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男女比『1:16億』の北半球 ~50年ぶりの生身の男に、世界中が大パニック&大熱狂!~  作者: 団田図


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第12話 天才女医

「次に、初期バイタルチェックを行います。こちらのセンサーベルトを腕に巻いてください」

 職員の一人が、タケルの太い腕に薄いベルト状の機器を巻きつけた。

 その瞬間、職員が持っていたタブレットから『ピーーッ! ピーーッ!』というけたたましい警告音が鳴り響いた。

「えっ!? な、何!?」

 タケルが驚いて飛び退くと、職員の顔色がサッと変わった。

「た、大変です! 心拍数と体温が、北半球の成人女性の平均値を遥かに超える異常数値を叩き出しています! 未知の感染症の疑いが……!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 感染症じゃない!」

 タケルは慌てて手を振った。

「あんたたちがずっとジロジロ見てくるから、恥ずかしくてドキドキして、体温が上がってるだけだって!」

「え……私たちが、見ているから……?」

 女性職員たちは顔を見合わせ、そして一気に顔を林檎のように真っ赤に染め上げた。

「私たちが男の人に熱い視線を送ったせいで、男の人が……発情、いえ、興奮して体温が上がっているということですか……っ!?」

「言い方! 発情とか言わないでくれ!」

「す、すごい……これが本能ってやつですね……!」

 タケルの言葉を聞いて、職員たちはさらに興奮を加速させ、タブレットに表示されるタケルの異常なバイタルデータを食い入るように見つめ始めた。

 高度に管理された北の社会で、タケルの存在はあまりにも異物であり、そして魅力的すぎたのだ。

(……先が思いやられるな、これ)

 真っ赤になって警告音を鳴らし続けるバイタルセンサーを眺めながら、タケルは深く、深い溜め息をついた。


 +++


 除菌と初期バイタルチェックを終えた御手宮おてみやタケルは、女性職員たちに連れられ、本部ビル深部にある最新鋭の医療検査室へと案内された。

 そこは、タケルが南半球の旧インドネシア地区で見たこともないような、白銀に輝く広大な無菌室だった。部屋の壁際には未知の医療機器がズラリと並び、中央にはぽつんと真っ白な診察ベッドが置かれている。

 そして、そのベッドを取り囲むようにして、十数人もの女性研究員たちが待ち構えていた。彼女たちは全員、息を呑んでタケルの姿を見つめ、飢えた獣のようなギラギラとした瞳を向けている。


「ひぃっ……」

 タケルが思わず後ずさりしたその時、部屋の奥の自動ドアが静かに開いた。

「お待たせしたわね。君が例の……ほうっ!?」

 颯爽さっそうと現れたのは、スタイリッシュな最先端の白衣を身に纏った、息を呑むほどの美人だった。しかし、歩きながら手元のタブレット端末を凝視していた彼女は、何もない平坦な床で派手につまずき、前のめりにすっ転びそうになる。

「チ、チーフ! 大丈夫ですか!?」

 部下の研究員たちが慌てて駆け寄る中、彼女は「ご、コホン! 何でもないわ、床の摩擦係数が少し想定外だっただけよ」と強がって咳払いをした。

 立ち上がった彼女の姿に、タケルは思わず目を奪われた。白衣の下には、彼女の豊満な胸と魅力的なプロポーションを強調する、ひどくタイトな服を着ている。年齢は二十代後半だろうか。知的なメガネの奥には、天才特有の鋭さと、どこか抜けている愛嬌が同居していた。


「初めまして、御手宮タケル君。私は霧島きりしま理沙りさ。この北半球における特級遺伝子および抗体研究のチーフディレクター兼ドクターよ」

 理沙はタケルの前に立つと、メガネをくいっと押し上げ、クールな声で告げた。

「さっそくだけれど、あなたの特異体質と遺伝子情報を本格的に検査させてもらうわ。まずは、今着ている服と下着をすべて脱いで、全裸になりなさい」

「……はい?」

 タケルは間抜けな声を漏らした。

「全裸って……ここで、ですか!?」

「ええ、そうよ。あなたの身体の隅々まで、筋肉の付き方や骨格、皮膚の反応を詳細に記録する必要があるの」

 理沙は悪びれもせず、当然のことのように言い放つ。

 しかし、タケルの視界の端では、十数人の女性研究員たちが「ついに生身の男の全裸が……!」「カメラの解像度を最大に設定して!」と鼻息を荒くして身構えているのだ。

「い、いやいやいや! 絶対無理です! なんでこんな大人数に見られながら素っ裸にならなきゃいけないんですか!」

 タケルが必死に胸の前で両手を交差させると、理沙はため息をついた。

「タケル君、勘違いしないでちょうだい。私は医者であり、彼女たちは研究員よ。私たちの眼差しは極めて学術的なものであって、決してよこしまな感情など持っていないと明言しておくわ」

「邪な感情しかない顔してますよ、あの人たち! よだれ拭いてる人もいるし!」

 タケルが部下たちを指差して抗議する。実際、彼女たちはただ見ているだけで、検査の準備をするわけでもなく、完全に特等席でショーを待つ観客のようだった。

「検査に必要ないなら、せめて一人でやってください! 見世物じゃないんですから!」

 タケルが涙目で申し出ると、理沙は少しだけ口ごもった。

「……むぅ。彼女たちにも、五十年ぶりの『生身の男性』という貴重な検体を勉強させるために同席させたかったのだけれど……。被検体の精神的ストレスが検査データにノイズを入れる可能性は否定できないわね」

 理沙は渋々といった様子でタブレットを操作した。

「仕方ないわ。全員、モニター室へ下がりなさい。ここからは私一人で直接触診と検査を行うわ」

「ええーっ!? チーフ、抜け駆けはずるいです!」

「私たちも間近で筋肉を見たかったのに!」

 部下たちがブーブーと不満の声を上げながら退室していく。彼女たちが去った後、理沙はベッドの周囲をぐるりと囲む医療用の遮光カーテンを引いた。

 外界から完全に遮断された、密室。

 ベッドと、タケルと、理沙。ただ二人きりの空間になった。

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