第24話 細胞の秘密
タケルの身体がビクッと跳ねる。
「力を抜いて。素手の方が接触面が多くて洗浄効果が上がるの……素晴らしい大胸筋ね。南のオスの筋肉は、本当に反発力が強くて魅力的だわ」
理沙は素手で、タケルの首から胸、脇、そして太い腕へと、丁寧に泡を滑らせていく。さらに、タケルのゴツゴツとした指の一本一本まで、自分の指を絡めるようにして執拗に洗っていくのだ。
「あ……ちょ、あの……」
「タケル君、体温が上がっているわよ。血流が良くなっている証拠ね」
理沙は何度も泡を作ってはタケルの体を洗っているので、次第に「ハァ、ハァ」と息切れし始めていた。
そして、その激しい動きとシャワーの水飛沫によって、理沙の着ている薄いシャツが完全に濡れて肌に張り付いてしまった。
「え……っ」
タケルは目のやり場に困り、視線を泳がせた。濡れたシャツは半透明になり、理沙の豊かな胸の谷間や、その下につけているセクシーな黒い下着のシルエットが、くっきりと透けて見えてしまっていたのだ。
「次は、下半身を洗うわね」
息を荒くした理沙が、正面からタケルの足元にしゃがみ込む。
そして、彼女の白くて奇麗な手が、椅子のU字穴を通って、タケルの股間の下を何度も往復しながら丁寧に洗い始めたのだ。
「ひゃっ!? まっ、待て! そこは自分で……っ!」
「動かないで。雑菌を残さないための、大切な医学的プロセスなんだから」
透け透けのシャツを着たセクシーな美人女医が、息を乱しながら、素手で自分の股間を泡まみれにして撫で回している。
十七歳の健全な男子高校生であり、女性への免疫が全くないタケルにとって、これは完全に許容量を振り切る限界突破の刺激だった。
「あ、あああっ……!」
脳の理性とは全く無関係に、タケルの下半身の血流が一気に集中し、タケルの『男』が我慢ができずに大きくそそり立ってしまった。
「あ……っ」
理沙の手がピタリと止まり、彼女の瞳がU字穴から突き出したタケルの反応に釘付けになった。
「い、いや! これはその、違う! あんたがそんな変な触り方するから……!」
タケルが顔から火が出るほどの羞恥に悶え、両手で顔を覆い隠す。
しかし、理沙は顔を赤らめながらも、ニヤリと妖しい笑みを浮かべた。
「タケル君、恥ずかしがることはないわ。これは視覚的、触覚的刺激に伴う血流の集中による、極めて正常な男子の反応よ」
理沙はあくまで科学的に解説しながら、しかしその手はタケルのアソコから離そうとはしなかった。
「海綿体の膨張率、それにこの熱量……教科書以上の素晴らしいデータが取れそうね。さあ、もっと詳しく『観察』と『洗体』を続けさせてもらうわよ」
「誰か助けてくれえええっ!」
密室の専用浴場に、タケルの悲痛な叫び声が虚しく響き渡る。
北半球のテクノクラートによる、恐ろしくも甘美な「遺伝子検査」は、まだ始まったばかりだった。
+++
「ハァ……ハァ……死ぬかと思った……」
徹底的すぎる、そしてあまりにも過激な「洗体」からようやく解放された御手宮タケルは、支給された薄い検査用のガウンに身を包み、ふらふらとした足取りで隣の診察室へと連行されていた。
密室の診察室には、冷たい金属製の診察台と、壁一面を覆う巨大なモニターや見たこともない複雑な検査機器が並んでいる。
「さて、綺麗になったところで、いよいよ本番よ」
振り返ると、濡れて透け透けになったシャツの上に再び最先端のスタイリッシュな白衣を羽織った霧島理沙が、妖艶な笑みを浮かべて立っていた。彼女の瞳には、天才的な頭脳を持つテクノクラートとしての探求心と、大人の女性としての危険な欲望が渦巻いている。
「ほ、本番って……もう身体のデータは十分取ったじゃないですか!」
「何言ってるの。あなたのその『ゼロ・シェル』をすり抜ける特異体質の謎を解明するためには、もっと深い部分……あなたの優秀な特級遺伝子情報を直接採取させてもらう必要があるのよ」
理沙はジリジリとタケルを追い詰め、ついに彼を冷たい診察台の上へと押し倒した。
「ちょ、理沙さん!? 顔が近い! 息が……っ!」
「さあ、力を抜いて。私が優しく、直接『採取』してあげるから……」
理沙の甘い香水と女性特有の匂いがタケルの鼻腔をくすぐり、彼女の柔らかい身体がタケルの上に重なりそうになった、まさにその瞬間だった。
『ピーーーッ! 解析完了。血液データおよび細胞情報の照合が終了しました』
部屋の隅に設置された巨大な検査機器から、甲高い電子音と共に無機質なアナウンスが響き渡った。
「……ちっ、いいところなのに」
理沙は不満げに舌打ちをし、名残惜しそうにタケルの上から離れると、検査機器のモニターへと歩み寄った。
「さて、南半球のオスの細胞はどんな面白い数値を……」
理沙がモニターに映し出された複雑なグラフやDNAの螺旋構造のデータに目を落とした途端、彼女の顔から、先ほどまでの甘く危険な色がスッと消え去った。
「……え?」
理沙はメガネをくいっと押し上げ、モニターに顔がぶつかるほど近づいた。彼女の瞳はもはや発情した女性のものではなく、冷徹で鋭い「天才研究者」のそれに完全に切り替わっていた。
カタカタカタッ! と、凄まじい速度で手元のキーボードを叩き、データを様々な角度から再解析していく。
「どうしたんですか、理沙さん?」
診察台の上でポカンとしていたタケルが恐る恐る尋ねると、理沙はモニターから目を離さずに、震える声で独り言のようにつぶやいた。
「不思議ね……あなたの免疫細胞、北半球の1歳未満の乳児特有のデータと、南半球の成人男性のデータが、まるでパッチワークみたいに混ざっているわ」
「パッチワーク……?」
「ええ。通常、細胞の性質は成長や環境の変化とともに完全に書き換わるものよ。でもあなたの細胞は、北で生まれて南へ送られる直前の『1歳未満の記憶』を強烈に保持したまま、南の過酷な環境に適応した大人の細胞と奇跡的なバランスで共存している。こんな矛盾した細胞構造、あり得ないわ……」
理沙は自身の爪を噛みながら、ブツブツと仮説を組み立てていく。
「ゼロ・シェルの致死システムは、人間の遺伝子や年齢を判別している……もし、あなたのこのパッチワーク細胞が、壁のシステムをエラーに陥らせる『鍵』だとしたら……」
理沙は振り向き、タケルを食い入るように見つめた。そこにあるのは純粋な科学者としての歓喜だった。
「タケル君! 今日はもう帰っていいわ! 私、このデータの解析に早速取り掛かるから! 服を着てさっさと出ていきなさい!」
「えっ、あ、はい……」
つい数分前までベッドに押し倒してきていた大人の女性に、今度は「邪魔だから帰れ」とばかりに手でシッシッと追い払われ、タケルは疲労困憊のまま、逃げるように診察室を後にしたのだった。




