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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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104:メイドさんの真実を、ダンジョンマスターは知る

「それではご主人様、改めて、目の前の些事はワタシが対応いたしますので、成すべきことに着手くださいませ。しかしながら、その前に――」


《転移申請がありました。許可しますか? 申請者はマリアです》


「――いつまでも、仮初の姿のままというわけにはまいりません。どうかご許可いただけますようお願いいたします」


 そういえば、とタツキは気づく。

 このメイドさんは、赤毛だ。


 ダンジョンマスターは、コアからエネルギー供給を受けている関係上、己のダンジョンを離れることができない――というか、己がダンジョンの一部のような存在である。つまり、ダンジョンマスターである彼女は、タツキのダンジョンに赴くことはおろか、自身のダンジョン外にすら出られないのである。


「もちろん、許可するよ」


 一方で、その極端な制約は、裏では権能に繋がってる。

 ダンジョンマスターは、自身のダンジョン内であれば、どこでも一瞬で移動可能なのだ。ダンジョンと深い融合が、転移、すなわち、領域内での己の分解・再構築を可能としている。


「ありがとうございます。それでは――」


 サツキのダンジョンはバーサスモードで制圧してしまったが、マリアのダンジョンはタツキの管理下にあり、彼女のコアは《マリアのコア》という、ユニークな《サブコア》として《ダンジョンマスターの本能》に認識されている。

 ゆえに今、タツキのダンジョンはマリアのダンジョンであり、逆もまた真であるのだ。


「――お伺いいたします」

 そして、音も気配も伴わず、


「はえ? ま、マリアお姉ちゃんが2人!?」

「はぁっ!? え…、おい、マリア…? マジか? ダンナの、同類…?」

「黒目、黒髪、ですよね…」


赤毛のマリアの隣に、黒髪のマリアが現れた。


「髪色を変えられるとは知らなかったな」


 ダンジョンマスターの本能に記載された彼女の《親和》は、タツキと同じ《魔族》。

 故に、赤毛のマリアは、彼も便利に活用している《二重に歩く者ドッペルゲンガー》だろう、とタツキは当たりをつけている。


 それはマリアの本体のいる地点からここまで、人々に怪しまれずに旅をするための現身アバターだ。彼女がチェリやロベルトの既知であったことから考えると、彼女はこの姿で日常的に情報収集を行っていたのだろう。


「たしかに、ドッペルに《ユニット視点》でリンクして、外で生活してもらえば、外界の情報が得られる」


 他者ではなく、自身の姿を写すことにも一定のメリットを感じる。


 ダンジョンで死んだ何者かをコピーしたとしても、長く生活することで、身内や、たとえ身寄りのない者であったとしても、知人バレの危険性が日を追うごとに高まっていく。しかし、自分をコピーすれば、その可能性は皆無だ。複雑な対応を要する時は憑依してやればよく、その時の挙動を学習したドッペルゲンガーは、さらに己に近づいていくことだろう。


「これは思いつかなかったな」

 その発想に至ったタツキは感心する。


 タツキ側の情報収集担当は、今頃はクワナズーマにいるだろうトーマスだ。彼は商人としてダンジョン褒章を売却し、このダンジョンに不足する物品と、そして情報を持ち帰ってくれる。しかし、別系統として、自身をコピーしたドッペルゲンガーを放ってもよいのではないか。

 そう考えて、マリアに、このプランの最も重要と思われる点について質問する。


「ちなみに、どうやってこいつの髪色を変えているんだ?」


 タツキの得意ユニットは《亜種》。一方の、マリアは《魔種》だ。つまり、魔種に属するドッペルゲンガーの扱いがタツキよりも熟達しているため、変身時に要件指定などができるのではないか?


 などと聞いてみたが、

「いえ。姿を写させた後に、染めればいいのですよ。ご主人様」

至極まっとうな答えが返ってきた。

「…お、おおぅ、力技。――いや、言われれば当たり前のことだな…」


 ちなみに髪染めはダンジョン褒章にあるらしい。

 さすがはサツキに《雑貨屋×酒屋》と言わしめた魔族系褒章である。


「そして、改めまして皆さま」

 黒目黒髪メイド服。その、白い肌も相まって、白黒の2色で構成された麗人が、事態の急展開に目を白黒させている面々に対し、深々と礼をする。


「お初お目にかかります。ワタシは王都に隣接するダンジョン、魔人窟のダンジョンマスター、マリアでございます」


「「「えっ?」」」

 ダンジョンチームの時が止まる。なお、事態を遠巻きに観察していた村人たちの時は、マリアがもう1人のダンジョンマスターとして現れたあたりから止まりっぱなしだ。


 何か今、すごいパワーワードを聞いた気がする。

「ええと…」


 パワーワードの威力が大きすぎて、脳が理解を拒否し、そして、もう一度彼女に問い直そうと思った矢先、


『おにぃ!』

「敵性感知!?」

すぐそばで赤色がはじけた。

 この混沌とした状況下でも、冷静に状況をモニターしていたのか、警告を発してくれたサツキの声に我に返る。


「世界は定めのままに無に帰すのだっ。誇り高き我らは、このような、歪んだ延命など望んでいない!!」

「御屋形様っ!」


 クロベニに罪人のように縛られていた《神父然とした男》の輪郭が突如崩れ、

「世界を歪める存在よっ! 無から有を生み出す者たちよっ!」

「い、イロナシっ!?」

「人にもなれるのかっ!?」

体表面に油膜のような虹色の紋様を蠢かせた不定形の存在になり替わると、ロープによる束縛をすり抜けてタツキたちに襲いかかってくるではないか。


 それを防ぐにはロベルトは遠く、居合の構えで駆けだそうとするクロベニも、わずかに届かず、

「黒き者たちよっ! 世界の敵よっ! 白に還るのだーっ!!!」

 油膜浮かべる泥濘が発するぐももった声とともに、虹の結晶のような、このような状況下でなければ美しいと思えたであろう凶刃が突き出され、


 ぺち。


「「「え?」」」


といった感じのモーションで。


 赤毛の方のマリア、すなわち、《二重に歩く者ドッペルゲンガー》と思しきメイドさんの、どこからともなく取り出した、古風な箒の一撃が――一拍ののち、ドムッっと腹に響く衝撃波が足元を駆け抜けたが――、それを、ダンジョン床に叩きつけ、こびりついた染みへと変えてしまったのだ。


「ご主人様」

「あっ、はい」


 もはやこの場の全員が、初めて**を見たネコのような顔になっているが、当のマリアは平常運転。

 赤毛のマリアから箒を受け取り、床の染みを掃き清めると――何故かそれだけで綺麗になる不思議――、改めてタツキに挨拶をするのだった。


「お雇いくださいましてありがとうございます。今後もこのような些事は、すべてワタシにお任せください」


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