最後の日、そして剣と拳は相見える
二日目。
俺達は早速ネルファのいる訓練所に来た。
「さて、今日は闘気の使い方の説明ですね」
「あああああ身体痛いよォォォ眠いよォォォォ」
昨日のハードトレーニングで身体全体が悲鳴を上げている……ホントに、その場から立つだけで涙が出るぜ。
「昨日行ったトレーニングは、事前に満身創痍の状態にしておくことで、闘気を使いやすくする為のものだったのです」
ん?そうか、確かに俺が初めて闘気を出した時も赤いエビルウロスに追い詰められて満身創痍だったからな。……そのための無駄にハードなトレーニングだったのか。
「なるほど。だからこその三日間なんだな」
「そういう事です。今日で本格的に闘気を扱えるようにしますので、ご安心ください」
いよいよ闘気が使えるようになんのか……いやアレ使ってる間めちゃくちゃ興奮するんだよな!なんかこう……超元気というか、健康というか。
その後放たれたネルファの発言に俺達は呆気にとられる。
「それではまず、怒ってください」
「は?」
突然ネルファのIQが下がった。へ? 何だ急に、お、怒れ?
「ゴルァァァァ!! 舐めとんじゃねェぞたわけェェ!! 俺を舐めたら……こう! こんな感じで……こう!!」
一応怒ってみた。
「……すみません。疲れていたみたいです、私」
「えこれ俺が悪いの?」
「少し……整理させてください」
何だろう、マジで疲れてるっぽい。昨日までの遠征とやらが響いたんだろうか?俺らの修業が終わったらゆっくり休んでほしいもんだ。
「……ふう」
どうやら情報の整理がついたようだ。
「改めて説明します。闘気のほとんどは、怒りがトリガーとなります。……先程ああ言ったのは、それが理由でして……」
「わかったよ、要するに上手くキレりゃいいんだろ?」
「はい。その上で怒りを保ち、上手く操ることが前提です」
こりゃ技術が必要になってくるぞ……
という訳でネルファに色々説明してもらい、実践してみる。
「フンガアッッッ!!」
俺とクチクは頑張ってキレまくる。いやこれ予想以上に体力使うな。
その後も色々試してみたが、闘気が出る気配など全く無く。
「無理そうだな……気分転換に外に行って試してくるわ!」
「いいですね、気分を変えるのも一つの手ですよ」
という訳で、俺は王宮のバルコニーで闘気習得のトレーニングを実施することにした。
しかしなぁ……怒りがトリガーか。今別にイライラしてる訳でもないし、目の前に敵がいるわけでもないし……
俺は何かヒントが無いかと赤いエビルウロスとの戦いを思い出す。
木刀はそんなに関係ないとして、あのとき闘気を出せた理由は……火事場の馬鹿力的な、生命の危機に瀕したときに生じる反射的なパワー……そんなとこだろう。
つまりは、だ。
「エビルウロス……」
軽く試行錯誤をして自信を付けた俺はまた訓練所に戻り、脳内でエビルウロスとの戦いを再現する。
いや、それよりも熱く、重く、激しい戦いに。
「ぐっ……………!」
脳内でエビルウロスに殺されかけた俺は、あの時と同じように白目を向くほど全力で力を溜め──
「があああああっ!!」
そのまま虚空へ向けて殴打を放った。
「おお……おお……!! ウワーーー!! やったーーーーー!!」
夢みたいだ、軽く涙を流すくらいには感動してしまった。
あの時と同じ、橙黄色の淡い光。その光が、俺の拳から薄く放たれた。
「なっ、なんという早さで……」
ネルファも驚くほどの習得スピードみたいだ。まあこれは経験からなった物でもあるからな……それにしても嬉しい。
「凄いですよ!一時間もかけずに闘気を放つことができるなんて!分かりやすい例えで言うならば……まだ自転車に乗ったことのない子供が、たった30分練習しただけで乗りこなせるようになるくらい、凄いですよ……!」
「分かりやすいような分かりにくいような微妙なラインの例えだ……」
そして更に修練を積み、時間が経った。
「ンギギギ……フンッ!」
俺は短時間だが拳に、橙黄色のオーラ……闘気を纏うことができるようになっていた。
……肝心のクチクはというと。
「グッ……フンッ……!」
出る気配が全くもってしない。
かれこれ四時間は経っただろう。俺も色々とアドバイスはしたが、それでも出る気配は無かった。
いやこんな残念そうに言ってるけど出せないのが普通なんだわ。エビルウロスの時に闘気出せた俺の運が良かっただけで。
「ハァ……ハァ……全く出る気がしないな……」
「個人差もありますが、一日では習得できない方がほとんどです」
しばし、クチクは考える。
──そして、とんでもない決断をした。
「やっぱり俺は、今日闘気を習得できなくてもいい」
「…………!」
「代わりに、ネルファ。 剣術を教えてくれないか」
突然の頼みに、その空間だけ時間が止まったかのような感覚が流れた。
「……成る程、分かりました。 …………ワロタ殿」
置き去りにしても大丈夫だろうかという表情でこちらの顔を伺う。
「わーってるよ。正直もうネルファに聞きたいことはそんなに無いしな。俺は終わりまでここで闘気の精度上げてっから! お前には剣が一番似合うぜ、頑張れよ」
「すまない、ありがとう」
実際クチクには闘気とかそういう能力形式の物じゃなく、物理的なモノのほうが合うと思う。最初に会った時がそうだった。刀みたいな武器を持ってたクチクはまるで救世主のようでめちゃくちゃにカッコよかったからな。
さて、向こうは剣術を学びに行ったみたいだし、こっちはこっちで何かするか──
「グッフッフ……悩んでいるようだな」
「!?」
気づかなかった。俺のすぐ後ろに突然ミハエール王が現れた。
「ネルファの奴は剣術を教えに行ってしまったみたいだが……お主はやはり闘気を極めるつもりか」
「そりゃあもちろんよ!ちなみにまあまあ出せるようになって……きた!」
喋りながら拳からボッ、と闘気を燃やす。
「ほう、だいぶ様になっとるようだな」
エビルウロスとの戦いを思い出しながら必死に何度もトライしたんだ。かなり疲れたし出せなきゃ困る。
「う〜む……」
ん?何を考えているんだろうか。
「どうせなら、お主も必殺技とか……使ってみたくはないか?」
必殺技!?
なんてこった、もう俺でも必殺技とか出していいのか? ていうか出せるのか!?
「今はまだ簡単な技しか出せぬと思うが……どうだ、あの者らに内緒で、やってみたくはないか?」
「超やりたい! 教えてくだせえ! 先生ェ!!」
先生と呼ばれたのが少し気に入ったのか、グッフッフと上機嫌だ。
「別にミハエールでもいいのだ。皆は堅くなりすぎなのだよ……」
そうして、クチクは剣術を、俺は必殺技を習いに、それぞれの師と修業を始めた。
………………
…………
……
そして最終日。遂に最後の日……ネルファとの決戦だ。
俺は黒い木刀を持ち、王宮のホールへと赴く。
「…………」
クチクの表情が昨日に増して倍くらい威厳を持っている。かくいう俺もそうかもしれないが。
手には、俺の黒い木刀よりは少し細いくらいか……一般的な長めの木刀が構えられている。
そして軽そうな鉄で出来た鎧を着用し準備を整えたネルファが、クチクと同じ木刀を持って奥から現れる。威厳パネェ〜……
「……よくここまで頑張りました。 さあ、今日が最終日です、何をするのかは……もうお分かりのようですね」
そう言いつつ、軽く笑みを浮かべる。
「ハッ、随分と余裕そうだな騎士団長さんよぉ、残念だがアンタが剣術を教えてる間、俺ぁ自己流で適当に鍛えてたワケじゃねえんだ……ちぃとばかしは手こずってもらうぜ?」
「ふふふ、それは楽しみですね」
何やらこの日を待ち望んでいたような……そんな雰囲気が、ネルファから感じる。
「ワロタ、気をつけろ。昨日ネルファから剣術を習って分かった……あれと正面からやり合っても、絶対に勝てない」
「そんなんエビルウロスの時から感じてたさ……大丈夫だ、俺の言ったことはハッタリじゃない。まあまあ手こずらせることくらいはできるさ!」
「……頼もしいな」
勝利条件は一度でもネルファの身体に攻撃を当てること。
見てろよネルファ……パワーアップした俺達の力……全力でぶつけてやるよ!!
ネルファと俺達、両者見つめ合う。 少しの沈黙が続いた後、重力に耐えかねた小さな石が地に落ちる音をゴング代わりに、戦いの幕が開かれた。
「「勝負!」」
王宮の広いホール全体を使った戦い。エビルウロスとの戦いとは違い、周りの物をギミック代わりには使えない……自分の力のみで戦うことが強制される。
「つあっ!」
始まったと同時にダッシュですぐにネルファへと接近した俺は、下から斬り上げる。だが身体を後ろへと反らされ、簡単に避けられてしまった。
「オラオラオラァ!」
当たれば勝ち。それを理由としてとにかく大量に打ち込む。
「では、此方も軽く……はあっ!」
ネルファの爪先から闘気であろうエネルギーの弾が無数に放たれる。
「うおおおっ!? そんなんアリかよ!!」
「クソッ……近付きづらいな……」
必死にネルファの照準から逃れながら俺はなんとかネルファの近くへ戻り、木刀の連撃を打ち込む。だがその直後。
「……あまりにも乱雑。それでは簡単に見切れてしまいますよ」
その言葉と同時に放たれた大振りの一文字斬りによって、俺の身体がホールの壁まで吹き飛ばされる。
「がっは……! 痛え!! 威力おかしいだろ! なんでこんな一振りで……」
俺が吹き飛ばされた直後、その一文字斬りの隙を狙ってクチクが飛び出していた。
「ぬうううらァ!!」
上から重力を乗せて斬るも、ネルファの木刀で軽く受け止められてしまう。
「チッ……隙などあって無いようなものか」
すぐ後ろへとバックステップで戻り、ネルファの様子を伺う。
このままじゃまともに攻撃を入れるどころか、俺達が体力切れでダウンしてしまう。さて……早速使わないとマズいか?
「ワロタ、何か策がありそうな顔だな」
「え? この距離からでも分かんの? …………ああ、秘策アリだ」
「そうか……俺がとにかく斬り入れてネルファの動きを封じる。その隙に秘策ってヤツをブチ込んでくれ……!」
「分かった!」
「……楽しみですね」
クチクがまたネルファへと飛び込んでいるうちに、俺は準備をする。
「…………」
集中。十時間以上闘気を扱い続けた俺が出した結論。怒りつつ上がりゆく闘気に集中することにより、効率的に闘争心を高める。
「故に……!」
最初とは違い、短時間でより長く闘気の放出を維持することが可能となった。
「さあ、ギャフンと言わせてやるよ騎士団長……!!」
拳に橙黄色の炎を纏い、全力で走る。
ネルファがクチクの攻撃に夢中になっている今しかチャンスは無い。迷いなく俺はその秘策を叩き込む。
「────!」
「吹き飛べネルファ!!〝闘争より爆ぜよ〟!!」
突き出した拳から衝撃が発生し、……クチクごとネルファが吹き飛んだ。
「ぐああっ!」
「すまんクチク! お前もろとも!」
「問題ない! それが秘策か……!」
秘策と言ったこれ、それは昨日ミハエール王に言われた必殺技とやらの一つだ。
闘争より爆ぜよ 。闘気を持った拳に強く力を込め、思いっきり突き出すことによって生まれる衝撃波。想像したよりも衝撃が強く、拳の直径一メートル以内にある物は巻き添えを食らってしまうことがある。……それが今クチクに当たってしまった。
「殺傷能力は現時点じゃ無いに等しいが……どうだ?」
「…………ふふ、これは面白い」
まあ分かっていた。俺が横から飛び込んできたのはギリギリでバレていたからな。一瞬の間に衝撃波を木刀で受けられてしまったということだ。本人にはかすりともしていない。
「まさかそこまで闘気を使いこなしているとは……上出来ですね」
「はっは!まだまだだ!俺の闘気全部ぶつけてギャフンと言わせてやるよ」
ニヤリと笑う両者。
その間の後、合図を取った俺とクチクはネルファの元へと全力疾走する。
直後、少し前を走っていたクチクに向けて俺は闘争より爆ぜよを放った。
「──っ!?」
ネルファは予想外の行動に動揺したのか、完全に整っていた筈の呼吸を乱す。
俺の闘争より爆ぜよを背中でモロに受けたクチクはその衝撃で超加速し、一秒の半分にも満たない速度でネルファの眼前へと迫った。
流石の騎士団長と言えど、予想外な行動の直後に至近距離へ詰められてしまえば、反応することは難しいだろう。
「勝負ありだ、ネルファ!」
──そして木と鉄の衝突する音によって、闘いは終わりを告げた。




