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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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105:黒髪メイドに、ダンジョンマスターは崇拝される

 いつものことながら、宴会、である。

 そして、ダンジョンを構築するより宴会会場を設置することのほうが手馴れているダンジョンマスターとは、タツキのことである。


「相変わらず手際いいわね」

 そんな様子を見ながら、料理の下ごしらえをしているのは、転移で合流してきたサツキだ。

「いえ、お嬢様の腕前も見事なものです」

 ステーキに最も適した部位は今朝ほど村民に食い尽くされたが、未処理のボア肉はまだまだマジックバッグ内に大量に残っている。それをマリアが切り出し、サツキが筋切りし、必要に応じてトントン叩いたりしている。


「ひとり身の貧乏暮らしが長いと嫌でも身につくわよ。酒飲みならなおさらね」

 ほめられたのがうれしいのか、あるいは、お嬢様呼びが琴線に触れたのか、何でもないフリをしながらも若干ニヨニヨしているサツキが可愛い。


「確かに、外食は高くつきます」

「おつまみは美味しいのがいいもんねっ」

 そして、その手並みを一生懸命学びながらエルローネとチェリも、筋切り作業に精を出している。


 今回の会場は、村の集会スペース、ではなく、きれいさっぱり何もなくなった村長邸跡地とした。

 高台にあり、湖面に向かってなだらかに低くなっていく村の全容と、傾き始めた陽光をきらきらと跳ね返す湖面、そして、頂き付近に雪を残す山脈が一望できる好立地であったためだ。

 タツキは、館の立っていた、地面むき出しとなっていた部分に、ダンジョンパーツ《石畳》を敷き詰め、6人掛けの灼熱床付きテーブルを削り残してゆく。


「う~ん、結局食材はいつものボア肉だからな。エールは定番の香ばしい系と苦い系にするか。あ、ランク10になったからか、増えてるな。飲んだことのないのも出しとこっと」


 ランクの上昇はもとより、種々の宴会を潜り抜けてきた成果であろうか。

 タツキの褒章の、嗜好品ツリーに鎮座する酒カテゴリーの品ぞろえは充実し、エールだけでも複数の味の違いを楽しめるようになっている。


「椅子も褒章から出すか」

 氷結トラップの上に削り残した台座。

 今回は子どもたちも多いので、誤ってトラップを踏んだりしないよう柵も設けておく。さらにその上にエール樽、果実酒樽、ノンアルコールの樽を並べたのち、次は椅子の吟味に入る。


 削り残した石の椅子も悪くはないのだが、当然ながら動かせないのと、長時間座っているとやはり尻が痛くなるのが欠点だ。ダンジョンコアのエリキシルは、もはや売るほどあるので、屋外においても違和感のない、しかし、座り心地の良い椅子をバンバン作成してゆく。


「で…、クロベニは何してんの?」

「護衛です! 先ほどはマリア殿に助けていただいたので、今度こそ、私が御屋形様を守り抜くのですっ!」

 おそらく事態は収束し、これ以上危険なことが起こるとは思えないが、意気軒高なのは良いことなので、周囲を子犬のようにちょろちょろしまくるクロベニは生暖かく放置することにする。


「で…、そちらのご一行様は?」

「エール樽が並ぶのが見えたんでな、待ちきれない奴らを連れてきた」

 待ちきれない奴筆頭のヴォルドガングが、ガハハと笑いながら村の男衆を連れて会場入りしてきた。


「お~い、坊ちゃん! お頭っ!」

 ほどなくして、フライングマンタに乗った、ダンジョン・タウン留守番チームも合流。

「ない…。村長の館がきれいになくなってる」

「ここって、こんなに眺めが良かったのか」

 村の救援要請を出した、この一連の出来事の発端となった2人も、一緒に戻ってきたようだ。


「タツキー、差し入れもってきたよー」

「あらあら、見慣れない男衆が増えてるわ」

「あんたたちも、帰ってきたのね」


 そして、ルートに率いられ、それぞれが食材を手に村の女性陣も集まってくる。その集団に、どうにも肩身が狭そうにして、両手で魚の干物を抱えたウォルフが混じってるのが面白い。


「早いな。全員集合か」

「みんな、楽しみで仕方ないんじゃないの?」

「お祭りをする余裕なんて今までなかったから、みんなすっごくワクワクしてるんだと思う」


 慌てる主催者に、楽しそうなサツキ。チェリが状況を説明し、

「では、下ごしらえが終わっている分から焼いていきましょう」

赤毛のマリアは黙々と作業を続ける。


 そして。

「やはりご主人様は偉大です」

「な、なんだ、いきなりどうしたんだ?」

 黒髪のマリアがタツキにぴったりと寄り添って、うるんだ瞳で見上げてくるのはなぜだろう。


「今この場所だけでも、魔神窟1日分を超えるエーテル量がダンジョンに供給されています。しかも、そのすべてが期待や喜びの暖かなエーテル。――ああ、このような偉大な主を得ることができて、マリアはメイドとしての至上の喜びを得ております」


 そして、めちゃくちゃ崇拝されている雰囲気なのだが、タツキとしては何となく申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


 節目に宴会。

 それは、ただ自身が、みんなで楽しく酒を飲みたかったがために始めたイベントでしかないのだ。加えて。


「偉大って、俺はただ酒好きなだけで、適当な男だぞ」

「そこです! そこが素晴らしいのです!」


 酒好きで適当。良いと思われる要素はみじんもないのに、マリアのテンションがさらに上昇する。

「大いなる素質をお持ちになりながらも、ワタシども侍従がお支えせねばならない部分をちゃんと残しておられる。敬愛する主人の、脱ぎ散らかしたお召し物を片付け、寝ぐせで跳ねた髪を整えることができる。これこそがメイドの誉れなのです。――ああ、タツキ様、あなたは理想の主人です」


 何が彼女の琴線に触れたのか、さっぱり分からないところだが、ぎゅむむ、とマリアの密着度が上がる。


 何がとは言わないが、サツキ以上(観測値)エルローネ以下(推定値)で、チェリが優勝(実感値)なのは揺るがない。――だが、いずれの値も、貴賤なき、優劣なき人類の幸せであることは間違いないのだ。うん。


 などと、若干混乱しながら。

 あれは大きめの水鳥だろうか。今日はいい天気でよかったなぁ。あと、俺、服脱ぎ散らかしたりしないんだけどなぁ――。

 と、タツキは夕暮れ前の晴天を、忘我の境地で見上げるのだった。


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