自分の欲求に対する純粋なまでの情熱が燃え盛っていた。

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