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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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113/113

106:生贄の少女は、ダンジョンマスターと乾杯する

 黒髪のメイドさんに大密着され、鼻の下を伸ばしているタツキ。


「ふ、ふふん。お、王家の女は、か、寛大、なんだよっ」

 貴族当主が複数の女性を娶るスタイル。

 それはこの世界においても同様に存在しているらしく、本日、ロイヤルなブラッドを取り戻したっぽいチェリも、頑張ってげっ歯類ほっぺを封印し、大物然とした、涼しい顔でこの光景を眺めようと努力をしているようだ。


 が、しかし。

「チェリ様? チェリ様、落ち着いて~」

「あらら。これは、ハンバーグもメニューに追加ね」


 彼女らの下ごしらえが、筋切りを終え、お肉トントンに移行していたことが災いし、チェリのトントンはダンダンになり、今や グチャッ! グチャッ! と不気味に湿った音に移行しつつあったりする。


 ――そんな、料理が一品増えるハプニングもありながら、ほどなくして、フライング集合した村人たちに飲み物がいきわたり、


「よーし、今回はめでたいことが2つある。変則的だが乾杯は2回やるぞ!」

と、タツキが宣言する。


「最初は、なんといってもミアズナ防衛戦の勝利だ。あの訳の分からん大群相手に、みんな本当によく頑張ったっ! 俺たちの勝利に乾杯だっ!!」

「「「乾杯っ!!」」」

 わっと、喜びのエーテルが弾け、すでにダンジョンとなったミアズナの地面に吸い込まれていく。


「そして次はだな――」

 村人たちの杯が空けられると、飲み物のお代わりを、赤毛と黒髪のメイドたちが、一糸乱れぬ動きで配り歩く。


「お、おにぃ」

「ん?」

 その光景を見たサツキが、目元をごしごしとこする。

「メイドさん増えてない? 残像?」

「そんな馬鹿な!?」

 確かに、元村長の屋敷跡である高台には、村人が総出で集まっており、子どもたちも含めると80名くらいだろうか。

 給仕は黒髪のマリア本体と、赤毛のマリアのドッペルゲンガー、そして、エルローネとロベルトも手伝ってくれているが、それでも2回目の乾杯までにはしばらく間があるだろう。


 そう思っていたのだが。

「――ご主人様、飲み物の準備が整いました。ご発声をお願いします」


「ひぃっ!?」

 いつの間にかすぐ隣にいた黒髪のマリアにタツキは悲鳴を上げる。

 村人の中にも、いつの間にか満たされていた自分の杯を見つめ、あれ、俺飲んでなかったっけ? と、不思議な顔をしている者が多数。


「…ふ、深くは考えないことにしよう。考えてはいけない気がする」

「そうね。まさか、《万能メイド》のミームを、この目で見ることになるとは思わなかったわ…」


「――万能メイド…。サツキ様、身に余る光栄です」

 そして当の本人は無表情の中にも、どこか達成感を漂わせている。


「ご、ごほん。じゃぁ、腹も減ってきただろうし、さっさと2回目の乾杯をしよう!」

 気を取り直して告げた言葉に、村人たちからも歓声が飛ぶ。


「よしっ、チェリ、おいで!」

「へ? は、はいっ!」

 あの後、サツキの指導の下、そぎ切りした肉を叩きまくり、ミート100%ハンバーグを量産したチェリは、無事怒りが発散できたのか、ポカンとした顔でタツキの隣にやってくる。


 そして、タツキはチェリと並んで村人たちに語りかける。


「皆も知ってのとおり、村長は逃亡し、ミアズナは今、俺のダンジョンの一部となっている。つまり、この村は、俺たちのダンジョン・タウンに組み込まれたわけだ。だから――」


 我が身のことか――。

 そう理解した村人たちの表情が真剣なものに変わる。

 そして、タツキが、その先を継ぐ前に声を発する。


「俺たちはダンジョンマスターの坊ちゃんに命を救われた。だから、今までのわだかまりは捨てる。あんたが新たな村長だ。なんでもするから言ってくれっ!」

「ああ。税だって喜んで納めよう!」

「作物や干物も、これまでどおり一生懸命作って納めます!」

「だから、今までどおり、私たちをここで生活させてくださいっ」


 あれ? とタツキは首をかしげる。

「いや、さすがに出ていけなんて言わないから、安心してほしい」


 そして、どことなく既視感を覚える空気ではないか。

「え、ええと、ちなみに、前の村長には、どれくらい税を納めてたんだ?」

 ゆえに、興味本位で聞いてみたのだが。


「魚が3匹取れれば、2匹を納めていました」

「…七公三民じゃん。ブラックの鏡ね」

 ぼそり、とサツキが呟いたのを聞いて、タツキは気づいてしまった。


「ああ...あれだ。この既視感は、例によって出てこないけど、あれかぁ…。出てこないのに、若干親近感を覚えるのはなんでだろ?」

 彼らは国の直轄領という組織に、畜生のごとく働かされ、それが当たり前となってしまい、心が摩耗している状態なのだ。


「これは、絶対に前よりも住みやすく、そしてホワイトにしないとな」

 そう呟いて、タツキはチェリの耳元でこそこそと囁く。


「はいっ、お任せくださいっ!」

 それを受け、チェリは嬉しそうに宣言する。

「みんなっ! タツキ様の言葉を伝えるね! 今度から、魚が10匹取れたら1匹納めれば良いんだって。それから、ご飯が毎日食べられるようにするし、お風呂も入り放題にするよ。あ、清潔なお洋服も用意するからねっ!」


「「「はい???」」」

 全村民が、ぽかん、である。宇宙に上がった猫状態である。


「おい、税が減ったのに…、飯やら風呂やらがもらえるって聞こえたぞ? まだ俺は1杯しか飲んでないが、なんでか酔っ払っちまったようだな…」

「あっはっは、おまえ何言ってるんだ。そんなわけないだろう。税を減らす代わりに、俺たちが皆さんの飯を作って、風呂を準備しろって話なんだろ?」

「ええっ!? たったそれだけで税が半分以下になるなら、私は喜んで作るよっ! 風呂だっていつでも準備しておくさっ!」


「あああああ」

 どうやらホワイト環境を理解することを、脳が拒否しているようだ。

 見事な**根性である。

 タツキは思わず頭を抱え、それをチェリがよしよししてくれる。


「ええとだな、皆さんの家の前にこのような――」

 村人たちに染みついた**根性。

 それが邪魔して話がまったく進まないので、タツキが実演販売よろしく、自身の前に小さな宝箱を出現させた。

 ダンジョンの低階層に沸くような、粗末な木製のものだ。


「――宝箱を設置してある。そこに、家族の人数分、食べ物と、衣類が沸くようになっている」

 実演販売助手のチェリが宝箱を開ければ、そこにはお馴染みの、ダンジョンマスター初期セットが入っている。つまり、粗末な貫頭衣と、銀色の素材で包装された栄養バー、そして、透明な容器に入った透き通った水だ。


「水は1日3回、それ以外は1日1回、自動的に補充されるようになっている。取り出さなければそのままで、箱から溢れたりはしないし、腐ることもない」

 本当に、ダンジョンシステムはファンタジーだとタツキは改めて思う。


「これは、こうやって食べるんだよ」

 チェリが、銀色の包装紙を破いて、中の焼き菓子のような栄養バーを村人に渡す。


「あ…、甘くて、うまい…」

「本当か? お、俺も味見を」

「私にもっ!」


 あはは、これ、おいしいよねぇ、とチェリは笑って、

「これからもっと美味しいもの食べるんだから、ほどほどに、だよ?」

せっせと村人に、ダンジョンマスターの栄養バーを配っていく。


「ま、まさか、見るのも憎らしいこのアイテムに、これほどの使用価値を見出されるとは…!」

 そして後ろでまたしても、全力で《さすごしゅ》しているメイドがいるが、とりあえず無視する。やはり彼女も、初期の頃はこれしか食べられなかったのだろうか、という親近感は若干沸いたが。


「そして、当然だが、これらはすべて君たちのものになる」

「「「!!??」」」

 村人たち、宇宙猫、再び。


 ではあったが、実演を経て、村人たちもある程度の実感を得たのだろう。ダンジョンに流入する喜びのエーテル量は確実に増大している。


「まぁ、この辺が頃合いかな。チェリ、頼む」

「はいっ! みんな~、いつまでもびっくりしてないで、乾杯するよっ!」

 チェリが、杯を片手に一歩前に出る。


「2回目の乾杯はね、ミアズナの新しい出発をお祝いするんだよっ! 今までは、生きていくだけで一生懸命だったけど、これからは、みんながお腹いっぱい食べられる、豊かな村になるんだよっ!」

 喜びのエーテルに輝きながら、村の未来を語るチェリは、本当に幸せそうな顔をしている。この、他者の喜びを、自分の幸せとして感じられる感性こそが、彼女のカリスマの源泉なのかもしれない。


「イイモノのダンジョンマスター、タツキ様が、この村を守るから、困ったことがあったら何でも相談してねっ!」

 

 明るい未来を幻視したのか、涙ぐむ者までいる。

 うん、この辺はさすが王女様だ、と、タツキはチェリの言葉を引き継ぐ。

「ちなみに、俺はすでにダンジョン・タウンの長だから、ここの村長にはなれない。ミアズナの新村長はチェリってことにしたいが、皆、いいかな?」


「うんうん、私が村長で――? 村長?? そ…? ふぇえええっ!?」

 こてり、と首を傾げた後、顔を真っ赤にして慌てるチェリ。


「彼女は、ここでは穢れと呼ばれていたようだが、反対する者はいるか? 別に咎めはしないので、わだかまりがある者は正直に教えて欲しい」

 ここでこんなことを言うのは卑怯かな、とも思ったが、大事なことなので、タツキは今一度釘を刺しておく。


「坊っちゃん、本当にもう、勘弁してください。誰一人として、今更そんなことを言うやつは誰もいねぇよ。なぁ、みんな!?」

「おう! チェリ村長、これからよろしくお願いいたしますっ!」

「「「チェリ村長!」」」


 湧きあがる歓声と、チェリ村長コール。


「た、タツキ様ぁ」

「良かったな、チェリ。困ったことがあったら、ウォルフやエルローネに聞けばいいんだよ。みんなで支えるから、やってみな。もちろん俺もいるよ」


 困惑で、へにょん、と垂れ下がっていた耳が、その言葉でピンと立つ。


「えへへ。みんな、ありがとうっ! 困ったことがあったら、何でも気軽に相談してね! それじゃ、お腹もすいたし、乾杯しよっかっ」


 そして、チェリの杯は、天に向けて高らかに掲げられた。


「それじゃ、ミアズナの新しい未来に――、乾杯っ!!」

「「「乾杯っ!!」」」


***


 美しい湖と、一年を通して、純白の雪を頂く壮大な山脈。

 それを一望できる、湖畔の都市は、後に《王女の避暑地プリンセスリゾート》と呼ばれる一大観光地となる。


 それは、イイモノのダンジョンマスターとともに歩んだ生贄の少女が、最初に残した足跡だった。


4章、何とか終わりました…。まったくプロットなしで、行き当たりばったり書いてきたので大変でした。こんな無軌道なものにお付き合いいただき、深く感謝申し上げます。

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